第五十話 興味がある感情

「は?なら何故木刀持ってきた?」

「お前の剣王スキル、武器破壊を実際に見てみたかった」

「それ……だけ?」

「ああ」


将来のコピー先としてどうなのか、ちょっと試したかっただけだ。

流石は最高クラスのスキル。

同等の硬さの木刀ならこんな簡単に破壊出来るのか。しかも、金剛の速さも上がっている。


事前に星空に聞いていた剣王スキルの剣系武器装備時敏捷性超上昇の効果だろう。


これは将来のコピー先として非常に優秀なスキルだ。


だからちょっと試しに木刀で打ち合いたかったのだ。


「クックック!はっはっはっ!」

「どうした?」


俺が素手で構えると、金剛は構えを解いて、顔を覆いながら笑い始めた。


「舐めた野郎だって散々分かってたんだがな。ここまで人を馬鹿にした奴は俺の人生でも初めてだぜ!」

「馬鹿にしたつもりはないが」

「その態度が馬鹿にしてるって言ってんだよ!剣王の俺を前にして素手でやるつもりだっただぁ?ぶち殺す!」


吐き捨てるようにそう叫ぶと、再度大上段で木刀を構えて、先程以上の速さの踏み込みで突撃してきた。


俺の肩に振り下ろされる木刀を横にズレてかわし、振り上げられる木刀を金剛の腕を掴むことで止める。


「なっ!?」


驚く金剛の腕を掴んだまま顔に一撃を入れ、腹に蹴りを入れると同時に腕を離す。


「ガハッ!」

「金剛さん!?」


金剛が床を三度バウンドしながら吹き飛ばされ、咳き込む。後ろの友人達も殴られて膝をつく金剛に動揺して声をかけている。

それを無視して木刀を支えにしながら膝立ちをしている。


「ゴホッゴホッ!あ、ありえねぇ!俺の俊敏は20を超えてるんだぞ!それを……」

「金剛」

「あぁ!?」


ちょうど距離が離れたのを幸いと、独り言を呟いている金剛に声をかける。


「お前に聞きたいことはまだまだあるんだ」

「このクソ野郎……余裕ぶりやがって」

「余裕ぶってる?いや、普段と何も変わらないつもりだが」

「それが余裕ぶってるって言ってんだ!おらぁ!」


立ち上がった金剛が木刀を乱暴に振ってくる。俺はそれを軽々よけ、そのまま肩を掴み右胸を殴りつける。


「ぐほっ!がはっ!コホコホッ……てめぇ」

「それで質問がまだあるんだが……」


咳き込む金剛を蹴っ飛ばして再度距離を取り、俺は更なる質問を投げかける。


「何だ!あぁ!?」

「お前は自分がSクラスだと散々自慢してくる」

「だったら何だ!事実だろうが!?」

「ああ。それはそうなんだがな。俺は疑問に思うんだ。何でそんなしょうもないことを自慢出来るんだ?」

「あぁ!?Sクラスはこの学園の一学年の頂点だぞ!自慢して何が悪い!誇って何が悪い!」


俺の疑問に金剛は血反吐を撒き散らしながら叫ぶ。そんな金剛に俺は眉を顰める。


悪くはない。ただ分からないのだ。


「それはお前が努力して得られたものじゃないだろ?」

「は?」

「お前がSクラスなのは偶々才能があったからだ。偶々偶然お前の覚醒度が30%を超えていただけだ。それなのに、何でそんなものを自慢出来るんだ?」

「……」


金剛は沈黙する。何だ、何で俺の質問に答えられないんだ?

