第四十四話 嫌われたい
「ふぅ……」
動画を見終わった俺は一つため息をつく。
それと同時にドアが開く音がして、声が聞こえてくる。
「ワン君いるー?」
「いるぞ!」
ちょうどいいタイミングで星空が来た。
梯子を登って来た星空は俺を見るなり質問してくる。
「昨日送った動画見た?」
「今見た。流石の俺も戦々恐々としている」
「えっ!ワン君が!?ええっ!」
星空がかつてないほどの驚きのリアクションをとっている。
「ああ……。自分が対象になるとは思っていなかったからな。断る事は確定しているんだが、あそこまで熱烈なアピールをされると気味が悪い」
「へー、流石のワン君もあそこまでされると怖いんだー」
「当たり前だ。自分がそういうものの対象とされるとは。震えが止まらない」
「ふーん……。ワン君って暴力苦手?」
「は?何言ってんだ?」
「あー、やっぱりか……。いや何でもない」
星空が突然意味分からない質問をしてくる。
暴力って何だ。
決闘のことか。それとも金剛がDVをするってことか。
決闘は決闘。ルールを決めた試合だ。
それならばDVのことか。星空よ、俺は奴を受け入れるつもりは毛頭ないぞ。断固とした態度を見せてやる。
しかし、そんな俺の様子を見て星空は苦笑いをしている。
「あり得なくはないと思ってたんだけど……」
「あり得なくはない?何が?」
「ワン君、もしかして金剛に好かれてる思ってる?」
「え、うん」
「うんなんだ……」
うんなんだじゃない。俺の貞操の危機だぞ。もっと真面目に考えてくれよ。
すると、星空は両手で顔を抑えて俺をじっと見ながら呟く。
「うーん、どうすればいいんだろ」
「本当だよなー、どうすれば諦めてくれるのか」
「何が正解なんだろ」
「全くだ。正直嫌ってくれた方がありがたい」
嫌ってくれるなら、もう関わりたくないと思うだろう。そのまま二度と関わってくれなければ最高の結果だ。
そう思っての言葉だったのだが、星空は呆れたようにため息をつく。
「はぁ、ワン君……」
「何だ?」
「ワン君、一つ物凄い勘違いをしてるんだけど……」
「勘違い?何のことだ?」
「ワン君、金剛に好かれてないよ?」
「は?」
星空は一体何を言ってるんだ。どう考えても金剛は俺の事好きだろ。あれだけアピールされて分からないほど俺は鈍感じゃないぞ。
初手に彼女がいるのか確認、面白くもない俺の言葉にやり過ぎなほどの大爆笑。俺と会話しただけで人を殴るほどの怒りが一転、気分良く帰宅。
その後も校舎裏で俺に自身の力の誇示を示す強さアピールをしてくるなど好意を寄せているのは明らかだ。
極め付けは昨日の自分の晴れ姿を俺に絶対に見せようとしてくるところ。
ブルリ。
俺は金剛の強引な好意アピールに背筋を振るわせる。
これ程のアピールをしているのに分からないとは、星空……お前鈍感なんじゃないか?
「星空、もしかして恋愛漫画とか嫌いなのか?」
「いや大好きだよ!読み漁ってるからね!」
「なら金剛が俺のこと好きなのは分かるだろ」
「分からないよ!どう見ても金剛はワン君のこと嫌いだよ!」
「何言ってんだか……」
寧ろどこが俺のことを嫌っているのか。嫌いなら俺のことなんてどうでもいいだろう。関わりたくない、考えたくもないと考えるはずだ。
しかし、金剛は俺からは何もしていないのに俺と無理矢理にでも関わろうとしている。
これはどう考えても恋だろう。
俺はそんな気持ちになった事はないが、知識としては知っている。星空も恋愛漫画を読み漁っているならば知っているはずなんだが。
俺は星空に呆れてやれやれと首を横に振る。
「ワン君……」
「星空、俺は金剛に嫌われたいんだ。もう二度と関わって欲しくないんだ。どうすればいいのか考えてくれ」
「嫌われるのはもう達成していると思うけど……」
まだ言うか。
「まあ……どうしよう。こう言うのってはっきり言うのがいいと思うんだけど」
「あー、それありだな。俺はお前に興味がないって。恋愛対象として見る事はできないってはっきり言うべきだな」
人の好意には鈍感だが、流石に恋愛漫画読み漁っているだけあって鋭い意見をくれるな。
確かに星空の言う通り、中途半端に相手を傷付けないようにと曖昧なことを言えば可能性があるかも、と希望を与えてしまう。
それならばはっきりと断り、可能性がないと言うことを伝え、金剛には次の恋に進んでもらおう。
「はぁ……」
仕方がない。モテる男の辛いところ。嫌われ役をやってやるか。
俺の心は決まった。そう思って星空に感謝の言葉を伝えようとすると、星空は困った顔をしながらも納得したように頷く。
「むー、ワン君がそれでいいならいいけど……。ねぇねぇ、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「何だ?」
「ワン君と金剛君の話し合い、私もついて行っていい?」
「星空が?いや、駄目だ。男の涙を見るのは俺だけでいい」
最悪一発殴られるかもしれない。ステータスは相園先輩のステータスで行こう。
「うーん、でも拗れるかもしれないじゃん?昨日も私だけ行ってワン君いなかったし。金剛に関してはワン君よりも一応早くからの付き合いだから私がいた方がスムーズに話し合いが済むと思うなーって。どう?」
「……なるほど」
確かにお互いの知り合いを間に挟む、と言うのも手としてありだ。俺に聞かされていない相談なんかを金剛が星空にしている可能性もある。それを知らずにあれこれと話すと余計な怒りを生むかもしれない。
星空はそうならない為の仲介役を買って出てくれているということか。
だがしかし、俺はそんな星空に一つ疑問を持つ。
「俺も一つだけ星空に聞いていいか?」
「え、うん!なになに?」
「星空ってもしかして……金剛のこと好きなのか?」
「そんなわけないでしょ!気持ち悪いこと言わないで!」
星空の叫び声が校舎の屋上に響き渡った。
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