第二十九話 背後
俺は星空の手を握ったまま校舎裏に来る。
「ここなら誰も来ないな。じゃあ早速だけど……」
「いや、ちょっと待って!さっきの二人について教えてよ!」
「さっきの二人?如月と文月の事か?なら尚更知らん。なんか意味わからないこと言ってたぞ。そんなことより」
「いや、そうじゃなくて!二人とパーティー組むの?」
「は?組むわけないだろ。俺の事情知ってるよな?パーティーなんか組むメリットないだろ」
心配そうに聞いて来る星空に、呆れたように返す。
「そうだよねー、よかったー」
「うん?別に彼女達とパーティーを組んだからと言ってお前との契約を反故にしたりしないぞ?」
「ありがとう。ただそれよりも、彼女達と組むのはやめた方がいいかなぁ。あんまり良くない噂がたっているから」
「あんまり良くない噂?」
「うん……」
俺が聞き返すと、星空がポツポツと話し始める。
「なんかあの二人、上位クラスの人とか先輩とかにパーティーの誘いをしてるんだよね」
「ああ。それか」
「知ってたの?」
「いや、今も聞いてまわっているのは知らなかったけど、前に上のクラスのやつとパーティー組んでるの見たことあるからな」
Bクラスの正木と組んでいるのを俺は目撃している。何なら解散した原因も知っている。
正木とはもう組まないとか言ってたけど、やっぱり別のやつに声をかけてるんだな。
「それでね。男の子ばかりに声を掛けててね。女の子からそのー、あんまりよく思われてないんだよね」
「へー、何で?」
「何でってそりゃあ女の子からしたらいい気はしないでしょ?」
「何で?パーティーを組んでるからか?」
組んでいるパーティーから人を引き抜くのが良くないことはわかる。
空いた穴を探すのに苦労するだろうし、見つかるまで迷宮に潜れず時間を無駄にする。連携とかも一から組み直さないといけなくなるだろうしな。
そりゃギスギスもするだろう。
しかし、星空は首を横に振る。
「いや、そうじゃないけど。でも、ほら、男子達が他のクラスの女の子の話ばっかりしてるとさ、その……」
「その?何だ?」
「その……なんか嫌なの!」
なんか嫌だ。つまりは感情論か。自分には関係ないから別にいいだろうに。
「ふーん、まあ一応覚えとくよ。パーティーはそもそも組む気ないし」
「うーん、感情論抜きにしても正直あんまりお勧めしないかな。まあ組む気がないなら心配ないけどね!」
「ああ」
それにしても声を掛け続けているということは断られ続けてるってことか。
それでも、パーティーを組むために声を掛け続けるなんて随分頑張ってるな。
協力は出来ないが応援したいとは思う。
「それで、私に用って何かな?」
「ああ、昨日の部活勧誘会行ったか?」
「うん、行ったよー!」
「なら話は早い。相園先輩が闇魔法を持っているらしい。コピーしたいから協力して欲しい」
「えー、私のステータスは?」
「消す」
スタックは増えていない。坂田のステータスを消せない以上、星空のステータスを消すしかない。
「ふーん、消しちゃうんだー。へー」
「ああ、使い勝手悪いからな」
「はぁ!?あー、もう本当、少しは言葉を選んでよね!」
「すまん」
言葉を選ぶ。よく分からないが、俺の言葉で不快になったのだとしたら俺が悪い。すなおにあやまることにする。
「別にいいけど!」
「……そうか。じゃあ協力頼む」
「いいよ!元々入るつもりだったからね!」
「おお、よかった!助かる!」
人に真面目に何かを頼むなんて久しぶりだ。まあ断られたら断られたで何とかするしかないんだが、リスクを抑えられるならそれに越したことはない。
「んじゃ、また後でね」
「おう!頼んだ!」
そう言って一度星空と別れる。
星空が部活に加入して、相園先輩と話が出来るまで近付いてもらわなければならない。
何故こんな面倒くさいことをしなければいけないのか。
それは俺のコピースキルがコピーできる範囲が非常に狭いから。精々2、3メートル。そして、コピーするのに数秒の時間を要するから。しかも数秒とはいえ見続けなければならない。
それ故に、廊下で軽くすれ違うだけではコピー出来ないのだ。
星空が協力しなかった場合、相園先輩に話しかけに行くか、真後ろを歩くかしないといけなかった。
どちらも多少のリスクがある。
俺は星空を信じて、座して待つか。
次の日ーー。
「相園先輩と仲良くなれたよー!」
「はやっ」
珍しく昼前に呼び出された俺は、星空にそう言われる。
仕事早すぎない。昨日の今日で仲良くなれるとかコミュニケーション能力高すぎるな。
「今日、お昼一緒に食べる予定なんだー!」
「ふーん」
だからなんだろうか、などと他人事のように思っていたら、そんな俺の様子を見た星空が呆れたようにいう。