理由があってお前は偶々手に入れたSクラスというレッテルを自慢していたんじゃないのか。


「うぉぉおおおおおおお!死ねやこの異常者がぁぁぁぁぁぁ!」


俺の質問に答える代わりに鬼の形相で叫びながら突っ込んできた。


それを冷静にかわし、振り向き様に顔面を二発殴る。たたらを踏む金剛だが、その目はまだ鋭い眼光で睨んでいた。


「答えられないなら質問を変えるな?逆にお前は俺をFクラスの底辺だと散々馬鹿にしていた」

「ゴホッゴホッ。事実だろうが。おらっ!」


金剛は既に満身創痍なのだろう。始まったばかりの時のキレはなく、根性で木刀を振り回しているだけだ。

それを軽く避け、その腹に蹴りを喰らわせる。


「ガハッ!」

「確かに事実だ。だけど、お前がそうなる可能性も十分あったよな?それなのに何でそんなに馬鹿に出来るんだ?」

「あぁ?」

「お前がもしFクラスに来ていたら、Sクラスの誰かに同じ様なことを言われていたのかもしれない。お前は同じことを言われたら嫌じゃないのか?」

「くっくっくっゴホッゴホッ。馬鹿にされるのが嫌かだって?嫌に決まってんだろ!俺なら殺したくなるね!」

「なら何故それを人にやる?」

「んなもん楽しいからに決まってんだろうが……。劣等生共を見下して生きるのが楽しいからだよ!」


そう言って先ほどと同じ様に上段からの振り下ろしてくる。


金剛も疲れているようで、攻撃が単調だ。そう思いながら横に避けると、金剛の目が光った気がした。


「おらぁぁぁぁぁぁ!」


避けられること前提の一瞬の切り返し。

それを上半身を逸らすことでよけ、続いて切り落としも後方に下がりながら避ける。


「つまりお前は自分がされたら殺したくなるほど嫌なことを他人にやって楽しんでるわけか」

「ああ、そうだよ!だったら何だ!?」


振り回される木刀を避けながら金剛にそう問いかけると、金剛は笑いながら同意する。


なるほど。

金剛は自分がされたら殺したくなるほど嫌なことを他人にする事に喜びを感じるのか。


「……聞いておいて申し訳ないんだが、全く共感出来ないな」

「くっくっくっ。ゴホッゴホッ!そりゃそうだろうな。テメェみたいな異常者には理解出来ないだろうな」

「何度も言うが俺は普通だ。お前みたいに他人を見下したりして喜んだりしない一般人だ」

「はっ!他人を見下したりしない一般人?お前は人が人を見下すのは普通じゃないと思ってんのか?」

「思ってるが?」


俺は即答する。そんな俺の様子を見て、金剛は体をくの字に曲げ、ボロボロの状態で笑う。


「クックック。ならテメェには一生わかんねぇだろうな。お前、漫画やアニメは見るか?」

「ああ、嗜む程度にはな」

「ならダークサイドに落ちた主人公やその仲間が雑魚民衆どもを蹂躙する様を何度も目にしている筈だ」

「ああ、割とあるあるの展開だな」


俺はいくつかの作品を思い出しながら頷く。酷いやつになってくると初めて見た世界が自分の理想と違うから滅ぼしたかった、とか言うのまであったからな。


「理解出来ねぇよな?」

「ああ、分からん。民衆殺してどうするんだ?そこに何があるんだ?」

「はっはっはっ、ゴホッゴホッ!だよな!テメェには理解出来ねーよな!そんなクソどもが人気があって称えられるのが!」


俺の質問には答えず、叫びながら金剛は木刀を振り回してくる。


「そんな主人公達を目を輝かせて讃える奴らはな!99%は蹂躙されてゴミのように踏み潰されるその一般民衆だ!なぜ踏み潰される側の奴らが踏み潰す側の奴を崇めながら見てると思う?」

「……」


武器を振り回す金剛に問われ、俺は無言でかわしながら答えられずにいた。分からない。何故そんな人間が人気を得られるのか。


「夢見てんだよ俺達は!!弱者を蹂躙出来るような強者になるっていう夢をな!!!!そして俺は選ばれたんだ!!!!その夢を叶えたんだよ!!!!」


そう叫ぶ金剛の木刀を避け、その顔面に裏拳を当てる。


「ガハッ!」


俺の一撃を金剛は防げず、タタラを踏みながら地面に尻餅をつく。


地面に尻もちをつき、荒い息を繰り返す金剛を見下ろしながら聞く。


「それがお前が弱者を見下す理由か?」

「はぁはぁ……。そうだ、俺は選ばれた強者だ。てめぇみてぇな一般人を蹂躙する強者だ!」


金剛は足を震わせ、木刀を支えにしながら立ち上がり、腹の底から搾り出すように叫ぶ。


なるほど。


「てめぇみてぇなモブ野郎が俺よりも目立ってるのが気にくわねぇんだよ!」


金剛の渾身の踏み込み。しかし、俺はその斬り込みを軽々よけ、腹に一撃を入れ、膝をついた金剛の顔面を蹴り飛ばす。


「グホッ!」


地面に倒れる金剛を見下ろしながら、俺は静かに告げる。


「金剛」

「クソが……」


返答をしない金剛に俺は続きを告げる。


「俺はお前の言う弱者を蹂躙して得られる感情というものに興味が出てきた。だから……」


そして、離れた金剛にゆっくりと近づく。


「今からお前をいたぶってみるな?」

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