【#8】打ち上げ!

【渋谷ダンジョン・地下16階】


詠唱キャスト──マスターキー!」


 目の前に光の扉が現れて、ティーシャが「わぁ〜!」と歓喜の声を上げる。そんな彼女に対し、俺は少し恥ずかしさをまじえながら言う。

 

「このフリールーム、"最初のお客さん"がティーシャで良かったです……!! なぜなら自分の推しを部屋に招待できるなんて、何にも変えられない幸せですから!!」


「ちょっとぉ大げさだよ~~♪」


 頰に両手を当てて笑うティーシャ。その後、彼女は冗談っぽく向こうを指差して言う。


「それに、それならフワンちゃんも"最初のお客さん"だよね!?」


「ピィ〜♪」


「た、確かに……!? それはそうですね」


 2メートル超えの白いモフモフ鳥、ギガント・シマエナガのフワンちゃん。


 この巨大モフモフ鳥はすっかり俺達になついており、これからフリールームで飼うことになっている。


「よしっ!」


 それから一度フリールーム内へ入った俺は、部屋の中から上半身を出して手招きする。


「どうぞ! これで二人もフリールームへ入れるようになりました!」


「わーい♪」「ピィー♪」


 こうして、ティーシャとフワンちゃんもフリールームへと入室させることに成功した!


 ◇◆◇◆◇


 それからフリールーム内にて。


 俺は今回の冒険で得た魔力を使って、必要なモノをクラフトしていく事にした。


「まずは……お風呂ーーー!!」


 ボン! 部屋の隅にシャワー付きの湯船が出現する!! 小型浴室付きでリラックスできる空間に! 


「それと……お酒をお願いしまーす!!」


 ボン! テーブルの上に大量の酒が現れる!! 今回はたくさんモンスター倒してきたから大盤振る舞い!!


 :まさにやりたい放題だな!?

 :まるでファミレスのオーダーみたいな気楽さだ……

 

「すっごいね~~!? 【クラフト】ってなんでもできちゃうね~!?」


 ティーシャは目の前に出現したお酒を前にして、まるで子供のようにはしゃいでいた。


 そんな彼女を微笑ましく見ていると、ティーシャがこっちを振り返って提案してきた。


「それじゃ、今日はここで打ち上げしちゃおっか♪ ──いいかな、アヤカちゃん?」


「も、もちろんですよ!! 他でもないティーシャの頼みですから!!」


「やった~!!」


 ティーシャは両手を上げて喜んだ後、テーブル上のビールに気づいてフフフと笑う。 


「そうそう、今日はあたしもお酒飲んじゃうよ~~!!」


 :なにっ!?

 :ティーシャが飲酒!?

 :神回きたーーーーー!!!


 それから俺達は打ち上げの準備にかかった。


 お酒はもちろん、ピザやチキンといった食事もクラフトで次々と作っていく。


 そのままテーブルの上にドンドン追加していき、気が付けば食卓がかなり豪華に!! よしよし、頑張ってダンジョンでモンスター狩った甲斐があったな。


 そんな中、俺に求めるような鳴き声がした。


「ピィーー!! ピィーー!!」


「あっ、そうだ! フワンちゃんにもご飯あげないと!」


 フワンちゃんが口をパクパクしてエサを要求していた。俺は急いでモンスター用の生肉をクラフトする。


「はい、どーぞ♪」


「ピィ~~~~~!!」

 

 生肉を口元へ近づけると、ガツガツとそれを食べ始めた。身体がデカい分、たくさん食べるタイプらしい。これは食わせ甲斐がありそうだな……。


 そんなことをしているうちに、打ち上げの準備が完了した。そして──。


「「かんぱーーーい!!」」「ピィ!!」


 いよいよ打ち上げが始まった!! 乾杯の後、俺とティーシャは食事へと手を出していく。


「おいしぃ~~♪」


 ティーシャはピザを片手にブランデーを飲むゴキゲンなスタイルであり、こころなしか気が緩んだような笑顔で語り出す。


「あーあ、久々に飲んじゃった!! 普段は体型維持のために節制してるから滅多に飲まないんだけどぉ〜……今日はハメ外していっぱい飲んじゃちゃおっかな〜!?」


 :ええぞ!! ええぞー!!

 :酔ったティーシャ、あまりにも可愛すぎる……!!

 :そういや、ティーシャのお酒事情あんま知らないかも。強い方なの? 弱い方なの?


 その質問に対し、ティーシャは誇らしげに胸の下で腕組みしながら言う。


「ふふふ〜♪ 実はあたし、結構お酒には自信あるよぉー? ──そうだ、試しに飲み比べで勝負してみよっか? アヤカちゃん?」


「えぇ〜!? わたしですかぁ〜!?」


 俺が冗談っぽく困ったふりをしてたら、ティーシャがとろけた目で挑発してくる。


「どう? 怖気おじけづいた?」


「いえ。そういうわけでは──でも、多分やめといた方がいいですよ?」


「んー? なんでー?」


「ふふっ、それはですね──その勝負、ですよ♪」


 :うわ!?

