第四十六話 爆笑

そのまま部屋に戻った俺は風呂に入り、夕食までの時間を部屋でゲームをして過ごしていた。


コンコン。


「ん?」


部屋のドアがノックされた。この寮にきて二ヶ月間で初めてのことだ。


カチャカチャカチャ。


だが、俺は気にせずゲームの続きをプレイする。


ドンドンドン。


「ワン君、いるんでしょ!居留守使わないで!」


訪問者は星空だった。


相変わらずうるさい奴だ。今ゲームしてるんだからちょっと待ってくれ。


「ちょっとワン君!ゲームしてる音聞こえてるよ!」


バレてる。仕方ない。俺はゲームをロード画面にして止め、のっそりと立ち上がり、ドアの鍵を開ける。


ドアを開けると、黒い半袖のTシャツに青の短パンを穿いた私服の星空が俺のドアの前に立っていた。


「やっほーワン君!こんばんはー!」

「ああ。何の用だ?」

「ドラーイ。あははは!」


俺の言葉に星空は笑う。星空は相変わらずよく笑う。


「笑ってないで用事を早く言ってくれるか。ゲームの途中なんだ」

「ちょっと!ゲームより女の子の方が大事でしょ!」

「ゲームの方が大事だ。用事がないなら帰れ」


そう言って俺は扉を閉めようとする。すると、星空は慌てて手をドアに挟み、閉じるのを阻止してくる。


「ちょっと!用事まだ言ってないでしょ!」

「用事を中々言わないから何もないのかと思ったぞ」

「あるよ!今日のこと聞きに来たの!」

「今日のこと?ああ……思い出しなくもない」

「ええ!なんかあったの!?」

「あったって言うか知ったって言うか……」


俺はゴニョゴニョとしてしまう。まさか金剛にあんな趣味があったとは。

顔を青くして言い淀む俺に、星空は驚いた表情を見せる。


「ええ!ワン君が言い淀むほどのことがあったんだー!」

「ああ。ていうか星空、何でそんな楽しそうなんだ?」

「いやー、どうせくだらないことなんだろうなーって思って」

「酷くない?」


俺の貞操の危機ってそんなにくだらないことですか。


「それだけか。用が終わったのなら帰ってくれ」

「まだまだ!その事について詳しく聞きに来たの!ちょっと今から時間ある?あるよね、ゲームやってたんだし」

「ない。ゲームやってるからな」


強引に時間を作ろうとする星空の手を離させようと手を伸ばす。


「ああ待って待って!ご飯奢ってあげるから!」

「何?それを早く言え。ちょっと待ってろ。準備する」


夕飯を奢ってくれるなら話は別だ。

俺はゲームをセーブして消し、部屋の電気を消す。


「よし行くぞ!」

「ワン君は相変わらず現金だなー」


呆れる星空と共に自室を出る。


「それで、どこに行くんだ?この食堂でいいか?」

「ううん、私がいる寮の食堂に行こう!」

「おお、いいね」


たまには食を変えてみるのもありだろう。人のお金だしな。


歩いてすぐ、Fクラスの寮である白蓮寮の数倍の大きさがある赤虎寮に到達する。


「相変わらずでかいなーこの寮は」

「白蓮寮の三倍の生徒がいるからねー。食堂も大きいよー」

「なるほど。それで、ここの食堂で一番高い料理って何だ?」

「おすすめでもなく一番美味しいご飯でもなく一番高いものを容赦なく奢ってもらう辺り、さすがワン君。遠慮がないね」

「遠慮で飯は食えないからな」


遠慮なんてするわけがないだろう。ゲームを中断してまで話をするんだぞ。一番高い飯を奢ってもらわないと割に合わない。


「もう!これ、海鮮定食が一番高いよ。1800DPもするんだから!」

「じゃあそれで。ご馳走様です」


星空が買った食券を貰い、海鮮定食をもらう。


マグロ、甘エビ、ホタテ、サーモン、イクラが贅沢に乗った豪華な海鮮丼であった。

星空は600DPのシャケ定食と100DPのサラダを買った。


「んじゃ、いただきます!」

「いただきます!」


そう言って俺は海鮮丼に醤油をかけて食べる。


「うめー!久しぶりの海鮮丼まじうめー!」

「……もうしょうがないな、ワン君は」

「何が?」

「何でもない、こっちの話。というか1800DP分も出したんだからそれ相応の話、ちゃんとしてよね!」

「ああ。別にあった事なら話しても構わないぞ?」


金剛達のやばい性癖ももう言っていいだろ。被害者でたら流石に問題になりそうだし。


「実はな……」


俺は先ほどあった話を包み隠さず星空に話した。




「あはははははははは!ワン君、あははははははははは!」


全てを話すと星空は大爆笑し出した。周りの生徒達も大声で笑う星空を遠目に見ており、中には釣られて笑ってしまう生徒までいた。


「ワン君、あは、あははははははは」


