【#3】新生活

 :え……?

 :今……何が起きた?

 :倒した!? Aランクモンスターのキマイラを!? 一撃で!?


「えーっと、そうみたいです。ハイ……」


 正直、自分でも信じられなかった。


 だが、俺がキマイラを倒したのは紛れもない現実だ。それはしっかりと身体が覚えている。


 :信じられん!! ダンジョン入って一日目の奴がキマイラを倒すなんて!!

 :おい!! 酒クズちゃん!! なんでだよ!!

 :説明しろーー!!!!


「いやいや!? わたしに言われても分かんないですよ~~!?」


 ……ちょっと考えよう。


 俺はついさっきまで死ぬほど泥酔していたが、キマイラを倒した瞬間に一気に酔いが覚めた。これは何か関係がありそうだが……。


 あっ!? もしかして"あのスキル"か?


「そうだ。多分【酔剣すいけん】のおかげかな……?」


 :”すいけん”?

 :なにそれ?? 

 :詳細希望!!


「えっと、わたしにもよく分かってないんですけど”酒を飲むほどパワーアップするスキル”……らしいです」


 :なんじゃそら

 :聞いたことないスキルだな

 :新種のユニークスキルってとこか

 :スキルまで見事に酒クズだぁ……

 :でも、そんなスキルどうやって手に入れたの?


「えっ? それは……この妖刀を拾った時に覚えてて」


 :妖刀!?

 :それタダの刀じゃないのか!?

 :なんかヤバいんじゃないの、それ?


「い、いえいえ!? そんな!? 妖刀とは言いますが、酒に関するスキルを覚えた以外は普通の刀でしたよ!?」


 当然、ウソだ。俺が女に変わった事は秘密にしたかった。


 :ほー、なるほど

 :それはそれで変な妖刀だなぁ

 :まだまだダンジョンも未解明な部分ばかりだ


 ……ふぅ、流石に男だとバレることはなさそうだな。


 そうやって一安心した時、俺は地面の方を見下ろして気づいた。


「あ!! キマイラのいた場所に何か落ちてる!?」


 :おぉ!!

 :ドロップアイテムか!?

 :なになにー!?


「これは……カギ?」


 七色にきらめく綺麗なカギ。その輝きはどこか神秘的なモノを感じる。明らかにレアなアイテムに違いなかった。


 俺はそのカギを拾い上げると、ステータスの呪文を唱えて詳細を調べてみた。


《マスターキー》


 "フリールーム"への扉を開けるためのカギ


 ・『フリールーム』とは魔法の力によって作られた異空間を指す。

 ・フリールームにはカギを持つ者か、所有者が許可した者しか入れない。

 ・ダンジョン内であればフリールームはどこでも召喚できる。


「……”フリールーム”へのカギ?」


 :なんだこれ?

 :異空間ってさりげにすごいこと書いてあるような……

 :しかも、ダンジョンならどこでも召喚できるだと?

 

 気が付けば、同接数も……2万人!? いつのまにこんな来てたの!?


 ま、まぁ、とにかく今はフリールームの方を優先しよう!! よく分からないが、今拾ったアイテムを使ってみよう。


詠唱キャスト、"マスターキー"!!」


 すると、マスターキーから光が放たれた。その光は大きな扉の形となって、異空間への入り口を生み出す。


 どうやらこの先にフリールームはあるらしい。


 :すげー……!?

 :ワクワク!!

 :早くいこーぜ!!


「じゃ、行くぞぉ……!! 3、2、1──えいっ!!」


 意を決してダイブすると、俺の身体はその光の向こう側に吸い込まれていく!! そして──!!


「うぉぉお!! きたーーーーー!!」


 光の扉を抜けると、広い空間にたどり着いた。


 フリールームの中を一言で表すなら、真っさらな空間だった。その広い面積を誇る部屋にモノはほとんどなく、ただ一つ中央に大きな箱が置いてあった。


 俺は表面に書かれていた魔法文字マギグリフの説明文を読み上げる。


「なにこれ……? 【クラフトボックス】???」



【クラフトボックス】


《ルール1》この【クラフトボックス】では使用者の魔力を使役してアイテムを生成するスキル【クラフト】が使える


「あの……どなたかこの【クラフトボックス】について知っている方いますか?」


 :知らない

 :なにこれ

 :初めて見るわ


 むー、ネットの集合知をもってしても誰も知らない。これまた初めての体験ってことか。


「とにかく使ってみるかぁ……」


 箱を開けると、真っ暗な箱の中心に魔法文字のリストが浮かんでいた。触ってみると、まるでタッチパネルのように操作できる。


【クラフト可能なアイテムカテゴリ】


《家具》

《食事》

《武器》

《魔法の触媒しょくばい


 へぇ~、アイテムごとにカテゴリ分けされてるんだな……とりあえず《家具》から触ってみよう。


 《家具》

 ・ベッド

 ・テーブル

 ・コンセント


「コンセント……?」


 その文字列を見て、俺はふと思い出してしまった。


「あっ……そういえば配信してるから、スマホの充電やばかったんですよねー。ケーブルは持ってるから、もしここで”コンセント”が作れたらちょうど助かるんだけど」


 :おいおい

 :そんなのできるわけないだろ!!

