第四十二話 私が一番怖いこと

『今日金剛がFクラスの先輩と決闘するみたいだけど、ワン君は見にいくの?』

『行かない』

『何で!?』

『ゲームしたい』

『ゲームより絶対こっちの方が大切だって!』

『絶対ゲームの方が大切』

『もーワン君ったら!一緒に観に行こうよ!』

『無理帰る』


「……はぁ」


スマホのラインを見ながら私はため息をつく。誘わないと絶対来ないだろうなと思ったのだが、誘っても来なかった。


「ワン君どうだって?」

「あははは、行かないって……」


パーティーメンバーの清水玲央からの言葉に私は乾いた笑いを返す。


「やはり来ないのか。一度噂のワンとやらと話がしたかったのだが」

「うーん、ワン君気難しいからねー。ゲームの方が大切だってー」

「ふふふ、残念!」


同じくパーティーメンバーの右京透と春宮雫も残念がる。私はスマホの画面を見ながらワン君を連れ出す方法を考える。


しかし、無理やり連れ出しても嫌がるだろうし、素直に諦めるしかないだろう。


「仕方ないから四人で行こ!」

「「「うん!」」」


私は三人を連れ立って第二戦闘訓練室に向かう。


「ねぇねぇ!みんなはどっちが勝つと思う?」

「うーんやっぱり金剛君じゃないかな」

「金剛一択!」

「私も金剛君だと思う!」

「だよねー」


金剛とFクラスの先輩のどちらが勝つのか聞いてみてと、満場一致で金剛が勝つとの予想になる。


これも予想通りだ。最高レベルのスキルである剣王はそれほど強い。正直大したスキルを持っていないであろうFクラスの先輩では勝ち目がない。

何かしら戦闘で有用なスキルを持っていたのだとしたら2年生で9階層にいたりなどしないだろうから。


「気持ち的には先輩に勝って欲しいんだけどねー」

「剣王が強すぎる……我が影魔法でもどうか……」

「透ちゃんなら絶対勝てるよー!」

「ふっ……」


などと言ってみたものの、Aクラス最強である彼女であってもきっと金剛には勝てないだろう。


まあそんな日は来ないだろうけど。


「それにしてもワン君、金剛君に目を付けられている様だけど、大丈夫なの?」

「うーん、わっかんない!」


心配そうに聞いてくる玲央ちゃんの言葉に私は嘘をつく。


わかんないなんて嘘。ワン君が負ける所なんて想像もつかない。


ワン君のスキル、コピーは最強のスキルだ。最強のステータスと最強のスキルを自由に組み合わせる事ができ、相手によって好きに変更することもできる。


だけど、多分、ワン君の凄まじさは、コピー以上にワン君の素のステータスにその本質があると思っている。


ワン君のスキル、コピーは世界で唯一無二のスキルだ。しかし、世界で唯一無二のスキルを持つのはワン君だけじゃない。


ロシアの白い死神、アレクサンドル・ドバニコフ。

アメリカのノットゼロ、エレナ・K・ジパング。

フランスのカタストロフィ、ウィリアム・エバンス。

イギリスのマッドマン、アステリア・ヴィンセント。

南アフリカの部族王ヤオバオ。


全員が世界中の誰も持たない唯一無二のスキルを持っている。


だが、彼らに共通するのは唯一無二のスキルだけではない。

それは初期覚醒度が全員50%を超えていたことだ。中でもフランスのカタストロフィ、ウィリアム・エバンスは初期覚醒度が58%と観測された覚醒度では世界最高とギネス記録にも載っている。


ワン君はきっと彼らと並び立てる人間だ。


覚醒度も50%を超えているはず。


そんな彼らを近くで見た人間はきっと皆んなこう思ったと思う。


「この人が負けるところなんて想像ができない」って。


私もそう思う。例えフランスのカタストロフィが相手でも、ワン君が負ける所なんて想像がつかない。


覚醒度30%程度の金剛ではきっと相手にならない。


でも、ワン君は悪意に対してあまりに鈍感だ。金剛に嫌われている事も標的として狙われていることも自覚なんてしていないだろう。好かれていると思っている可能性すらある。


あり得ない。普通に考えたらあり得ないけどワン君ならあり得る。


そんなワン君が、人の悪意に気付き、単純な暴力に身を任せてしまうこと。それが私は一番怖い。


「はっはっはっ!逃げずに来たか!劣等生共!」

「お前こそ、本当にこの条件でいいんだな?後で後悔しても遅いぞ!」


既に超満員となったこの第二戦闘訓練室にて、金剛一人に対して、先輩達は四人で相手をするようだ。


「ほぉ、四対一か。これは想定していなかったな」

「うーん、それなら先輩方にも勝てる可能性あるかもー」


先輩方にも勝機を見出す透ちゃんと玲央ちゃん。


「でもー、金剛君が負ける可能性のある戦いなんてするかなー?」

「ふっ、奴も探索者の端くれ。自身に大きな枷を付け、更なる成長に繋げると言うことであろう」

「ふふふ、そうかもねー」


透ちゃんが腕を組み、低音ボイスで格好をつけながら的外れなことを言って、雫ちゃんが笑ってる。


「てめぇみてぇな生意気なクソガキを教育するのも先輩の勤めってな!」

「くっくっくっ。おいおい、お前らがそんなでかい顔を俺に出来るのはたまたま一年俺より早く生まれたってだけだ。何かを積み重ねたわけでも成し遂げたわけでもねぇのによくそんなこと言えるな。くっくっくっ、お前ら恥ずかしすぎて可哀想になって来たわ」

「ぐっ……その減らず口、すぐに出来なくしてやる!」


先輩達四人がそれぞれ練習用の装備を手に取り構える。

金剛は木刀を肩に背負ったまま構えようとしない。


しかし、審判役の生徒がそれを見て注意することなく、決闘を開始させる。


「では、両者、準備はいいな?模擬戦闘訓練、始め!」


その合図と共に始まった先輩四人と金剛との決闘。


その決闘は結論から言うとあまりに一方的だった。

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