【#11】ティーシャとの新しい関係


 ……その夜、あれからティーシャはフリールームに泊まっていった。


 ──それから、翌朝。


「ふぅ~~、気持ちよかった♡」


 ガラガラと浴室のドアが開き、身体にバスタオルを巻いたティーシャが出てきた。


 ほんのりと濡れた銀髪ミドルショート。血行が良くなって黒ツヤが綺麗になったハーフサキュバスの翼や尻尾。


 その白くてきめ細やかな肌は、暖かい湯気に包まれてさらに魅力的になっていた。


 ティーシャのお風呂上り……やばすぎる!! 恥ずかしくて目が合わせられない!!


「アヤカちゃん、お風呂借りました〜。ありがとね〜♪」


「え、えぇ! お気になさらず!?」


 ふわ〜っ! ティーシャが近づいてくると、全身からいい匂いが漂う!! これがハーフサキュバスの恐ろしさか!? やばい、意識がもっていかれて──!!


「──そうだ、アヤカちゃん」


「はいっ!?」


「?? どしたの、そんなに驚いて?」


 ティーシャは不思議そうにまばたきした後、一瞬でメイド服に着替えて話を続ける。


「まぁ、いいや。とりあえずNINE(ナイン)の連絡先、交換しよ?」


「えっ!?」


 NINE(ナイン)──仕事からプライベートまで幅広く使われている大手メッセージアプリだ。その連絡先を交換するという行為は、ますますティーシャとの繋がりが強くなるワケだ!!


 あわわわわ、なんか来るところまで来てしまった気がする……!!


「ティーシャの連絡先だなんて……そんなすごいもの頂いていいんですか!? もはや国家機密レベルのものじゃないんですか!?」


「もー、大げさだよ〜? 別に連絡先くらいどうってことないよ~。それにさ──」


 すると、ティーシャは屈託のない笑みでこう言ってきた。


「これから先は必要でしょ? "友達"として、ね?」


「!!」


 ──ピローン♪ 《交換完了》


 ”友達”。


 今、ティーシャはそう言ってくれた。友達なんて、もう何年も聞いてない言葉を。しかも、まさか憧れの人からそれを言ってもらえるなんて……!!


(ありがとう、ティーシャ……)

 

 目の奥から涙が込み上げてきたが、グッとこらえて我慢した。もしティーシャにバレたら恥ずかしいから。……でも、本当にうれしかった。


 そんな時、ティーシャがスマホを見て声を上げた。


「あ、いけない! ──ごめんね、アヤカちゃん! 本当はもっとゆっくりしたいんだけど、このあとネットラジオの公開生が入っててさ……」


「あぁ、そうでしたね!」


 今日はティーシャが定期的に配信しているネットラジオの日だった。色々ありすぎて忘れてたが。


「お仕事、がんばってきてください!! 公開オンエアされたらすぐチェックしますので!!」


「ふふっ、流石はガチの猫民ねこみんだね♪ それじゃ、頑張ってこなくちゃ!」


 ティーシャは「むん!」と両手で握りこぶしを作り、それから部屋の奥に鎮座ちんざするフワンちゃんの方へ手を振る。


「フワンちゃんも元気でね!! また来るから!!」


「ピィ~~♪ ピィ~~♪」


 フワンちゃんへの挨拶が終わると、ティーシャは名残惜なごりおしそうに俺の方を見て言う。


「それじゃ、アヤカちゃん。お元気で」


「──ハイ。また……また一緒に冒険してもいいですかね?」


「もちろんだよ♪ それじゃ、行ってきます! 詠唱キャスト──【ワープ・リフト】!!」


 そして、ティーシャの転移魔法が発動し、彼女はその場から消えた。まるでこれまでの時間が夢の一時ひとときだったかのように。


 ◇◆◇◆◇


【ティーシャのネットラジオ、放送開始】


『こんにちわ~~♪ ティーシャのダンジョン放送局のお時間で~す♪』


 :こんティシャ~~

 :お! ちゃんとラジオ間に合ってる!!