 :い、いくらなんでもそれは……

 :ダンジョンで現代のものが作れるとは思わんが


「じゃ、じゃあ、ダメもとで作ってみます!! クラフト……”コンセント”!!」


 ボン!!


 部屋の隅にコンセントが出現した!! 見慣れた二つ穴のコンセント。


 :うわ、できたぁ!?

 :うそぉ!?

 :やばやばやばやば

 :使えるの……? 偽物じゃなくて????


「……やってみよう」


 試しにスマホをケーブルで繋げてみると……。


「あっ、通電した!?」


 :す、すげーーーーーーー!?

 :ずいぶん現代に適応してるんだなぁ……

 :とんだ優良物件じゃん!? 酒クズちゃん、運良すぎじゃね!?


「いや、ホントに!! 多分、今日で一生分の運使ってる気がする!!」


 それですっかりテンション上がってしまった。俺は更にクラフトを続ける。


「”テーブル”ーーーーー!!」


 ボン!!


 部屋の中央にちゃぶ台が出現する。す、すげぇ……。どんどん行こう!!


「”ベッド”ーーー!!!!」


 ボン!!

 

 今度は真っ白なベッドが出現する!! それも新品のやつが!!


「わーーい!! わーーーい!! ふかふかーーーーーー!!」


 俺はベッドの上に飛び上がり、ボヨンボヨンと跳ねまわる。


 最高だ。今夜は野宿を覚悟していたが、まさかこんなに良い場所をゲットできるなんて!! 


 俺は嬉しさのあまり声高らかに告げる。


「よしっ!! 今決めた!! わたし、今日からここに住みます!!」


 :さっきまでホームレスだったのに!?

 :だいぶ成り上がったな。この短時間で

 :この女、ライブ感で生きてる……


「よし!! 次は《食事》だーーーーー!!」


 しばらく何にも食べてないから腹減りまくってたのだ。


「”焼き鳥”ぃーーーーー!!!」


 その直後、テーブルの上に焼き鳥が盛られたお皿が現れた!? しかも、まるで屋台から持ってきたようにアツアツだ……!!


 うおぉぉ!! まさに期待通り!! そして、焼き鳥があると欲しくなるものといえば……”アレ”だ!!


「お酒ーーーーー♡♡♡!!!!」


 今度はビール缶が出現した!! キタキタキターーーーーーーーーーーーー!!!


 俺は待ちきれずに、両手を合わせて声高らかに告げた。


「いただきま〜〜す♪」


 プシュッ。


 ビールを片手に焼き鳥へ手を出す。そして、クラフトされた焼き鳥の味は……!!


「う、うまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~い♡♡♡」


 :おぉ!? これは味もいい感じか!?

 :こりゃすげぇな……。【クラフトボックス】やばすぎるだろ

 :てか、こんな夜中に飯テロすぎる……!!

 :焼き鳥にビール……居酒屋のハッピーセットだ!!

 :うーーーん、ダメ女!!!! 最高!!!!!


「さーーて!! 次のクラフトは〜〜!! ……ん???」


 ──と思ったら、魔法文字マギグリフのリストが赤く染まり、こんな注意書きが。


 ※クラフト不可


「あれ……?」


 :あらら。もう作れないのか?

 :さっきまでバンバン作れてたのに


「あっ! また魔法文字マギグリフが出てきた!」


《ルール2》

 

 クラフトは倒した魔物から吸収した魔力によって行われる。魔力不足の場合はクラフトができなくなる


「……なるほど。じゃあ、今までのクラフトは"キマイラを倒した分の魔力"でやれた、ってことか」

 

 :そういうことになるな

 :確かに結構いっぱい作ってたものなぁ

 :つまり、"強いモンスターほど魔力がたくさんもらえてクラフトもいっぱいできる"ワケだ


「んーー。流石に『作りたい放題』とはいかないかぁ〜〜」


 まぁ、今日のところはこれで十分だろう。頑張った、頑張った。


「ふぁ〜〜……」


 おっと、急に眠気が……今日の夜は色々ありすぎたしな。そろそろ配信終わるか。


「はーーい、眠くなってきたんで……今日の配信はこれで終わりまーす。来てくれたみんな、ありがとねぇ~。おやすみぃ~……」


 :乙

 :おやすみ~

 :今日はやべーもん見たわ……!!

 :もう次の配信待ちきれねーよー!!


 こうして熱気冷めやらぬ中、初めての配信が終了した。

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