第二十八話 言い争い

次の日の昼休み、俺は早速屋上のいつもの場所に陣取っていた。


そして珍しく人を待っていた。俺が人を待つなどこの学校に入学して以来初めてのことだった。


「うーん……」


俺はスマホのラインと睨めっこしていた。


「ラインってどう送るんだっけ?」


屋上に来い、でいいのだろうか。一応頼んでる立場だし、屋上に来ていただけますでしょうか、にしておこうか。

それだと畏まり過ぎか。


困った。今日は星空に屋上に来てもらわないと困るんだが。


俺は人の呼び出し方が分からずに悩んでいた。


そんな時だった。


誰かが屋上に上がってくる音がした。


「来たか!」


立ち上がった俺は建物から飛び降り、屋上への扉の前でスタンバイする。


そして扉が開くと同時にその人物を迎え入れる。


「よー!待ってたぞー!」

「は?」


手を挙げて迎え入れた俺の目の前に立っていたのは、如月と文月だった。


「おめぇかよ」

「ふーん、そんなに私達に会いたかったんだ。まあ別にいいけどね。やっと私たちの魅力に気付いたってことで」


何言ってんだ。俺が待っていたのはお前らじゃない。


「そんな満面の笑みで扉の前で待ってるとか(笑)。この前はあんなに冷たかったのに変わり過ぎててキモイんだけど」

「まあ結局こいつも男ってことでしょ。ほんっといやらしい」


何が?

いやらしい部分なんて今の俺には微塵もないはずだけど。

二人は強気な視線を俺に向け、勝ち誇った表情をしていた。


「はぁ……」


俺は思わずため息をつく。目的の人物ではなかった。ラインってどうやって送ればいいんだ。

肩をガックリと落とし建物に登ろうとする俺を見て、二人は何を勘違いしたのかさらに言い寄って来る。


「何?落ち込んだの?うけんだけどー」

「別に気にすることないって!小鳥遊って童貞っしょ?なら普通だって!」


うるせぇ。今ちょっと忙しいから後にしてくれ。ラインの誘い文句を考えてるんだ。


俺は二人を無視して建物への梯子を登ろうとする。


「ごめんごめん。そんなに怒らないでってば!」

「そうそう!あたし達可愛いし好きになるのは当たり前じゃん?そんなに落ち込むことないって!」


二人が俺の肩に手を置いて引き留めようとして来る。


さっきからうるさい。何言ってるのか全然わからねぇよ。


流石に不快になってきたので、言おうとした時……。


カンカン。


また誰かが屋上に上がって来る音がする。

今度こそ来たか。そう思った俺は梯子にかけていた手を戻し、扉の前に戻る。


「ちょ、小鳥遊!」


怒鳴って来る二人を無視して俺は扉が開くのを待つ。


そしてゆっくりと開いた扉から出てきたのは俺の目的の人物だった。


「え?」

「よー!待ってたぞ、星空!よく来てくれた!」

「え?……え?」


星空が困惑している。そんな星空に俺は近寄り、おもてなしをする。


「何?どういう状況?」

「お前を待ってたんだ。昨日の事で話したいことがあって」

「え、うん。それは私もだけど。この二人は?」

「二人?いや、知らん。なんか屋上に用事でもあったんじゃね?とりあえず、こっち来てくれ!」

「ちょっと待ちなさいよ!」


星空を連れて離れようとしたら、如月に腕をガッと掴まれる。


「え、なんだ?痛いんだけど」

「え、何だじゃないわよ!私達もあんたに用があったのよ!」

「そう……なのか……」


俺はすごい嫌な顔をして二人を見る。

またか。嫌だなぁ。いや、パーティーメンバーの件は二回も断ってる。なら、こんどは違う用事かもしれない。


「ふーん……」


星空が二人を怪しい目で見ている。


「もしかしてだけど、またワン君をパーティーに誘おうとしてたの?」

「は?あんたには関係ないじゃん」

「そうよ!横から勝手に口出さないでくれない?」


星空と如月達が言い争いを始めた。というか、また誘おうとしてたのかよ。何回断れば分かってくれるの。


「関係あるけど?私、ワン君のパーティーメンバーだし」

「は?あんたにはAクラスにパーティーメンバーいるじゃん!」

「そうよ!しかもパーティーメンバーって言ったって週一で組むくらいじゃん!」

「配信は週一くらいだけど、それ以外にも色々付き合ってもらってるし!」


俺のことで言い争っている。星空は二人のいう通り、常時のパーティーメンバーではない。だが実験に付き合ってもらったりと色々してもらってるのは事実だ。


「手伝うくらいなら誰でもやるっしょ。それをパーティーメンバーとは言わなくなーい?」

「そうそう。盛り過ぎて受けんだけど」

「盛り過ぎてないもん!私、ワン君のパーティーメンバーだもん!ね!ワン君?」


突然星空に振られる。星空と俺はパーティーメンバーかどうか、か。少し悩むが、週に数回一緒に迷宮に潜っていることには違いない。これはパーティーメンバーと言っても過言ではないだろう。


俺は二人に対して頷く。


「ああ、星空は俺のパーティーメンバーだ。色々手伝ってもらってるしな」

「ほらね。だから関係あるの!分かったなら帰った帰った!」


そう言って星空が二人を追い返そうとする。

しかし、二人ともそこから動こうとしない。


「……」

「……」

「……」


無言の時間が流れる。三人の話は終わったのだろうか。


「話終わったのなら、俺は星空と話あるから行くな。じゃあ」


なんか終わったのならもう行ってもいいだろう。

そう思いながら星空の手を握り校舎に入っていく。




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