第四十五話 流石に引いたわ

その日の放課後、授業が終わったので帰宅しようとすると、誰かが走ってくる音がする。


そして、Fクラスの教室の扉が乱暴に開かれる。そしていかにも不良のような制服を着崩した男子生徒が二人Fクラスに入ってきた。


「ちーっす!ザ・ワンってやついる?金剛さんがお呼びだ」

「っているじゃーん!」


おお、金剛。お前、俺と会話したくてとうとう人まで使ってきたのか。


「ちーっす!あんたがザ・ワンだよね?悪いけど来てもらえる?」

「あ、これ強制だから。お前に断る権利ないんで」


そう言いながら二人は俺を掴もうとする。星空といい坂田といい文月といい金剛といい。この学園の生徒は何でこう強引なのかね。


俺は自分に伸ばされた両手を掴み、思いっきり握りしめる。


今の俺のステータスは俺自身のステータスだ。金剛とか色々強引な人が最近周りに多いから警戒して俺の通常ステータスでいる様にしているのだ。


今の俺のスタータスは平均20越え。Sクラスの生徒でもそう簡単に解けない。


「いててててて!」

「いてーー!は、放せ!」


痛がる二人を見て手を離す。弱いな。多分Bクラスの人間かな。

この時間にここに来るということは授業が終わってすぐに走ってきたのだろう。

ここまでしてくれる友達が他クラスの生徒にまでいるとは。金剛、なかなかやるじゃないか。


「お前ら、金剛の指示でここに来たのか?」

「そ、そうだ!てめぇが呼んでも逃げるからって」

「ついてこないと酷い目に遭うぞ!」

「酷い目?何されるんだ?」

「何って、金剛さんがお前をボコボコにする!」

「そうだ!今来たらまだ間に合うかもしれねぇぞ!」


金剛が俺に酷いことするのか。俺のことを好きな金剛が俺に酷いことをするとは思えないが。

それとも好きな相手ほど暴力を振るってしまう、とかいうやつか。


まあ酷い目に遭う気はないが、話し合いは必須だろう。


仕方ない。予定より速いが話し合いに応じてやるか。そしてガツンと断ってやる。


俺はポケットからスマホを取り出し、星空に連絡をする。


「お前ら、ちょっと待て。星空が来たら金剛に話に行くから」

「お、おおう」

「分かればいいんだよ分かれば」


二人とも声震えてるけど大丈夫か?

そんなに強く腕は掴んでいないはずだけど。


「お待たせー!」


数分後、走ってきた星空がFクラスの扉を開けて入ってくる。


「じゃあ行こっか!」


そう言うと、二人に先を促し、ついて行ってしまった。


「はぁ」


これから金剛をこっぴどく振らなければならない。可能性がないと言うことがわかる様にはっきりと伝えなければ、きっと金剛は次の恋へ進めないだろう。


「仕方ない」


予定よりだいぶ早かったが覚悟は決まった。俺は急いで三人の後を追った。


そのまま校舎裏まで来た俺達は壁に寄りかかって格好を付けている金剛を見つけた。


「金剛さん!お待たせしました」

「よぉ、遅かったじゃねぇか」

「へい!ワンの野郎が星空を呼ぶから待てってごねまして」


友人の言葉に金剛は顔を顰めて星空を睨みつける。


「恵を?おい恵、お前は呼んでねぇ。帰れ」

「えー、無理ー。ワン君がいるなら私もついてくるよー」

「うるせぇ。テメェには関係ねぇから帰れ」


ほら、やっぱり帰れって言われた。だろうなと思ったよ。

しかし、校舎裏に俺を呼びつけるとはな。ベタな告白スポットじゃねぇか。まさか今から告白したりしないよな。始まる前に終わらせる気できたんだけど。


「星空、やっぱり俺一人でいい」

「えー!さっきはいいって言ったじゃん!」

「どうやら金剛は本気みたいだ。この話し合いはあまりいい結果にはならない」


俺は金剛を振る気満々で来ている。恐らく金剛は泣くか、やけになるか。少なくとも知り合いに見せるようなことじゃなくなるのは確かだ。


「だから私がいるんじゃん!ワン君が心配だから……」

「俺も覚悟の上で来た。少し早すぎるが俺の意思をしっかりと伝えるいい機会だろう」


星空が粘るが俺も譲らない。金剛にあまり恥をかかせるわけにはいかないのだ。この場で何が起こったのか、知っている人間は少ないほうがいい。


俺の真剣な表情に星空は諦めたのか、頬を膨らませる。


「もー、じゃあワン君、私から一つだけいい?」

「何だ、言ってみろ」

「殴られたからって金剛のこと殺したら、ワン君が退学になるからね?」

「分かってるけど?」


急に何だ。何をどうしたら俺が金剛を殺すって話になるの。それに殴られたからってそいつを殺したりなんてしないわ。俺はそんな猟奇殺人鬼じゃないぞ。


星空の言葉を聞いていた金剛達も驚く。


「はぁ!?恵、テメェ何ほざいてやがる!」

「言葉の意味そのままだよーだ!ばいばーい!」

「あっちょっ!恵テメェ待ちやがれ!」


金剛の叫び声も虚しく、星空は帰ってしまった。


「金剛さん、どうしますか!」

「恵のやつ……、まああいつのことは後だ。それよりもまずテメェだよ、ザ・ワン!てめぇ、散々俺の命令無視しやがって。覚悟できてんだろうな?」

「当たり前だ。だからここに来た」


睨みつける様にこちらを見る金剛の目をしっかりと見返しながら俺は言う。


「ほぉ、いい度胸じゃねぇか。なら俺とけっと……」

「悪いが金剛。お断りさせてもらう」

「あ?」


金剛が決定的な言葉を言う前に、俺は自分の意思を伝える。


「はっきり言って俺はお前の気持ちがよくわからない。そういう気持ちになったことが一度もないからな」

「あ?」

「俺は一人が好きなんだよ。他人と関わりたくないんだ。今後こう言うのは辞めてくれ。はっきり言うが迷惑だ」


言ってやった。これ以上無いほどわかりやすいノー。


流石の金剛もこれで目が覚めただろう。俺はそう思い、背を向けて帰ろうとする。

しかし、金剛の怒りを滲ませた声で制止させられる。


「ちょっと待てや。それではいそうですかってなるわけねぇだろうが」

「……ならどうすればいい?」

「この場で服全部脱いで土下座しろ。そしたら許してやるよ!」

「ぎゃははははは!それいいっすね!金剛さん!」

「動画、ちゃんと撮らせてもらいやしょうよ!」

「あたりめぇだろ!はっはっはっ!」

「……」


金剛の言葉に友人二人が楽しそうに笑っている。

そうか……お前ら趣味友だったのか。


どうやらこの三人はいわゆるそっち系の集まりだったらしい。


なるほど、なら星空を返して二人を残した理由も納得がいく。

女の星空には興味ないよな。


とはいえ、流石に気持ちが悪いぞ。

俺は割と色々なことに寛容な自信があるが、流石に許容量を超えている。


鳥肌が止まらない。


「お前ら、流石に気持ちが悪いぞ」

「何だとゴラァ!」

「テメェ今の状況が分かってんのか!?」

「本心を言ったまでだ。さっきの言葉を取り消すつもりはない。土下座をする気は全くないが、もう関わらないでくれ。以上だ」


本当にお願いだからもう二度と関わらないでくれ。流石に引いたわ。




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昨日削除した内容とだいぶ変更致しました。削除した内容はサポーター限定公開、削除理由につきましては通常の近況ノートに書かせていただきました。


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