第三十七話 一人になりたい気分
次の日の昼休み、いつもの屋上には行かずに、学園の敷地内を一人で彷徨っていた。
最近、屋上のあの場所には人が来すぎる。
しかも、毎回俺を目当てにやってくる。俺からはアプローチしていないのに、ほぼ毎日の様に俺を目当てに誰かがやってくる。
星空はまだ分かるが、こっちが顔も名前も知らない様な生徒が毎日の様に尋ねてくるのが面倒臭い。
せめて来るなら来るで何かしら俺の得になるような物を持ってきて欲しいのだが、星空以外の全員が手ぶらでやってくる。
今日もあそこで寝転がっていたらきっと誰かがやってくるのだろう。面倒臭い。
だから今日はいつもの場所にはいかず、ひっそりと静かになれる様な場所を探していた。
中でも第一候補は坂田と話したあの校舎裏。
陽が当たらない日陰であり、日陰で生きるドクダミなどの草が足元に所狭しと生えている。
正直、屋上ほど居心地がいいわけではないが、それでも座って飯を食べれて一人になれる場所ならありだ。
そう思って校舎裏に歩いて行った。
しかし、先約がいるのか声が聞こえてくる。
「なぁ、いいじゃん、いい加減やらせろよー」
「ふざけないで!身体の関係はなしって言ったでしょ!」
「別にいいだろ?減るもんじゃねぇんだしよー」
「やめてって言ってるでしょ!あり得ないから!」
何やら男女が言い争っているようだった。
こんな所にも人がいるのか。うーんダメか。次はどこにいこうか。
そう思いながら気にせずに校舎裏を横切ろうとする。
「小鳥遊……?」
女の声で名前を呼ばれた。
そちらを見ると、手を掴まれていたのは文月だった。
「あーん?」
文月の声に反応して振り返ったのは金剛だ。金剛が文月の腕を握っており、文月は驚いた顔で、金剛はイラついたような顔で立っていた。
その様子に俺は呆れてしまう。
何だ、お前らまた喧嘩してるのか。仲良いね。もう俺は関わらないぞ。
そう思って構わず校舎裏を横切ろうする。
「おいおい、ちょっと待てよ!」
「きゃっ!」
そんな俺の様子が何か気に障ったのか、金剛が怒鳴り声をあげて文月から乱暴に手を離し、俺の方にズカズカと歩いてくる。
そのまま肩を揺らしながら俺の下までくると、ポケットに手を突っ込み、下から睨め付ける様に見る。ポケットに何か入ってるのだろうか。あと、頭下げてももう関わらないからね?
「どこから見てた?」
「どこから見てたって?何も見てないぞ?」
俺が見てたのは金剛が文月の腕を握っていたところだ。別に大したところではないだろう。
「本当か?」
「本当だ」
念を押して聞いてくる金剛に対しておれは正直に答える。
嘘ついても仕方ないだろ。
「……」
「……」
しかし、金剛が俺を探るような目で見てくる。その目を無感情に真っ直ぐに見つめ返す。
ちょっとした無言の時間が続く。
これ何の時間。もう行っていい?
そう言おうとすると、金剛が吐き捨てるように呟く。
「気にくわねぇなぁ」
「は?」
「てめぇの目が気に食わねぇ」
目が気に食わない?今の俺の目、おかしな形をしているだろうか。ちょっと鏡貸してくれないか。
「てめぇのその人を見る目。まるで動物園で檻の中の動物を見るような目だ」
「……は?」
視線の話だったのか。
なら尚更意味がわからないが。そんな観覧気分でお前のことは見ていない。
「そんな目でお前のことを見てなんていないが?」
俺は正直に話すが、金剛は信じない。
「嘘ついてんじゃねぇよ!気持ち悪いんだよ!」
そんなこと言われても。
金剛を視界に映すな、といことだろうか。一応同学年の学生で学園に通っている仲なのだから、顔を合わせるくらいあるだろう。それら一切を意図的に回避するのは無理がある、というかやる気ない。むしろお前が俺の視界に入るなと言いたい。
「てめぇ、ちょっと配信で有名になったからって調子に乗ってんのか?」
「いや?」
何を言っているんだこいつは。むしろ煩わしいと思ってるよ。一人になりたくてこんな所まで来てるのにお前らこそ何でいるの。
「奈々美も双葉もてめえも、Fクラスの雑魚のくせに上位クラスの人間に対する敬意が足りてねぇ」
金剛が吐き捨てるように言ってくる。
敬意?
