【#7】珍獣、ギガント・シマエナガ
【渋谷ダンジョン・地下16階】
「……待って! アヤカちゃん!!」
森の中を歩く道中、ティーシャの猫耳がピクッと動いた。そして、そのまま近くの木の後ろに隠れるよう
俺はとりあえず指示に従うものの、小声で聞いてみる。
『あの〜どうしたんですかぁ?』
『ヤバいよ!? アヤカちゃん……!! アレ見て!?』
どうやら普通じゃない様子。
ティーシャがヤバいと言ったもの。それは──。
「ピィ!! ピィ!!」
『な、なに~~!? あのデカい
思わず(小声で)叫んでしまう俺。
その鳥の体長は2メートル超え。その巨体は大福のように丸い体型をしていて、全身がフワフワモフモフの白い毛で覆われていた。
たとえるなら、白いひよこがそのまま巨大化したようなヤツだった。当然配信でも見たこともないモンスター。
「なんなんですか、あの可愛いモンスターは……??」
「あれは……”ギガント・シマエナガ”だよ!!」
「ギガント・シマエナガ!?」
:なにそれ?
:ティーシャ、知っているのか!?
:名前のインパクトすごいね
:詳しく!!
俺もリスナーも共に困惑している中、ティーシャはモンスターに視線を合わせたまま興奮した口調で話す。
「ギガント・シマエナガはね、あたし達の世界で”激レアモンスター”として語り継がれてる鳥類モンスターなの!! まさかダンジョンで遭遇できるなんて……!!」
:マジか!!
:そっか、ティーシャ出身の異世界とダンジョンって繋がってるもんな。だから、あのギガント・シマエナガちゃんも流れ着いてきた感じだ
:にしても、運が良すぎる!! 今度はレアモンスターだなんて!!
:↑それな。酒クズちゃんが配信に出る度に何か起こってる
「い、いやぁ~、それも偶然ですよぉ~!? アハハ……」
とは言うものの、確かに立て続けに幸運が続いている。もはや怖いくらいに。……まぁ、考えてもしょうがないんだが。
それよりも、今はギガント・シマエナガちゃんの方だ。隣ではティーシャが
「うわぁ!! 見て、アヤカちゃん!! ウワサ通りのモフモフ感♡ 早く触りたくてたまんないよぉ~~~~♡」
「そうですね〜♡ あのモフモフに身を預けてお昼寝してみたいですよ〜♡」
:どっちも興奮してて草
:まぁ、確かにあの可愛いフォルムは女子なら夢中になるだろうね
:でも、野生っしょ? 普通に考えたら近づくのも難しそうだよなぁ……
「むむむ……そうだね。できればあの子を刺激したくないし、どうしよっかな……?」
真剣に考え込むような顔をするティーシャ。そんな感じで近づこうにも近づかない状況になっていた時だった。
「「「ガルルルル!!」」」
「「!!」」
突然、どこからか響く獣の声。それから森が不吉な風に揺れて、直後に真っ黒な狼の"影"が現れた!!
「「「ガゥァーーーーーー!!」」」
「ピィ~~!?」
「あれは……シャドーウルフ!?」
ティーシャがその名を呟くと、近くを飛ぶ撮影ドローン上にディスプレイで表示される。
【シャドーウルフ】
影から生まれる闇の精霊。狼の姿を象っており、森を歩く旅人へ奇襲をかける。
「「「ガルルルル!!!!」」」
「ピィ〜〜〜〜!?」
ギガント・シマエナガを取り囲むように、三匹のシャドーウルフが走ってくる。──そう、明らかに”ピンチ”ってヤツだ。
そんな状況を前にして、ティーシャはこちらに目配せしてくる。
「……アヤカちゃん!! 助けるよ!!」「ハイ!!」
迷う時間はなかった。俺達は同時に走り出し、戦いの舞台へと飛び込んでいく。
ティーシャの
一方、ティーシャはギガント・シマエナガの近くに舞い降りる。
「シマエナガちゃん!! 今、あたしが
「ピッ!?」
ビックリしているシマエナガちゃんに対し、ティーシャはその身体に触れながら魔法を使う。
「
「「「ガルル!?」」」
その瞬間、ティーシャとシマエナガちゃんが遠くに転移した。転移先はシャドーウルフの包囲圏外。
「よし……!!」
今ティーシャが使ったのは短距離用の転移魔法。シマエナガちゃんを逃がすために使ったのだ。
これで思いっきりやれる!!
