第三十八話 プレゼント

中央迷宮9層。


果てなき荒野と呼ばれるその階層は、所々に枯れ草や巨大な岩がゴロゴロと無造作に転がっている乾いた階層だ。


出る魔物は、7層のコボルトソルジャー、8層のコボルトレンジャーに追加で、この階層から出るコボルトマジシャンが出没する。


8層で初めてのまともな遠距離攻撃を行う魔物が現れ、9層では物理的な遠距離攻撃に加え、中央迷宮初の魔法攻撃を行う魔物が現れる。


15層の小高い程度の丘しかないだだっ広い草原とは違い、回り込まないと人が登れないような高めの崖なども所々に存在し、崖下を無警戒に通ると上から矢や魔法が飛んでくることが多々起こる。


学園側が出している推奨ステータスよりステータスが低いと一瞬の油断や気の緩みが大事故に繋がりかねない。


コボルトはゴブリンよりも知恵が周り、伏兵や連携はお手のもの。更には仲間がやられて不利になると猛ダッシュでの逃走も行う非常に厄介な魔物だ。


しかも足も早く、中学生の男子平均並の速さで走る為、生徒によっては逃げるコボルトに追い付けず、追った先で待ち伏せをされ痛い目を見る、ということも多々起こっている。


それ故に、8階層からの迷宮攻略は難易度がそれまでと段違いに上がり、2年生になっても9層から下の階層に行けない生徒もいるくらいだ。


今日は星空のパーティーメンバーが忙しく、パーティーでの迷宮攻略がお休みという事だったので、星空の勉強がてら俺達は9層にやってきていた。


「ワン君、ファイヤーボール行ったよ!」

「オーケー」


コボルトが俺に向けて口を開け、火の玉を発射してくる。それを最近新調した剣で真っ二つにする。

それと同時に星空が杖をコボルトに向け、魔法を放つ。


「サンダーボルト!」

「キャウン!」


遠くにいたコボルトが星空の一撃を受けて悲鳴を上げ、倒れて黒いモヤとなり消える。

コボルト達がいなくなったのを確認した俺達は、残った魔石を拾う。


「その剣、いい感じだね!」

「ああ、若干重いが、硬さも魔法伝導率の低さも含めて使い勝手がいい」


俺は腰に刺し直した剣を見ながらそう答える。


ヘビーメタルソード。通称・切れる鈍器。


ヘビーメタルと呼ばれる迷宮の中でしか採掘できない鉱石を使って作られた剣だ。


とにかく硬い鉱石で、迷宮産のアイテムを使用した高炉でしか素材を変質させられない為、武器や防具にするのに非常に手間のかかる鉱石なのだ。


このヘビーメタル、通常は盾や防具に使われ、剣や槍などといった武器に使用される事は殆どない。


何故なら、ヘビーと名の付くように、とても重いから。


武器として扱うには重すぎて、速い魔物には攻撃を当てづらく、このヘビーメタルで作られた武器を軽々振り回せる頃には、ヘビーメタルほどではないにしろ硬くて軽い金属で作られた武器を扱えるようになるからだ。


しかもこのヘビーメタルは、魔法伝導率と呼ばれる武器を通して魔法を使う時の伝導率がすこぶる悪い。

強くなってくると魔法を扱う剣士なども多々現れるわけだが、この剣を使ってしまうとその魔法の威力が著しく低下してしまうのだ。


逆を言えば、盾や防具としては非常に優秀で、弓矢などの遠距離攻撃は勿論、魔法攻撃に対しても高い防御力を誇る優秀な金属となる。


俺が持っているこの剣は、この学園に存在する部活、武器研究部の生徒から安く譲ってもらったものだ。


興味本位で作っては見たものの、重くて使い辛く、倉庫で埃を被っていたらしい。まともに振れるなら安く譲ってやると言われたので、俺の素のステータスで振ってみたところ、若干重いものの問題なかった為、買い取らせてもらった。


硬いから壊れる心配をする事なく魔物の攻撃を受けれるのがありがたいと重宝している。


実は、以前オークに鉄の剣をへし折られた事を若干気にしており、武器をどうするか悩んでいたのだ。


俺や相園先輩の高いステータスで遠慮なく振るには鉄やその上の鋼鉄では心許ない。


そもそもオークの一撃さえ耐えられないのでは話にならない。


そう悩んでいた時に星空に相談したところ、この武器を紹介されたのだ。


交渉諸々は星空がやってくれて、俺がやったのは剣を振ってお金を払っただけだ。


「本当に助かったわ」

「いいよこれくらい!」


俺の感謝の言葉に星空は満面の笑みで返答する。

謝礼としてお金を渡そうと思ったのだが、やはり受け取らなかった。友達だからいいのだそうだ。


友達ってそういうのだっけ?

俺なら絶対遠慮なんてせずに貰うのに、星空は変だ。


星空は遠慮しているが、後で何か返さないといけないな。断られたけどパワレベでもしようか。もしくはレアドロップでも贈ろうか。


「星空、何か欲しいレアドロップとかあるか?」

「え?なになに?何かプレゼントしてくれるの?」

「おう!お礼に欲しいものあればとってくるぞ」


15層までならソロでも問題ないことが分かったし、まだ体感余裕のある感じだった。その辺りの魔物ならレアドロップ品を持って来れる。


「本当にお礼はいいって!誕生日とかに何かプレゼントとかしてくれれば」

「誕生日にプレゼント?つまりお礼は誕生日にしろってことか」


日にち指定か。星空の誕生日がいつか知らないけど、日にちあるならなんとかなるか。


「違うよ!気持ちでいいよって話!」


何言ってるのか分からないけど。気持ちでいいよってなんだ。それは今お返しを渡すのとどう違うんだ。


「うーん……」


やばい。星空が何言ってるのか全然分からない。誕生日プレゼントは渡したほうがいいのだろうか。気持ちでいいのならありがとうでいいのだろうか。


曖昧な事を言われると、どうすればいいのか分からないんだよな。


そんな風に俺が悩んでいると、俺の顔をじっと見ながら笑っている星空がいた。


「何だ、俺の顔に何かついてるか?」

「んーん!別に!何も!」

「そうか」


人の顔を見て笑うとは失礼なやつだ。そう思いながら次の獲物を探しに行った。

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