第四十七話 怒ってる?
次の日、俺は普通に教室に来て考え事をしていた。
流石に昨日の今日で発言を撤回するのはどうか。まあぶっちゃけ昨日はああ言ったが、金剛が今後俺に関わってくれなければそれでいいのだ。
うんうん。それで行こう。
そう思った矢先のことだった。
「ちぃーす……」
教室のドアの方から聞こえてきた聞き覚えのある声に振り返ると、件の金剛がドアに腕をかけ格好つけながら立っていた。
先日とは違い、すごい気だるげというかやる気を感じない。
もしかしてやっぱり俺のこと好きだったんじゃないか?
それであそこまで言われて気落ちしていると。
うーん、星空はああ言ってたけど、どっちなの、はっきりしてよ。
まあちょうどいいっちゃちょうどいいけどさ。あれだけ言われたのに俺に関わろうとするとか金剛君、君、さてはメンタル鋼で出来てるな?
「おー、ザ・ワン、いるじゃーん」
「よぉ金剛。昨日はああ言ったんだが、ちょっとお前に聞きたいことが出来たんだ」
軽めのノリで金剛が俺を見つけて声を掛けてきたので、俺も気軽なノリで昨日の前言を撤回する。
そんな俺の態度に気が抜けたのか、金剛は大きくため息を吐きながら俺に近づいてきた。
「テメェが精神の狂った異常者だって事はよーくわかった」
「いや、俺は普通だが」
「普通のやつは自分のこと普通なんて言わねぇんだよ」
「え、そうなの?」
それは初耳だ。じゃあなんて言うの?
俺の驚いた表情を見て、金剛はさらにイラついた表情を見せる。
「頭のおかしなお前に付き合うつもりはねぇ。わかりやすい単純な二択を出してやる。好きな方を選べ」
「うん?まあ言ってみてくれ」
先を促すと、金剛が指を二本突き出してくる。
「一つ目、俺と決闘をする」
そう言って指を一つ下げる。
うん、断る。二つ目は何だ。
「二つ目、今ここで俺に殴られる」
「ちょっと金剛!」
「外野は黙ってろ!」
文月が金剛に怒鳴り、それよりもさらにでかい声量で金剛が怒鳴り返す。
どっちも嫌だな。よしどっちも嫌だから俺から第3の案を提案しよう。
「すまんがどっちも断る。だけどな……」
「そうか、ならテメェの運命は決まった!おらっ!」
三つ目の話し合う、を提案しようとしたら金剛が突然殴りかかってきた。
「金剛!あんた!」
「きゃー!」
金剛の後ろから文月が叫ぶ声が聞こえ、周りの生徒たちが悲鳴を上げる。
しかし、俺はその振るわれた拳を右手で軽く受け止める。
大袈裟だな、みんな。めちゃめちゃ遅かったから多分本気じゃないぞ。
「あ?」
「金剛、落ち着けよ。俺はお前に聞きたいことがあるんだ。今日時間あるか?」
「時間?あるぜ?テメェをボコボコにした後でな!」
そう言って今度は右拳を振るってきた。
「まあ落ち着けって」
左手で金剛の右手を掴んで止めながら、金剛を宥める。
「昨日あんなこと言っておいてどの口がって思ってんだろ?それは分かるんだがな。俺も星空もどうしてもお前に聞きたいことがあるんだ。だから時間をくれ、頼む」
金剛の両手を握りながら俺はそう懇願する。
しかし、両拳を受け止められた金剛は怒ったように怒鳴る。
「テメェ、俺様の拳を軽々受け止めておいて何が1レベだ!?あぁ?」
「俺は1レベだぞ。何なら今から鑑定石まで行くか?」
そう聞きながら俺はちょっと焦っていた。
行くとか言い出したらどうしよう。ちょっとトイレ行かないとダメだな。
「行かねぇよ!どうせ小細工してんだろうが!」
正解。
正確にはするんだけど。金剛、お前結構鋭いね。
「それで、話し合いに応じる気にはなったか?」
「……手を離せ」
「ん?いいぞ」
やっと話し合いに応じる気になったかな。そう思い手を外すと、離した右手を引き、もう一度俺に拳を振るってくる。
「おらっ!」
俺はそれを首を左に傾けることで避ける。
「金剛、そんなに怒るなって」
「……」
首を横に傾けたまま、俺はまた金剛を宥める。
その金剛は右拳を俺の横に伸ばしたまま無言で固まる。
「クソ野郎。てめぇぜってぇ決闘の場に引きずり出してやる」
「そうか。まあとりあえず話し合おうか」
そういうと、金剛が俺の顔の方に腕を振り回してくるので、上半身をのけ反らせて避ける。
「チッ、クソが!」
そう吐き捨てると机を蹴っ飛ばしながら教室から出て行った。本当にどうしたんだろ。昨日のことそんなに怒っているんだろうか。
あ、俺、金剛の連絡先知らないわ。星空に聞いておかないと。
「よっこいしょ」
そう言いながら俺は席に座る。
さてと、星空に金剛の連絡先を聞くか。
ポケットからスマホを取り出し、金剛の連絡先を知っているか聞く。
「これでよし」
あとは星空が金剛の連絡先を知っているのか待つだけ。
「小鳥遊」
名前を呼ばれた気がしたので顔を上げると文月と如月が立っていた。
「何があったの?」
「ん?いや、昨日色々あってな。どうやら金剛を怒らせてしまったようだ」
関わらないでくれって言ったのが相当食らったようだ。だとしたら申し訳な……くもない。
本心だしね。
「しかし、いきなり殴りかかってくるのは驚いたな。本気じゃなかっただろうけど」
「は……?」
「何でそんなに決闘がしたいのかねー」
俺の呟きに如月が答える。
「多少の暴力は見てみぬふりをされるのがこの学園だけど、木刀まで持ち出したら学園も処罰せざるを得ないからでしょ?そんなことも知らないの?」
いや知ってるよ。
そうじゃなくて俺が聞きたかったのは俺と決闘をしたがる理由だよ。
まあそれは後で直接本人から聞こう。それはともかく、何でこの二人は俺のところに来たんだ。
「で、何?何か用か?」
「何か用、じゃないわよ!周り見てみなさい!」
そう言われて周りを見る。
すると、教室中の生徒全員が俺をみていた。
どうやら教室の空気を悪くしてしまったらしい。それだとしたら確かに俺が悪い。本当に悪いのは金剛だけどね。仕方ない、俺が代わりに謝ってやるか。
俺は立ち上がり、周りのクラスメイト達に対して頭を下げる。
「みんなごめんな。金剛、ヤンチャだからさ。ちょっと騒がしちゃうやつなんだよ」
そう金剛へのフォローも入れながら謝罪する。これでいいだろ。
そう思って座るが、二人は俺の横からどかない。
「何だ。話は終わっただろ?自分の席に戻ったらどうだ?」
「その前に一つだけ聞いていい?」
「ああ」
「もし金剛と決闘になったら……あんたは勝てるの?」
「うん?」
文月の質問に眉を顰める。いや、そもそも決闘なんかならないけど。
仮に決闘になったらか。
「勝負に絶対はないだろ?」
「……そうね。邪魔したわ」
「ふん」
それだけ言って二人は自席へと帰って行った。
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