第四十九話 剣王スキル
二日後、授業が終わったその放課後、俺は予約していた第二戦闘訓練室に足を運ぶ。
するも訓練室の扉の前に三人の女子生徒が立っていた。
「よお星空……と、如月と文月?」
「やっほー」
星空の他に如月と文月が来ていた。
星空はともかく、如月と文月がいる理由がわからない。俺が疑問の視線を向けると文月達は腕を組みながらこちらを見る。
「別に。見に来ただけだし」
「悪い?」
「いや、別にいいけど」
俺はそう言って星空を見る。
「え、違うよ!私は呼んでないよ!来たらいたんだよ!?」
「何も言ってないけど」
何も言ってないのに、星空が慌てて首を横に振っている。
「恵は関係ないわ。私たちが見たいから来たのよ」
「ふーん」
そうなのか。まあどうでもいいけど。
そして、三人を連れ立って第二戦闘訓練室の扉を開ける。
扉を開けると、昨日の五人が既に訓練室内で立っていた。
「おせぇぞ!俺様を待たせんじゃねぇ!」
俺らを見るなり金剛がそう怒鳴ってくる。
「すまんすまん。トイレ行ってたらちょっと遅れちゃったわ」
確かに時間より少し遅い。俺は素直に謝罪して金剛の対面まで歩いていく。
金剛はいつにも増してイライラが顔に出ている。
もしかして遅れたことそんなに怒ってる?
「んじゃ、勝敗のルールを決めようか」
「あ?言っておくが俺はお前が土下座して俺の靴を舐めるまで止める気はねぇぞ」
「あれ?この前は土下座で謝罪しろって言ってなかったっけ?」
「もうその程度じゃ収まんねぇよ。てめぇをボコボコにして俺の靴を舐めさせるまで俺は手を緩める気はない!」
「そうか。じゃあ、勝負のルールを決めるか。と言っても事前に伝えた通りだが」
「俺とテメェのタイマン。武器は木刀のみ。スキルは自由」
「その通りだ」
事前に通達した通りだ。俺はスライム狩りで散々お世話になった木刀を手に構える。
「クックック。やっとテメェを公然とボコれると思うと今から笑いが止まらねぇぜ!」
「笑ってもいいがお前が負けたら星空に謝れよ?」
「ああいいぜ?その代わり、負けたらてめぇは二度と俺に逆らうな。いいな?」
「ああ」
あ、そうだ。決闘の前に俺は金剛に聞きたいことがあったんだった。
「なあ金剛、俺はお前に聞きたいことがあるんだ」
「何だ?メイドの土産に答えてやるよ」
「お前は弱者を痛ぶるのが楽しいって言ったな?」
「ああ、言ったぞ」
「それはどんな気持ちなんだ?」
「どんな気持ち?はっはっはっ!最高だよ。最高!テメェみたいに自分の実力を勘違いした奴が絶望に泣き叫ぶ姿はこれ以上ねぇ愉悦だぁ!ぷっくっくっくっ!今でも俺にボコられて土下座で謝るあいつらを想像しただけで腹の中がふわふわした気持ちになれる!くっくっくっ」
「なるほど」
へーそんなに楽しいのか、弱者を痛ぶるのは。
腹の中がふわふわして思わず笑みが溢れるほどの喜びが得られるのか。
それは凄いな。
ひとしきり笑った金剛は顔を上げると俺に対して逆に質問をしてくる。
「俺からも一ついいか?」
「ああいいぞ」
「お前、散々決闘を嫌がってたくせに、何で今回の決闘を受ける気になった?」
「うん?話しただろ?お前が星空を傷つけたからだ」
「それをそうだったのかと素直に信じるほど俺がバカに見えるか?」
「馬鹿も何も俺が決闘を受ける理由はこれだけだ」
本当にただこれだけだ。俺が決闘を受けなかった理由は決闘を受ける理由がないから。だけど、金剛は俺の友達を傷つけた。傷つけられた友達に謝罪をさせるため。決闘を受けるには十分な理由だ。
だが金剛は全く信じられない様で、さらに疑いをかけてくる。
「あり得ねぇ。あんだけ馬鹿にした事に対しては何もしなかったくせに、星空にちょっとちょっかいかけただけで決闘を受ける?ははっ!さてはお前、星空のことが好きなのか?」
「何でそうなるんだ?星空は単なる友達だ」
「単なる友達?ますます意味わかんねぇな。ほんっとにテメェは何考えてんのかさっぱりわかんねぇ」
「それはよく言われる」
何を考えているのかわからない。よくそう言われる。
だがな。同じくらい、俺も他人が何を考えてるのか分からないよ。
