第三十話 試し
俺はその日のうちに、魔法を試そうと、星空と共に六層深淵の森に来ていた。
「ダークショット」
見つけたホブゴブリンを指差し、そう呟くと、俺の指先から黒い球が生まれ、飛んでいく。
雷魔法ほどではないが、かなりの速度で飛んでいき、ホブゴブリンの頭を抉るように貫通する。
「えぐっ!」
星空が一瞬で頭部を失ったホブゴブリンを見てそう叫ぶ。
これ、レベル1の魔法なんだけど、流石の32レベの魔法攻撃力。
六層のホブゴブリン程度ならあっさり一撃で倒すんだな。
「強すぎっ!」
「まあ学年最強の魔法使いのステータスだからな。一撃なのは当然だな」
「そうだよねー、うーん前々から思ってたけど、ワン君のコピー強すぎない?」
「それは俺も思うぞ。これでレベル上げも捗るからな」
「それもだけど、他人のあらゆるスキルを全て使えるって正直あり得ない事だよ」
「ああ、そうだな」
当たり前のことだが、スキルを発現しなければ、持っていない魔法やスキルは使うことが出来ない。俺以外の探索者達は、その場の状況に応じて手札を変えることが出来ないのだ。
しかし、俺は複数のスキルを持ち、複数のステータスを持てるので、敵に対して弱点となる有効なステータスとスキルを持って挑むことが出来る。
探索者からすれば喉から手が出るほど欲しいスキルだろう。
「あーあ、私も闇魔法使ってみたいなー」
「いつか覚えることを願っとけ。可能性はゼロじゃないぞ」
「うわー、余裕のある人間の言葉ー」
いや、単なる事実なんだが。
覚えなかったら覚えなかったで仕方ないしな。少なくとも覚醒度28%あって、雷魔法まで使える星空はだいぶ恵まれた方だと思うぞ。
「しかもこの暗視魔法まで。もう、便利すぎ!」
俺たちは前回と違い明かりは何もつけていない。それでも問題なく動けるのは、闇魔法にある暗視の魔法、ナイトビジョンのおかげだ。
この魔法のおかげで、真っ暗闇のこの森でも昼間と大して変わらない明るさで行動出来るのだ。
「確かに便利だよなぁ。多分この相園先輩のステータス、長く使い続けると思う」
魔法も便利で暗闇でも昼間と変わらない行動が可能な魔法があるスキルなど、人に魔法を持っていることをバレたくない俺からすればうってつけの能力だ。
是非とも長くお世話になりたいものだ。
それから一時間ほど星空と一緒に狩りをする。
「サンダーボルト!」
星空の魔法により、ホブゴブリンが一撃で消し炭になっていく。
「あっ!」
ホブゴブリンが消えた瞬間、星空が声を上げた。
「どうした?」
石斧でも投げられたか、と思い星空を見ると、当の星空は両手を見て拳を固めている。
「レベル、上がったみたい!」
「おめでとう。これで8レベルか」
「うん!ありがとうね!」
星空も満面の笑みだ。俺も満足したし、これで帰るか。
そんな時だった。
「何か言い争いしてる声聞こえない?」
「は?」
星空が突然そんなことを言い始めた。ここは低階層で最も過疎ってる六層。生徒なんて碌にいないはずだろ。
そう思って耳を澄ますと、確かに声が聞こえてくる。女性っぽい声で何か怒っているように聞こえる。
「どうする?」
「どうするも何も、よそのパーティーのことに口を出すのは良くないだろ」
「でも、魔物に襲われて大変なことになってるかもしれないよ?」
「あー、なるほど」
それなら行くか。
女の方が一方的に怒っているように聞こえるので、喧嘩のように思えるが、まあ見るくらいいいだろう。
そう思い、星空と共に声がする方を見に行く。
少し走ると、遠くに三人の男女が立っており、言い争っているのが見えた。
近くの木に隠れ、様子を見守る。
「ちょっと!自分一人で倒し過ぎないでよ!」
「うるせぇなぁ。オメェらの為にパワレベ手伝ってやってんだからガタガタ抜かすんじゃねぇよ」
「これじゃパワレベにならないじゃん!」
言い争っている女子生徒は如月と文月だった。
またあいつらかよ。そう言えば6レベとか言ってたな。
彼女達の覚醒度で、6レベだと、この階層の安全マージンを下回る。
それでもこの場にいるってことは、パワレベのための強い生徒をパーティーメンバーに出来たということだろう。
それが口論相手の男子生徒だろう。
金色のアクセサリーのネックレスや指輪、耳にはピアスなどを開けている派手な男子生徒だ。
「うっわ……あいつかー」
その男子生徒をみた星空が嫌そうな声を上げる。
「知ってるのか?」
「うーん……知ってるけど……あいつと組んだんだー」
「うん?ダメなのか?」
歯に何か挟まったような物凄い顰めっ面をしている星空に男子生徒がどうしたのか問いかけてみる。
「やばいね。私の知る限り、一番関わりたくないタイプ。よりにもよってあいつかー」
割とコミュニケーション能力が高く、人嫌いをしない星空がここまで嫌うとは。
そんなにやばいやつなのか。
それでも如月達がパーティーを組んでいるということは強いということなのだろう。
「あの男は強いのか?」
「1年Sクラス金剛恭介。1年最強の学生だよ」
「最強?1年最強って花園千草じゃなかったか?」
「うん。パーティーとして最強なのは花園さんのパーティーだよ。本人の覚醒度やステータスもだけど、何より花園さんの持つパーティーバフスキルが強力すぎるから。だけど、彼が持つスキル「剣王」も同じくらい強すぎるんだよね」
「剣王?」
「うん。「剣聖」に並ぶ剣の最高スキルの一つ」
「ふーん」
それがどのくらい強いのかよく分からないけどね。まあ強いんだろう。将来のコピー対象として記憶しておくか。
そんなことを考えていたら、目の前の争いが白熱してきた。
「それじゃあパーティー組んだ意味ないじゃんって言ってんの!」
「うるせぇんだよクソ女!」
そう怒鳴り、激昂した金剛の方が拳を振り上げてしまった。
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