星空は何か言おうとしたのだが、笑いを堪えきれないようだ。割と真面目な話をしたつもりなのだが、星空にとっては面白過ぎる話のようだ。


笑いの要素は一つもないはずなのだが、相変わらず星空はおかしな奴だ。


俺は笑いすぎて机に突っ伏している星空を放って、海鮮丼を食べる。


ひたすら笑っていた星空がやっと落ち着いたのか、顔を赤くしながら上げた。


「ワ、ワン君……プフッ!」

「収まったか?そんなに面白い話はしていないつもりなんだが」

「いやめちゃくちゃ面白い話だよ」

「そうか?」


よく分からないが1800DP分の話になったのなら幸いだよ。俺も遠慮なく海鮮丼食べれる。


「そうだよ。だってワン君、すごい真面目な顔で金剛がホモでその下っ端二人はホモ友達だって言うんだもん。しかもその三人にお尻掘られる心配をしてるんでしょ?そんな事真面目に心配してる人、多分日本でワン君だけだよ。ブフッ!」

「事実だろ?俺はお尻を掘られる趣味はない。あれで諦めてくれればいいが……」

「ブワハハハハハッ!」


ため息混じりに話すと星空がまた大爆笑し出した。

星空は人の真剣な悩みを聞くと笑っちゃう人間なのか。不謹慎な奴だな。


笑っている星空を放って俺は海鮮定食を食べる。もう夕飯だけど、ネタは臭みがなくて美味しい。いくらのプチプチも結構好きだ。食感が面白い。


「はぁはぁはぁ」


笑いすぎて過呼吸になった星空は疲れたのか肩で息をしている。


「海鮮定食分の話になったか?」

「なったなった。ゼェゼェ。笑いすぎてお腹捩れる」

「そうか、そりゃよかった。シャケ定食、食べないのか?冷めるぞ」

「いやー、ワン君の話でもうお腹いっぱい。手つけてないし、ワン君食べる?」

「そうか?じゃあいただくわ」


くれるならもらおう。食べ終わった自分のトレイを星空の前に置き、代わりに星空のシャケ定食を自分の前に持ってくる。


「んじゃ、改めてごちになります」


そうお礼を言って、シャケ定食に手をつける。

味は普通のシャケ定食。俺の寮の食堂で出しているのと同じ味。多分仕入れ先も同じだろう。


「はぁ……それでワン君。笑わせてくれたお礼に一つ誤解を解いておくけど」

「誤解?」

「うん。金剛はホモでもなければワン君のこと好きでもないよ。むしろ大嫌いだね」

「は?まだ言ってんのか」


あんだけ俺に構っておいて嫌いはないだろうよ。

そう思ったのだが、今回の星空は譲らない。


「うん。誤解解いた方がいいのか迷ったから強く言わなかったけど、金剛は普通にワン君のこと嫌いだよ」

「何で?嫌われるようなことしてないと思うが?」

「うーん、理由がなくても人が人を嫌いになる事はよくあるんだよね」

「そうなのか?俺はないが……」


理由もなく嫌いになる?

訳がわからない。


「まあ強いて言うならワン君、Fクラスだけど金剛の暴力を見ても何も思わないじゃん?」

「思わんな」

「多分そう言うところがすかしてるって嫌ってるんだと思う」

「あー、なんかそんなこと言われたような?何だったか、敬意がなんたらかんだらとか言ってたような」

「まあそう言うことだね」


星空は頷くが、俺は納得出来ない。


「何でFクラスだからってSクラスの生徒に敬意を表さないといけないんだ?」

「さぁ?でもいわゆる格下の人間に同格って思われる事にイラつく人間ってのがこの世にはいるんだよ」

「格下?クラスが?」


俺はたまたま坂田のステータスをコピーしてFクラスになったが、仮にそうじゃなかったとしても覚醒度とは単なるたまたま手に入れただけの才能だ。

俺がコピーのスキルを持っているのも俺が努力したわけではない。

同様に金剛が高い覚醒度を持っているのも剣王のスキルを持っているのも金剛が努力をしたからではない。


偶々手に入れただけの単なる才能だけで人を評価し、他人を見下す気持ちが俺には全く理解できない。


「まあワン君はそう言うの興味ないだろうけどねー。そう言うのを気にする人もいるんだよ」

「うーん……分からん」


自分と思考が違う人間がいるのはもちろん理解できる。だけど、その気持ちが理解できないのだ。


「納得いかない?」

「納得いかない」


俺がしかめっ面をしているのを見た星空がそう聞いてきたので、素直にそう答えた。


すると、星空は何か閃いたような顔をした。


「じゃあ金剛に直接聞きに行こ!そしたらすぐに分かるよ!」

「マジ?」


関わらないでとか言っておいて俺から聞きに行くの?恥ずかしいんだけど。

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