「それじゃ、始めようぜ」
「始めたいのか?いつでもいいぞ」
木刀を構える金剛に合わせて俺も木刀を構える。
聞きたい事はまだまだあったのだが、始めると言われたのならしょうがない。勝負の最中にでも聞くか。
「星空、合図してくれ」
「う、うん!」
星空は頷くと、俺の金剛の間に立つ。
「じゃ、よーい始め!」
「おらぁぁぁぁぁ」
星空の開始の合図とともに雄叫びを上げながら金剛が走ってくる。上段からの袈裟斬り。
何の変哲もない力任せの振り下ろし。
そう思った俺は自分の木刀で防ごうとする。
「へっ!」
金剛が笑った気がした。
次の瞬間、激しい音と共に俺の木刀が弾け飛び、バラバラに吹き飛ぶ。
「おっ!」
「ハッハ!」
金剛は予定通りだったようで笑いながら切り返して俺の顔面に薙ぎ払いをしてくる。
俺はそれを体を逸らすことで避け、同時に金剛から距離を取る。
「はっはっはっ!驚いたか?これが剣王のパッシブスキルだ!はっはっはっ!」
「確かにすごいなー」
自慢気に笑う金剛に対して、俺は驚いた顔で折れた木刀を見る。
根元からポッキリ折られ、1メートルはあった刀身が10センチほどになってしまった。
これではもうこの木刀では戦えないだろう。
「あんた、Fクラスって散々馬鹿にしてたくせにズルするなんて卑怯よ!」
「そうよ!精々堂々戦いなさいよ!」
俺の木刀が折れたのを見て、文月と如月が騒ぎ立てている。
「うるせぇな、あいつらは。顔と身体がいいからセフレにでもしてやろうと思ったのに、先日何を思ったのか俺様とのパーティーを解散したいなんて抜かしやがった」
「解散したのか?」
「ああそうだよ。一方的にな。組みたい人がいるとか抜かしやがった。恵といいあいつらといい、俺様とのパーティーじゃなくててめーみたいなモブ野郎とパーティーを組みたがる。訳がわかんねぇぜ」
「そうだな」
それは本当にそうだな。俺みたいなやる気のない人間とパーティーを組みたがる理由がさっぱり分からない。
「ああ、思い出したらむしゃくしゃして来たぜ!まあこの怒りもテメェをボコせば少しは気が晴れるだろうな」
そういうと、金剛は再度木刀を構える。俺も木刀の残骸を放り捨て、素手で構える。
「ちょっと!素手の相手と戦う気!?」
「恵!あんたも止めなさいよ!」
文月が怒鳴り、如月は星空に戦いを止めるようにいう。
それを聞いた星空は俺を見てこう聞いて来た。
「ワン君、どうする?」
「このままでいいぞ。素手でやるから」
「はぁ!?あんた……ちょっと強いからって剣王相手に舐めすぎよ!」
「負けたら怪我だけじゃ済まないのよ!?分かってるの?」
分かってるけど。何で君らがそんなに必死なの。関係ないでしょ。
「はっはっはっ!剣王を持つこの俺相手に素手!?はっはっはっ!」
「金剛さん、舐められちゃってますよー!」
「そんなやつ、さっさとボコボコにしちゃってください!」
「そいつやったら次、星空と後ろのアバズレ二人もお願いねー!」
「昨日のこと百倍にして返してあげるから」
金剛が大笑いをしたのと同時に、後ろの四人が盛り上がる。
いや、星空と文月達は関係ないでしょ。やるなら自分たちでやりなよ。
金剛が余裕を見せて木刀で肩をポンポンと叩いているのを見ながら、俺は両手の拳を硬く握りしめ、構える。
「おいおい、本当に素手でやる気か?さっきの逃げる速度は流石だったが、それはいくら何でも舐めすぎだろ?木刀、あいつらから借りてやろうか?」
「えー、嫌っすよ!俺、壊されちゃうじゃないですか!」
「俺もー!そいつが触った木刀とか使いたくないっすわ!」
「はっはっはっ!」
金剛達はさっきからずいぶん楽しそうだな。
笑いどころがどこなのか俺にも教えて欲しいくらいだ。
「木刀ならいらないぞ」
「そうか?俺はお前が素手だからと言って優しくするほど甘くねぇぞ?」
「ああ、構わない。俺は元々素手でやるつもりだったからな」
「は?」
「お前程度の相手をするのに武器なんて必要ない」
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