そんなもの持ち合わせてないが。俺がお前のどこに敬意を持つんだ。
さっきから全く話が理解できない。
面倒臭いのに絡まれたな、と思い、思い切って立ちさろうとする。
「話は終わりか。じゃあな」
「待てよ」
「何だ?まだ用が……っ!」
金剛に止められ振り返ると、次の瞬間、シュッという音と共に何かが俺の左耳をギリギリ掠めながら通っていた。
落ち着いて見てみてると、金剛の腕だ。つまり今俺の顔の横を通ったのは金剛が放った右ストレートだった。
「はっ!やっぱ雑魚じゃねぇか。全く反応出来てねぇ」
確かに金剛の言う通り、俺は金剛の拳が全く見えていなかった。速すぎて動いたと思ったら左耳を掠めていた。これがステータス差か。すごいな。
俺が感心していると、金剛は更に顔を不快に歪ませる。
「ゴミが。テメェらみたいな雑魚は俺らの言うこと聞いてりゃいいんだよ!」
そう言うと、俺の肩に自分の肩をドンとぶつける。
「いった!」
「ざっこ。はっはっはっ!」
タタラを踏み、よろける俺を見て鼻で笑った金剛は、大声で笑いながら校舎に戻っていった。
ステータス差があると、肩をぶつけられただけでこんなに痛いのか。俺はぶつけられた肩をさすりながら目を点にする。
今の俺のステータスは坂田のステータスだ。つまり、防御力は3。対して、Sクラスの金剛の攻撃力は恐らく20を超えているのだろう。
20以上も攻撃力と防御力が離れていると肩を軽くぶつけられただけで、野球ボールを当てられた様な衝撃を受ける様だ。
この中央迷宮の魔物は、ある程度の推奨レベルやステータスが公開されている。魔物のステータスを見ることはできないが、魔物が人間だった場合の推測値のステータスがある。
攻撃力と防御力が20を超えると、肩をぶつけられただけでもこれだけの衝撃が走る。殴られでもしたらとても継続的な戦闘などできない。
精々が10位を目安に迷宮に行った方がいいと言うことか。
なるほど。勉強になったわ。
「いてててて」
それにしてもめちゃくちゃ痛い。
後で湿布でも貰おうか。
そう思い帰ろうとすると、後ろから文月に呼び止められる。
「ねぇ!ちょっと待って!」
「何だ?痛いから用件は手短にしてくれ」
「あの……助けてくれてありがとう」
「は?」
何言ってんだ。俺は何もしていないぞ。
「だから、その……助けてくれてありがとう」
いや聞こえなかったわけじゃないが。助けたつもりはない。なんかやってんな、と思って気にせず出たら絡まれただけだ。
そんな俺の様子を見て文月が不思議そうな顔をする。
「あんた、強いんじゃなかったの?何でそんなに痛がってんの?ふり?」
「いや、フリじゃない。肩をぶつけられただけで相当な衝撃だったぞ。本当にめちゃくちゃ痛い」
これがフリに見えるのか。言っておくがめちゃくちゃ痛いぞ。間違いなく青あざが出来てる。
そんな俺の様子を見た文月が腕を組みながら言う。
「ふーん、ならあいつに逆らうのは辞めた方がいいわね。ボコボコにされたらあんた、二度と迷宮に行けなくなっちゃうから」
「そうか……?」
「とにかく、もうあいつにはもう関わらないで」
そう言って文月は走って行ってしまった。
「どういう事?」
それを見送りながら頬をぽりぽりとかく。納得がいかないんだが。
俺がいつお前らと関わろうとしたんだ。むしろもう関わらないでくれと俺が言いたい。
「しかし、こんなところにも人が居るのか……」
次はどこに行こうか。
そう思いながら、この場を後にするのだった。
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