「ティーシャ!! あとはお任せを〜!!」
そして、彼女達が元々いた場所に俺が降りた。包囲していたシャドーウルフは目の前の俺へとターゲットを変えたようだ。
「「「ガルルルルーーーーー!!!!」」」
走って襲いかかってくるシャドーウルフ達。
そこで俺は残ったブランデーを一気に飲み干し、渾身の力を妖刀に込めた!! そして──。
「でやーーーーーーーーーー!!」
抜刀しながら繰り出す、神速の回転斬り。その一撃はシャドーウルフ全員を同時に叩き斬った!!
「「「ガ……ゥ……!?」」」
そして、シャドーウルフ達は消滅していった。
「ふぅ……」
一安心して妖刀を再び納める俺の元へ、ティーシャが猫耳を嬉しそうに立てながら駆け寄ってくる。
「すごいよ、アヤカちゃん! あたしのサイン、よく分かったね!? 全然打ち合わせしてないのに!!」
「ふふっ、当然ですよぉ〜♪ ティーシャの配信はいつもチェックしてますから、そこから戦術を予測しました♪」
:なるほどな
:まさかファンである事が役に立つなんてな!!
:もしかして、この二人相性バツグン……?
さて、ひとまず問題解決。気になるのは例のシマエナガちゃんだが──。
「ピィ~~~!!」
「うわっ!? シマエナガちゃん!?」
なんか俺の後ろについてきた!?
しかも、そのまま距離を取るとまた近くに寄ってくる。その様子を見て、ティーシャが嬉しそうに声を上げた。
「もしかして、アヤカちゃん!? その子に
:草
:なんで酒クズちゃんに!?
:同じ”珍獣”だから惹かれ合ってるとか?
「もぉ~~♪ 珍獣扱いしないでくださいよぉ~~♪」
「ピィ~~♪」
俺にそっと身体を寄せてくるシマエナガちゃん。やっぱフワフワしてて気持ちいい……。
そして、この子のつぶらな瞳を見ていると、どんどん可愛く思えてきてしまった。ただでさえ愛らしい見た目のギガント・シマエナガ。
(こんな可愛い子と過ごせたら幸せだろうなぁ……)
よし!! 決めた!!
「この子、わたしが飼います!!」
「おぉ~~~!? アヤカちゃん、本気ぃ!?」
:こいつは面白くなってきた
:でも、レアモンスターって飼って大丈夫なの?
:↑ギルド条約によると保護する目的なら飼育してもいいらしい。当然売買は禁止だが
:酒クズちゃんはフリールーム使えるもんな。飼う場所としてはちょうどいいか
コメントがまた一気に盛り上がっていく中、ティーシャがシマエナガちゃんを撫でながら提案してくる。
「それじゃ、お名前つけてあげようよ!! この子にふさわしい名前をさ!!」
「う~~ん、そうですねぇ~……」
俺はシマエナガちゃんを見つめながらしばし考えた。そして──。
「フワフワしてるから”フワンちゃん”で!!」
:おいおい、まんまだな……
:でも、覚えやすいっちゃ覚えやすいかな
:酒クズちゃん、フワンちゃんと一緒に暮らすのかぁ……!! どんどんにぎやかになっていくな!!
「えへへ~~♪ よろしくね〜、フワンちゃん~♡」
「ピィ~~♡」
こうして、ギガント・シマエナガの”フワンちゃん”が仲間になった!
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