第三十九話 お返し

何故か笑顔の星空と共に9階層を更に攻略していく。


高い場所にいるコボルト達は俺が攻撃を防ぎつつ、星空が魔法で撃破する。


最大六体のコボルトのパーティーと戦ったが、苦戦という苦戦をする事なく倒せた。


「うーんやっぱり強い前衛がいるとパーティーが安定するねー」

「ヒヤリとする場面は全然なかったな。星空の固定パーティーで戦う時の参考になるかは分からないが……」


俺の戦闘は基本的に高いステータスによるゴリ押しである。


今日は星空が配信をしているので、魔法は一切使わない戦闘だった。だから、剣のみでの戦闘だったのだが、コボルトはもはや敵ではない。コボルトファイター四体が一斉に突撃してきた時も軽々あしらい、全員一刀の元に切り伏せた。


中には剣でガードしようとしたコボルトもいたが、そのガードごと叩き潰すように粉砕した。


「不満があるとかじゃ全然ないんだけど、私のパーティー、アタッカー1、ヒーラー1、マジシャン2なんだよねー」

「あー、バランス悪ぃな」


星空の言葉に俺も呆れるように同意する。


アタッカーが2でマジシャン1ならともかく、前衛1に後衛3は前衛の負担が大きすぎる。


せめて優秀なアタッカー、出来ればタンクが一人欲しいところだ。


「そうなんだよねー。私のパーティーって全員配信者で固めているから、気軽に募集出来ないっていうのもあるんだけど、女子でアタッカーやりたい人、あんまりいないんだよね」

「ふーん……、うん?女子じゃないといけないのか?」

「私はパーティー女の子で固めてるの!」

「へー、なら女子を募集すればいいんじゃないか?」


女で固める事にこだわりがあるらしい。別に男を入れてもいいと思うけどな。

それに星空はAクラス最強パーティー。募集すれば女子でも前衛やりたい人いると思うけど。


「女の子で前衛強い子、もう殆どパーティー組んじゃってるんだよねー。今からってなるとー、うーんBクラスで勧誘することになるね」

「あー、レベルが合わないか」


それに覚醒度も10%近く変わってくるだろう。そうなると、同じ階層で同じ魔物を倒していてもレベル、ステータスに大きな差が付いてきてしまう。


そうなれば遠からず、低い覚醒度のパーティーメンバーはパーティーから外れてしまう事になる。


既に新入生達が迷宮に入って二ヶ月を過ぎている。パワレベをした如月や文月を除けば彼女達のパーティーに釣り合う前衛はいないだろう。


「あっ……!」

「わっ!ワン君どうしたの?」


俺は思わず声を上げてしまう。星空が驚いてこちらを見てくる。


いるじゃないか。如月と文月が。丁度パーティーを探していたはずだ。


二人とも魔法は持っておらず、前衛から中衛希望だったはずだ。覚醒度が低いからレベルは高くてもステータスは星空よりも少し低い。


だが、それでも大きくは変わらないはずだ。この二人ならば星空のパーティーの前衛になれるのではないだろうか。

我ながらいい案を思いついたものだ。


「星空、お前のパーティーの前衛をできる生徒、俺、多分紹介出来るぞ」


俺は顔を覆うスカーフの中でニヤリと笑いながら星空にそう言う。

俺も星空に色々してもらった身だ。ここで一発恩返しでもするか。


そう思っていたのだが、当の星空は嫌な顔をして首を横に振りながら離れてしまう。


「いえ、結構です」

「おいおい、遠慮するなって。なんと、星空よりもレベルが高い二人組だぞ」


星空は遠慮をしているのか。それとも誕生日プレゼントの代わりに二人を紹介することでチャラにされるとでも思っているのか。


「いえ、本当に結構です」

「安心しろ。誕生日は誕生日でちゃんと考えておくから。これで恩を全部精算するなんて言わないぞ」

「いやそんなこと考えてないよ!それとは別でいいって言ってるの!」

「……」


星空の剣幕に俺は驚いてしまう。どうやらこれは本当に嫌がっているらしい。何で?


星空のパーティーのまま下の階層に行くのは難しいのではないかと感じてしまう。


俺は別に迷宮探索には詳しくないし、星空のパーティーがどんなスキルを持っているのかも知らない。


だから、ゲームでの浅い知識になってしまうが、前衛1後衛3はいくらなんでもバランスが悪いだろう。せめて、もう一人でもまともに魔物の攻撃を受けれる前衛が必要なはずだ。


そう思っての提案だったのだが、星空は嫌なようだ。


まあ嫌ならしょうがない。もしかしたら四人のままがいいのかもしれない。


『ワン君かわいそう;;』

『めぐたん誰かくらい聞いてあげたら?』

『めぐたん辛辣w』


そう思ったのだが、コメント欄では押し黙った俺に対する同情のコメントが流れる。


星空はそれを見ながら、微妙な顔をする。


「だってワン君が紹介する二人組ってあの二人でしょ?」

「あの二人?」

「パワレベしたって言う二人……」

「おお!よく分かったな!星空、エスパーなのか?」

「いや分かるよ!ワン君の知り合いってだけで察したもん!」

「そうなのか……」


二人ってわかってて断っていたのか。何で嫌なんだろ。やっぱり覚醒度の問題だろうか。


覚醒度が20パー近く変わってくると、レベルアップの際に得られる恩恵がかなり変わってくるらしい。今はまだ大したことはないが、長い目で見れば、確かにパーティーを組むのは得策ではないのかもしれない。


「言っておくけど、私が二人の紹介を断る理由、ワン君が考えている理由と絶対に違うから」

「なに?星空、人の考えていることがわかるのか?スキルか?」


もしそんなスキルを星空が手に入れたのだとしたら、俺は苦労して手に入れた相園先輩のスキルを消して星空のスキルに変えてしまうだろう。


「違うよ!でも絶対にズレているのは分かるの!」

「なに……?」


ズレている?

ちょっと何言ってるのか分からないな。俺の考えは双方のメリットデメリットを考えてだなー。


「とにかくワン君からの紹介は大丈夫!」


しょぼーん。

はっきりとした星空の拒絶に俺はすこし落ち込んでしまう。そんなに信用ないですかね。


『とりつく島もないw』

『辛辣すぎて草』

『ワン君信用なさすぎて草』

『ワン君……;;』

『でもぶっちゃけ気持ち分かるw』


コメント欄では俺への励ましの言葉と、星空への同情の声が半々で流れてくる。

気持ち分かるって何だ。分かるんじゃねぇ。


「じゃあキリもいいし、今日はこの辺で帰ろうか」

「ああ、そうだな」

「じゃあ!今日の迷宮探索はここまでー!ばいめぐめぐー!」


『ばいめぐめぐ』

『ばいめぐめぐ』

『ばいめぐめぐ』

『ばいめぐめぐ』


そしてAFCの配信中を示す赤いランプが消える。


「ふぅー、今日も大満足!」

「相変わらずの人気っぷりだな」


額の汗を拭きながら、笑顔でそうため息をつく星空を見ながら、俺は感嘆の声を上げる。


「ふっふっふー、最近は案件の依頼とかたくさん来てるんだよー」

「案件?」

「うん!迷宮関係の装備品の会社だったり、全然関係ない会社だったりだけどねー!」

「へー、すげーな」


案件。企業からお金を貰い、その企業の商品をアピールする事。


同接平均1万超えは伊達ではないらしい。


「……あれ?何か聞こえない?」

「ん?ああ、なんか怒鳴り声が聞こえてくるな」


面倒ごとの匂い。


「よし帰ろう!」


俺は満面の笑みで速攻踵を返した。

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