第四十三話 狙われる俺

翌日、目覚ましの音と共に俺は目を覚ます。


「あー、朝かー。だるい……」


昨日は夜遅くまで新作のゲームをやりすぎてしまった。完全な寝不足で、だるくて起きたくない。


「どうしよう。休もうかな……」


別に遅刻や欠席の一回二回で怒られたりはしない。中間も総合で30位以内に入っており、勉強は出来る方だ。テストで結果を出している以上、文句を言われる筋合いはない。


「うーん……」


とりあえず一旦寝ようか。そう思った時、星空からラインが来ている事に気づく。

中身を開いてみると、昨日の金剛対先輩達四人の動画が載っていた。


「興味ないって言ったんだけどなぁ……」


相変わらずのお節介焼きだ。


「ふわぁぁぁぁ」


動画の後にはご丁寧に、絶対見て、と書いてある。


どうせしょうもない動画だろ。


そう思いながらも、俺は動画を開く。


「……」


眠気を我慢しながら俺は星空のAFCで撮られた動画を確認する。


「はぁーー……」


見ている間も欠伸が止まらない。金剛対先輩達の戦闘は、あまりに一方的だった。先輩達四人の果敢な攻めを金剛が軽々と避けるか逸らし、それが十分以上続いた。

そして、先輩達が力尽き膝をつきそうになると同時に攻守が逆転し、それぞれを一撃で叩きのめした。


最後に顔にあざを作った先輩達を並べて「横狩りをしてしまい申し訳ございませんでした」と、揃って土下座をさせているところで俺は動画を止めた。


「ふぁぁぁ……」


しょうもない動画だった。


結局先輩達が横狩りをしていたようだ。それであんなふうに先輩面をするのはいかがなものか。星空もよくこんなもののために時間を割けるな、と呆れてしまう。


「眠……」


眠気が限界に来たため、俺はスマホを放り投げ、また眠りについた。


キーンコーンカーンコーン。


二限目が終わるチャイムの音と同時に俺は校舎に入る。


「ねぇあれって……」

「ああ……」


なんか噂話をされている気がする。まあ別に気にするようなことでもないか。


そう思いながらも教室に向かい、1年Fクラスの教室のドアを開ける。


俺がドアを開けると同時にシンと静まり返る教室。

何だろ。いつもと様子が違うけど。


そう思いながらも、俺は自分の席に座る。


「ふぁぁぁぁ」


2時間追加で寝たが、まだ眠気が治らない。


「あー、だる……」


そう呟いて机に突っ伏した所、横から声をかけられる。


「ちょっと、小鳥遊!」

「あ?」


机に突っ伏したままそちらを見ると、文月と如月が不機嫌な表情で俺を見下ろしていた。


「何?」


君達、本当に俺のこと好きね。文月に至ってはもう関わってこないでとか言ってなかったっけ?


「あんた、昨日何で来なかったの?」

「如月から聞いてないのかー?家に帰ってゲームやってたからだけど?」


俺がそんな風に答えると、如月が俺の机に両手を叩きつけて怒鳴る。


「あんた、誰を怒らせたか分かってるの!?」

「……寝不足で耳に響くから大きな声出さないでくれ」


俺は叩きつけられた手を見ながらぼやく。


「誰を怒らせたって……。金剛だろ?だったら何だ?」

「だったら何だじゃないわよ!あんた動画見たんじゃないの?」

「動画?ああ、星空から送られて来たやつか。見たぞ。……って言うか何で知ってんだ?」

「星空から聞いたからよ。それで、あんたはどうするつもりなの?」


文月は相変わらず髪をいじりながら聞いてくる。


「どうって?何が?」

「何がじゃないでしょ!金剛との決闘はどうするのって聞いてるの!」

「決闘?」


何のことだ。俺は決闘なんて挑まれていないしする気もない。


「動画見たんじゃないの?」

「見たぞ。先輩達が土下座して謝っていたな」


そこで見るのをやめたが、そういえば動画はそこから少し続いていたような気がする。


「そのあとよ。金剛があんたに決闘を挑むってあの場で宣言してたの」

「は?」

「本当に見てないの?」

「しんっじらんない」


二人は馬鹿にしたようにため息をつく。

あいつ、そんなに俺のこと好きなのか。決闘なんて挑まれても俺は普通に断るぞ。しかし、金剛は俺のことをそう言う目で見ていたのか。決闘なんてやる気はないが、そこまでして俺のことを手に入れようとする金剛に寒気すら感じる。


