第二十二話 勧誘

俺は昼休み、約束通り屋上に来ていた。


いつも通りサンドイッチを食べながらコーヒー牛乳を飲み、一服していたところ、屋上への扉が開く音がする。


来たか、などと思っていたらその人物は何も言わずにこの建物の梯子を登ってくる。


梯子の方から覗いてくる金色の髪。綺麗だな顔立ちながら強気な視線を覗かせる瞳。


文月がやってきた。

そして、その後ろから如月も顔を覗かせる。


如月は俺を見てすごい不機嫌そうだ。


「あんた、いつもこんなところにいるの?」


文月が辺りを見渡しながらそんなことを聞いてくる。


「ああ、そうだが?景色いいし、一人になれるし、最高の場所だね」

「一人になれてないじゃん」

「全くもってその通りだ。同情するなら帰ってくれ」

「私があんたに同情する訳ないじゃん」

「そうか」


冷た。あんたに同情する訳ないって。冗談のつもりだったけどそこまで言うことないだろ。


「で、話って何だ?」


腕を組んでこちらを睨んでいる二人にぶっきらぼうにそう聞く。

如月は腕を組んだまま変わらず、文月が視線を合わせずに髪をいじりだす。

だから何処見てんの、お前。


「あのさ、昨日双葉から聞いたと思うんだけどさ。私達とパーティー組まない?」

「昨日如月から聞いたと思うが断る」

「何で?」

「俺にメリットがないからだ」

「は?」


視線を俺に戻してイラついたような顔で俺を見る。何で一度断られてその言葉が出てくるの。如月にも同じこと言ったんだけど。


「あんたが読モとかのステータスに興味がないのは置いておいて、これでもFクラス最強なんだけど?」


そんな最底辺で威張られても。Fクラス最強と言えば聞こえはいいが、Cクラス最弱と言い換えることもできる。


「でもオーク倒せないんだろ?」

「だから?あんた、五層にいたってことはオークを余裕で狩れるわけじゃないんでしょ?ならあたしたちと行動したほうがいいじゃん」

「なぜそうなるんだ。ぶっちゃけると俺より弱い奴と組んでも意味がない」

「はぁ!?一レベから上がらないくせにあたしたちより強いって言いたいの!?私達六レベなんだけど?」

「なら模擬戦でもするか?二対一でいいぞ?」

「ぐっ……」


面倒臭いがそれで諦めてくれるならそれが手っ取り早いだろう。

だが、俺がオークを倒したことを思い出したのか、文月がたじろぐ。

代わりに如月が前に出てきて聞いてくる。


「じゃあ、あんたはどうすんの?この先も一人でやっていくの?」

「ああ。俺はパーティーを組むメリットがないからな」

「でも星空ってやつとパーティー組んでんじゃん」

「あいつは……まあお前らには関係のないことだ」


星空と俺の関係はギブアンドテイク。戦闘とは別のメリットがあるのだ。

というか、そもそもAクラスのトップクラスとFクラスのトップではステータス、覚醒度、スキルに雲泥の差がある。

星空と組んでいるからと言って彼女達と組むとはならない


「……」


言い返せなくなったのか如月も沈黙してしまう。


「というか正木ってやつはどうするんだ?パーティー組んでたんだろ?」

「あいつは……はぁ……」


如月が言い淀む。何だ。代わりに文月が答える。


「解散よ解散。悪い?」

「いや、別に好きにすればいいが……と言うか正木ってクラス何処?」


正木はFクラスの人間ではない。最低でもCクラス以上の生徒だ。


「Bクラス」

「Bか。というかお前だって他クラスとパーティー組んでるじゃん」

「あたし達はいいの!」


何でだよ。

というか上位クラスとパーティーを組んでたんだな。

下位クラスの人間が手っ取り早くレベル上げをするには、上位クラスの生徒と組んで強い魔物を討伐すればいい。だから上位クラスの生徒とパーティーを組むという彼女達の行動は非常に合理的だ。


だが逆にBクラスの正木には、はっきり言って彼女達とパーティーを組むメリットがない。

ならば別の理由で組んでいたのだろう。


下心ってやつかね。気持ちは分かる。俺もレベル上げ以外の目的で星空とパーティー組んでるからな。


「それで!私達とパーティーを組むの?組まないの?」

「組まない」

「何でよ!」


何が?

この流れで組みます、とはならないだろ。


「もう一度言うが俺にメリットがない。お前達のお守りをする気もない。意味がないからな」

「ぐっ……」


二人は何も言わずにキッと睨みつけてくる。


「はぁ、奈々美、もう行こ!こんな奴の力なんて借りる必要ないって!」

「ほんっと、時間の無駄だったんだけど!最悪!」


やっと諦めたか。俺は安心して寝っ転がり手を振りながら健闘を祈る。


「まっ、また上位クラスの誰かとでも組めばいいさ」

「言われなくてもわかってるわよ!」

「フン!」

「ベーだ!」


そう言って文月は髪を掻き上げ、如月は舌を出す。そして、二人は建物から飛び降り、校舎に入って行った。

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