「いやいや、ワン君にも来てもらうからね?」
「は、何で?」
俺が行ったら意味ないだろうが。
「今日、相園先輩と一緒に食堂でご飯食べるの!だからー、食券を買う私達の後ろにこっそり並んで欲しいの!」
「ああ、なるほど」
通常なら影で待ち構えるとかしないとけないのだが、星空からの連絡を待ってタイミングを合わせればジャストなタイミングで相園先輩の後ろに並ぶことができる。
「じゃあ、並ぶタイミングでラインするね!」
「おう、頼んだ」
「任せて!」
そう言って星空は笑顔で走って行った。
そして、お昼の時間、俺は星空の連絡を待ち、食堂近くをぷらぷらする。
すると、すぐに今から食堂に行くというラインを貰った。
俺は早速コピーするための準備に入る。少し人混みから離れたところで小さく呟く。
「
[小鳥遊翔/レベル1][選択:坂田明人]
[覚醒度:2%]
物理攻撃力 4
魔法攻撃力 0
防御力 3
敏捷性 5
[スキル][選択:坂田明人]
転倒阻止 レベル1
今表示されているのは、普段から使っている坂田のステータスだ。
そして一度、選択画面を出す。
[星空恵]
[選択:坂田明人]
[小鳥遊翔]
この状態で、星空恵の選択肢に意識を向ける。そして、また小さく呟く。
「
[空き]
[選択:坂田明人]
[小鳥遊翔]
これで準備完了だ。
俺はまた人混みに混じり、食堂を目指す。違和感がない程度に周囲を探りながら歩くと、反対側から星空と相園先輩が仲良く歩きながらやって来るのが見えた。
星空はほんの一瞬、チラリとこちらを見て、アイコンタクトを送って来る。
予定通り。
そう思った俺は、星空と相園先輩が食堂に入るタイミングに合わせて歩幅を変え、丁度真後ろを歩く。
「動画を見て予習はしたんですけど、やっぱり8層のコボルトレンジャーの不意打ちがどうしても攻略出来なくてー」
「ああ、私もだいぶ苦労した記憶があるよ。コボルトレンジャーの不意打ちに対応するのに数週間かかった」
「やっぱりー!ですよねー!意識はしているんですけど、戦闘中はどうしても意識が抜けちゃってー」
星空は今攻略中の8層の話で盛り上がっていた。
俺はその隙を狙い、相園先輩の後ろ姿を凝視する。
すると、すぐに相園先輩の背中に意識が吸い込まれるような感覚に陥る。
しかし、立ち止まるわけにもいかない。ここは大勢の人たちがいる食堂。列は着々と消化され、前に進んでいくのだから。
そして、星空達が食券を購入する番になる。
「あ、今日は私が頼んだので、私が出しますよ!」
「いや、後輩に奢ってもらうというのは先輩としての矜持が立たない。むしろ君の分は私が出すよ」
「え、いいですよー!凄いタメになるお話してくれましたしー!」
星空が食券の前で時間を稼いでくれる。視線はチラリともよこさないが、意識は完全にこちらに向いているのが俺でもわかる。
後ろがつっかえているのだ、早くしてくれ、という事だろう。
俺は周りの景色がだんだんと無くなっていく中、それでも相園先輩の後ろ姿を凝視する。
そして……。
今までにないほどの力の激流を感じた。
今までもこんな感覚に陥ったことは度々あるが、それらとは全く比べ物にならない。
俺と相園先輩とのステータスはそれほどまでに離れているのだろう。
こんな場でなかったら叫び出しそうだった。
そして、それが収まると、俺は咳払いを一つする。
コピーが完了した合図だ。
「えー、じゃあ相園先輩に奢ってもらっていいんですか!」
「ああ、好きなものを頼んでくれ」
「嬉しい!じゃあこのA定食でお願いしまーす!」
そして二人は食券機の前から離れて行った。
「ふぅー」
食券機の前に立ちながら一つ息を吐く。
相園花美。
三年Sクラス最強の魔法使いと呼ばれる生徒。
コピーした俺だからわかる。学年最強は伊達ではないと。
自身のステータスの急な変化に慣れないながら、俺はカレーの食券を購入する。
そのままカレーの食券と引き換えにカレーをもらい、空いている席に着く。
すぐ横に人がいるこの状況では流石にステータスは見れないが、間違いなく俺のステータスよりも圧倒的に強いのがわかる。
俺ははやる気持ちを抑えてカレーをかきこみ、食堂を後にする。
そしていつもの屋上に付くと、合言葉を呟く。
「
[小鳥遊翔/レベル32][選択:相園花美]
[覚醒度:39%]
物理攻撃力 23
魔法攻撃力 56
防御力 32
敏捷性 38
[スキル][選択:相園花美]
闇魔法 レベル3
風魔法 レベル2
魔法攻撃力増加 レベル2
敏捷性増加 レベル3
こうして俺は、相園先輩のステータスをコピーした。
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