 :完全に寝ちゃってたもんな~w

 :ティーシャ、あのあとは大丈夫だったの?


『そうそう。配信見てくれた人はご存じだと思うけど……昨夜はアヤカちゃんと飲み比べバトルしてました。ぶっちゃけると、ちょっと二日酔いで死にかけてまーす……。もうアヤカちゃんには二度と飲み比べは挑まないよ~~』


 :それが一番だな

 :あんなスキル持ってるヤツには無理だわな

 :結局、配信終わった後どうなった?


『え? あれからはアヤカちゃんのフリールームに泊まって、それから……あ、いやなんでもない』


 :!? なんかあったな!?

 :酒クズちゃんが襲ってきたとか!?


『へっ!? いやいや!? 大丈夫だって!? アヤカちゃん、別に襲ってきたりはしてないから!? てゆーか、女同士だよ!?』


 :そーかなー?

 :ゆーて、酒クズちゃんもかなりのファンだし……ゴクリ


『ないないない!? いくらなんでもそれはないよ!! そもそも……お、女の子同士なんて現実にはほとんどないんだから!! ほとんどね!!』


 :顔真っ赤で草

 :ティーシャは”男の気配”がなさすぎて、逆にそういう趣味なんじゃないかって言われてるもんな


『そうなんだよね~~。なんかよく誤解されて困っちゃうよ~~。べ、別にアヤカちゃんとも何かあったわけじゃないからね!?』


 :ジーーーーーー<●><●>

 :怪しい~~~~~~

 :何もなければわざわざ言わない気がするが


『と、とにかく!! 今回のコラボでアヤカちゃんと仲良くなれて良かった、って話!! 実はNINE(ナイン)の交換とかもしてきちゃって~~』

 

 :えぇ~~~~!? いいなぁ~~~!?!?

 :酒クズちゃん……羨ましいヤツ!!

 :もしかして、またコラボの予定とか考えてる?


『うん♪ また近いうちにやる予定~』


 :うぉぉおおおおおおお!!

 :これは熱い!!

 :またあのコンビが見れるのか……!!


 ◇◆◇◆◇


 ~放送終了後~


【ティーシャとアヤカのNINE(ナイン)会話ログ(二人以外は見れないプライベート設定)】


 ティーシャ:やっとお仕事終わったー!(スタンプ:アザラシ着ぐるみのミニティーシャ) 


 アヤカ:お疲れ様です!!(スタンプ:手を振るミニティーシャ)


 アヤカ:ラジオ見てましたよ~。流石のトーク力でいつも面白くてすごいなーと思ってます……!! 


 ティーシャ:ありがとー!! でも、あたしだってそんなに場慣れしてるワケじゃないからね? 結構やる前は緊張とかするし……


 ティーシャ:ところでさ

 

 ティーシャ:アヤカちゃんがよければ、新しい撮影ドローンをプレゼントしようと思うんだけどどうかな?


 アヤカ:……え!? 撮影ドローン頂けるんですか!? でも、あれって結構お値段するんじゃ……!?


 ティーシャ:お金は気にしないで!! これはアヤカちゃんの新たなる門出かどでへのプレゼントってことで!!


 アヤカ:あ、ありがとうございます!! 流石にそこまで高度なモノはクラフトでも作れなさそうだったので……。本当に助かります!!!


 ティーシャ:いーのいーの♪ じゃあ、なるべく早い方がいいだろうし、明日のお昼にアヤカちゃんのいる渋谷ダンジョンでお渡しで大丈夫?


 アヤカ:オッケーです!!


 ティーシャ:よしよし。それじゃ、また明日連絡するねー


 (一分後……)


 ティーシャ:……あのさ

 

 アヤカ:? どうしました?


 ティーシャ:あたしがハーフサキュバスって知って……正直どう思った? 


 アヤカ:それはもちろん驚きましたけど……


 アヤカ:これからもわたしはファンを続けますよ


 アヤカ:たとえハーフサキュバスでも、


 ティーシャ:アヤカちゃん


 ティーシャ:……ありがとう

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