第四十八話 申し込む
そして放課後、星空から放課後に校舎裏に呼ぶという連絡をもらったので、そちらに足を運ぶ。
すると、そこで待っていたのは星空と金剛の他に、昨日の友人二人とAクラスの女子二人が立っていた。
「金剛以外は呼んでないんだが?」
「私も金剛だけを呼びだしたつもりなんだけど……」
「それはてめぇの都合だろ。俺には関係ねぇ」
「そうか、まあ別にいいけど」
金剛は吐き捨てるようにいう。まあ聞かれちゃまずい話をするわけでもないし、金剛はマストだけど他は別にいいか。
そう思ってくると、星空がトテトテと俺の元に走ってきて、両手を合わせる。
「ごめんね。金剛だけを呼び出したつもりだったんだけど。他の人も来ちゃった」
「いや、別に構わないぞ。金剛さえ来れば何人来ても」
「そう?ごめんね」
別に謝罪する必要はないけどな。むしろ金剛を呼び出せたことに感謝したい。
「それで、俺様に何のようだ?決闘をする気になったのか?」
「いや、さっきも言ったが俺はお前と決闘する気はない。それよりも聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
決闘をしたがる金剛をいなし、俺は聞きたい質問をする。
「お前、俺の事が嫌いなのか?」
「はあ?」
単刀直入。誤魔化したりせず、バカでも分かるほど率直に質問をする。
「嫌いに決まってるだろ」
「そうか」
あー、嫌いなのか。
好きと嫌いは紙一重などということわざがあるが、まさに金剛の俺に対する態度はどっちか分からなかった。
嫌いならはっきりとお前のことが嫌いだと言ってくれ。好きなのかと思ってホモなのかと思ったぞ。
いや、ホモの可能性はまだあるのか。
まあそんなことよりも嫌いならばなおさら聞きたいことがある。
「お前、俺の事が嫌いなのに何でそんなに俺に構ってくるんだ?」
「あ?」
「昨日、俺はお前に構うなと言った。はっきりいうが俺もお前が嫌いだ。なのに何でお前は俺に構うんだ?」
金剛が俺のように、俺が金剛を好きだと勘違いする可能性はない。俺に構うな、なんてどこをどうとっても嫌われていると分かるだろう。
俺は金剛に対して何もしていない。偶々あまり良くないタイミングで出会わせた事はあるものの、それだけだ。
それなのに俺を嫌う理由も構う理由もさっぱり分からない。
「お前に構う?きめぇ言い方してんじゃねぇよ」
「ほんときっもーい!」
「ねー、あり得ないんだけどー!」
「ギャハハハハ!」
俺をキモいと罵りながら五人は笑っている。
笑うのも罵るのも別にどうでもいいから質問に答えて欲しいんだけど。
お腹を抱えて笑い続ける五人を待っていると、星空が前に出て怒鳴る。
「あんた達、ワン君が質問してるんだから答えてよ!」
「はっはっはっ!恵、あんたもワン君ワン君って、もしかしてそいつのこと好きなの?」
「ワン君とは友達だもん!そんなんじゃない!」
「だもんって……、あんたさぁ、ちょっと配信で有名になったからって調子に乗りすぎじゃない?あの厨二病のやつといい教室で騒ぎすぎ。いつもうるさいって思ってだんだよねー」
星空の言葉にAクラスの女子生徒二人が反応する。
「じゃあ教室で言えばいいじゃん!こんな所で金剛の後ろに隠れてさ!」
「はぁ!?あんたこそそいつの力で人気配信者になったくせに人のことバカにしてんじゃねえよ!」
「そうだよ!配信でもワン君ワン君って気持ち悪いんだよ!」
女子三人組が俺らを放って喧嘩を始めてしまった。金剛の友人二人も女子の喧嘩を目の前にして引いている。
三人は放って金剛とちょっと端によけて話し続けるか、などと考えていたら金剛がイラついたように呟く。
「てめぇらちょっと黙れ」
「うっ……」
その一言で三人とも静かになってしまった。
それを確認した金剛が俺を見る。
「それで俺がテメェを構う理由だったか?」
「ああ。嫌いなら放っておけばいいだろ?俺もお前に関わりたいとは思わない。それなのに何で構ってくるんだ?」
「そりゃテメェがうぜえからに決まってんだろ?」
怒鳴る金剛に、俺は冷静に返す。
「どこが?」
「1レベから上がらねぇくせに調子に乗ってる所だよ」
「調子に乗ってないが?俺の性格はこの学園に入る前と後で全く変わらない」
これは断言できる。高い覚醒度を持ったり、他の誰も持っていないスキルを持ったからと言って俺は何も変わっていない。
たとえ、ステータスが本当に坂田と一緒だったとしても俺の金剛に対する態度は何も変わらなかっただろう。
「そういうところなんだよ、テメェが癪に触るのはな。ステータスっつう歴然とした差があるっていうのに雑魚ステータスのテメェは選ばれた人間に対して敬意を払わねぇ。そういうところが目障りだって言ってんだ」
「なるほど。それで、俺に構う理由は?」