 :うざーーーーー!?

 :イキリ酒クズで草


「よーーし!! やってやろーじゃん!!」


 気合いを入れるように立ち上がるティーシャ。すでに酔っているせいか、妙にテンションが高い。


 :おぉーーーーー!?

 :……なんか変な戦いがはじまった!?

 :ティーシャ!! やってやれ!! そして、酒クズに恥かかせたれ!!


 コメントも大いに盛り上がる中、ティーシャは俺を見下すようにして恍惚こうこつとした笑みを浮かべながら言う。


「あ〜あ♪ 早くアヤカちゃんに勝って見てみたいなぁ〜!! あたしにあっさりと負けて、情けなくもだえながらいつくばってるトコロ♡ 」


 :ティーシャ、”ドSモード”突入してない!?

 :……なんだか興奮してきたな!!

 :頼む!! オレのこともさげすんでくれーーー!!

 :↑変態はお帰りください


 ……というワケで、天霧アヤカおれVSティーシャの酒飲み対決が始まった!! 


 ◇◆◇◆◇


《30分後》


「も、もう飲めないよぉ~~~!!」


 ティーシャはグルグルと目を回してから、バターンと横になってついに”その言葉”を口にした。


「ギブ~~。降参ギブアップだよぉ~~」


「ピィー!!」


 ボクシングの審判みたく、俺の方へと片方の翼を上げるフワンちゃん。これ以上の戦いは無用だった。


「フフフ♪ 宣言通りわたしの勝ちですね、ティーシャ♡」 


 俺は追加のジョッキをゴクゴク飲んだ後、「ぷはーっ!」と熱い息を吐きだして言う。


「勝負も決したし、そろそろ”種明かし”しましょう。実はわたしは【はがね肝臓かんぞう】というスキルを持っていて、その効果で”酒を無限に飲む事ができる”んです」


「えぇ!?」


 ティーシャは横に倒れたまま、アワアワした表情で聞き返してきた。

 

「じゃあ、この勝負は最初から勝ち目がなかったって事!? アヤカちゃん、酷いよぉ〜!?」


 :ズルいぞ、酒クズちゃん!!

 :酒をいくらでも飲める……?? とんだチートスキルだな!?

 :チートっちゃチートだけど、あまりにも地味すぎるチートで草

 :まさに酒クズちゃんだからこそのスキルって感じだな


「でしょ~? まー、わたしとしてはメリットしかないですから!! ……あれ?」


 その時、隣からスー、スーという寝息の音が聞こえてきた。まさか?


「むにゃぁ……まだ飲めるのにぃ……」


「──あらら、寝ちゃった」


 腕で枕を作りながら、テーブルに突っ伏した状態で眠るティーシャ。


 アルコールで真っ赤になった顔に、ペタンと垂れ下がった猫耳。それはまるで天使のような寝顔で、いつまでもこのまま眺めていたかった。……まぁ、流石に放置はしないが。


 俺は頭を横にフラフラさせつつ、撮影ドローンに向けてめの挨拶をした。


「えっとぉ~~、すいませぇ~~ん。ティーシャが眠ってしまったので今日の配信はこれで終わりで~~す。本日はありがとうございましたぁ~~~~。おやすみぃ~~~♪」


「ピィ~~~!!」


 俺の隣で手を振るフワンちゃん。すっかりマスコットだなぁ……。


 :乙

 :楽しかった!

 :酒クズちゃん、ティーシャの介抱たのんだよ~


《配信終了》 


 ◇◆◇◆◇


(さて、”もう一仕事”残ってるな……)


 配信終了後。ティーシャはまだテーブルの上で寝ていて、まったく目を覚ます気配もなかった。


 そうだ、フワンちゃんの上に乗せてそのままベッドまで運んでもらおう。えーっと、フワンちゃんは……?


「ピー、ピー……ZZZ……」


 ……寝るの早いだろ!?


 うーーん、なるほど。つまり、ティーシャは俺自身の手でベッドまで移動しないといけなくなったワケか。


 仕方ない。ここはもうひと頑張りだ。それが終わったら、シャワーでも浴びてクラフトで作ったソファで寝よう。


「あの、ティーシャ。ちょっとお身体失礼しますよ?」


 俺は爆睡中のティーシャにそう言うと、彼女は「うぅ~~ん」と唸りながらこう返してきた。


「むにゃぁ~~♡ ホットミルクの温泉最高~~♡ 飲んでもあまぁ~~い♡ ふふふふふ♡」


 ……どんな夢なんだ? まぁ、いいや。


「行きますよ~? ──それっ!!」


 そうしてティーシャを担ぎ上げようとした、その時だった。


「あっ」


 俺の腰にあった妖刀のさやが、ティーシャの身体にコツンと当たってしまった。それだけならまだ良かったが──。


 ──ボン!!


 その時、俺は信じられない光景を目の当たりにした。


 姿

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