貞操の危機を感じ、俺は少し青い顔をする。俺の表情の変化に気付いた二人が呆れている。


「やっと自分の置かれている状況に気付いたの?」

「今更気付いても遅いと思うけど」

「ああ……どうにかして金剛を諦めさせられないか?」


俺は震えながら二人に懇願する。


「……無理よ。今朝もこのクラスにまで見に来て、あんたに決闘挑むって伝えとけって言ってたし」

「どうしてもって言うなら土下座でもすれば許してくれるんじゃない?知らないけど」


土下座か。最悪ありだな。決闘になって俺が負けたら考えておこう。


「とにかく、ちゃんと後のこと考えておきなさいよね」

「ふん!」


そう言って2人は去っていった。


二人の言う通り、これはちゃんと対策を考えておく必要があるようだ。俺はスマホを取り出すと、星空にお昼に屋上に来るようにラインを送った。


その日の昼、屋上のいつもの場所で俺は昨日の動画の見ていなかった最後の部分を再生する。


「くっくっくっ、あーはっはっはっは!無様っすね、先輩」

「……」

「いいっすよ!先輩達の土下座に免じて昨日の横狩りの件、許してあげっからよ!はっはっはっ!」


金剛は土下座をしている四人の先輩をみてひとしきり笑うと、観客達をぐるっと見回し始める。


「おい、ザ・ワン!見てるか!これがテメェの末路だ!」


そう叫ぶが、周りの生徒達はしきりに辺りを見回しているだけだ。

その事に何か感じたのか、金剛はご機嫌だった顔を露骨に歪め不快な顔をする。


「あっ?おい、まさか来てねぇって事はねぇよな?」


そういうとぐるりと再度辺りを見渡し、すぐに金剛がこちらを直視する。


「おい恵!ザ・ワンはどうした!?」


一瞬俺と目が合ったような気がしたが、星空に言っているようだった。


名前を呼ばれた星空は生徒達をかき分けて前に出る。


「ワン君なら来ないよ。あんたのつまらないショウよりゲームの方が大事だってー、残念でしたー!」

「あ?てめぇ調子に乗んなよ?」


星空の言葉にイラついたのか、金剛は木刀を握りしめながら早足で星空に近づいていき、空いている左手で星空を掴もうとする。


「シャドウブレイク」


金剛が恵に掴みかかろうとしたその瞬間、そんな声と共に金剛の真横の床から真っ黒な拳が生えてくる。


「ぐっ!」


金剛はその拳に反応し、咄嗟に腕で防御する。しかし、凄い衝撃だったのかおよそ人間が出す音とは思えないほどの衝撃音と共に数メートル吹っ飛ばされる。


だが、それほどダメージを与えられていないのか、地面に足がつくなりあっさり体勢を立て直す。


「これは影魔法……。って事は」

「はーはっはっはっはっ!見たか!我が影魔法の威力!貴様の脳髄に響いたであろう!?」

「透ちゃん!」


いつの間にかマントをしていた星空の友人らしき女子生徒が生徒をかき分けて出て来ていた。


「透、てめぇ……」

「恵は我が魂の片割れ。其奴に手を出すと言うのであればこの我、影の魔王トールが相手になろうではないか!シャドウハンド!」


透の声と共に透の影が複数に分裂しながら透の周りを浮遊し始める。


「まっ、当然私達もだよねー!」

「そうそう」

「レオちゃん!はるちゃん!」


同じく前に出てくる二人に星空が感激している。


「あん?てめーら……Aクラスごときが調子に乗ってんじゃねーぞ!」

「金剛」


駆け出そうとした金剛を審判役だった生徒が静かに語りかける。


「決闘でお前がFクラスのそいつらをどう扱おうがどうでもいい。だが、予定されていない他クラス生徒との単なる喧嘩であるなら、俺は一学園生としてお前を制圧しなければいけなくなるが?」


その迫力に金剛は舌打ちをし、両手を軽くあげて降参の意を示す。


「……ちっ、分かりましたよ。まっ、目的は達せられましたしね。おい恵!どうせ動画撮ってんだろ!それザ・ワンに見せろよ!」

「データは送っておくけど見るかどうかはワン君次第だから」

「ちっ、相変わらず舐めた野郎だぜ」


そう言うと金剛は背中を向けて帰っていった。

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