「目の前に蠅がぶんぶん飛び回ってたら誰だって叩き潰すだろ?それが理由だ」
要は金剛が気に食わないから構うと。金剛は嫌いだったり、気に食わない奴ほど関わりたくなる、ということか。
なるほど、俺とは正反対だな。
納得をした所で俺は踵を返す。
「星空、帰るぞ」
「え、ワン君、もういいの?」
「ああ。聞きたいことは聞けたからな」
金剛は俺のことが嫌いで、嫌いだからこそちょっかいをかける。
俺が知りたかったことは知れた。
もう話すことはない。そう思って帰ろうとするが、それを背後から呼び止められる。
「ちょっと待てや!言いたいことだけ言って帰ってんじゃねぇよ!」
「ん?何だ、お前から言いたい事でもあったのか。因みに決闘なら受けないぞ。面倒臭いからな」
「はっ!理解に苦しむね。てめぇ、オークを倒せるくらいには実力があんだろ?それなのに何故弱者のままでいる?」
「弱者のままでいる?Fクラスのことか?だとしたらこの学園はステータスでしかクラス分けの判断をしないからだが?」
「ちげぇよ。お前、クラスメイトに1レベであることをからかわれてるみたいじゃねえか。オーク倒せるくらい実力があんだ。お前がワンパンすればそれで済む話だろ?何故放置する?」
「実害がないからだ。だからどうでもいい」
なんか突っかかってきてうざいな、くらいしか思わない。金剛のいうような暴力を使うような事ではない。
「はっはっはっ!理解できねぇな!俺なら一発ボコって二度とそんな口聞けねぇようにするが」
「……そうか」
笑いながらそう言った金剛だが、俺が無表情でつまらなそうだったのが、気に食わなかったのか、その会話の矛先を星空に向ける。
「恵、お前探索者目指してんのに何でこんな奴と組んでんだ?」
「そんなの私の勝手でしょ!あんたみたいな奴より断然マシだよ!」
「はっ!そりゃそうだよな。こいつらも言っていたが、お前はワンのお陰で人気配信者になったもんな?そりゃ離れらんねぇわ!」
「違うよ!最初は確かにそうだけど、今は友達として一緒にいたいからいるの!」
「どうだかなぁ?配信でも度々ワンについて触れてるようじゃねぇか?確かにそいつといたらネタに困らねぇだろうな」
「違うもん!その日あったことを雑談で話すのは普通のことだし!ワン君とは配信関係なしで仲良くしてるし!」
「してあげてるんだろ?そいつに捨てられると困るもんな」
「違うもん……」
金剛に否定され、星空が俯いてしまう。
「星空……?」
星空の顔が露骨に暗くなっている。あれ、ちょっと泣いてる?
「星空、あいつの言葉で傷付いたのか?」
「えっ!?いや……うん。ごめんねワン君、おかしなことに巻き込んじゃって」
「いや、星空を巻き込んだのは俺だ。星空が謝ることじゃない」
さっきからやけに謝るね。別に謝るようなことじゃないけど。
「それはその、ちょっと傷付いたけど……」
「そうか、星空は今の言葉で傷付いたのか」
それならば話は早い。
「金剛」
「何だ?」
「決闘、受けてやるよ。いや、俺からお前に決闘を申し込む」
「はあ?」
「ワン君!?」
俺の手のひら返しに、金剛は驚く。
「何だ突然。あんだけ嫌がってたのにどういう風の吹き回しだ?」
「どういう風の吹き回し?別に、お前が星空を傷つけたから謝ってもらいたいだけだ」
「はっ!おいおい何言ってやがる。俺が星空を傷つけたから?そんな理由でお前は決闘を受けるのか?」
「そんな理由?傷つけられた友達のために決闘を受けるのはそんなにおかしなことか?」
嘲るように話す金剛に対して、俺は疑問を投げかける。
「クックック。本当に異常者だな、テメェはよぉ。まあいい。受けるならいい。受けてやるよ、テメェからの決闘をなぁ!」
「そうか、じゃあ明後日の金曜の午後、第二戦闘訓練室でな。予約はこっちでしとくから。星空、帰ろう」
そういって俺は背中を向け、星空と一緒に寮に戻る。
しばらくして、俺の後ろをとぼとぼとついてくる星空が口を開く。
「ワン君、ごめんね」
「いや、何で謝るんだ?」
「だって、ワン君と金剛の決闘、私が引き起こしたようなものだし……」
「それは違うな」
星空の言葉に一度立ち止まり、振り返る。
「金剛は俺のことを嫌いだと言った。それは嫌いだから決闘で俺を叩きのめしたいってことだろ?ならもう遠からず俺は金剛と決闘をすることになってたってことだ。めんどくさいけどな」
遠からず、いずれはこうなっていたのだろう。偶々俺の側に金剛と決闘をする理由ができた。
「だからそんな落ち込むなって。ほら、ハンカチ貸してやるから」
「うん、ありがとう……」
やれやれ。まさか俺が他人と決闘をすることになるとは。
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