第二十三話 ホブゴブリン
中央迷宮六層。
深淵の森。
そう称される闇の森。太陽は完全に沈み、空からは満月の僅かな光が降り注ぐ。
バーベキューやキャンプファイヤーでもすれば盛り上がるであろうその場所は、強力な魔物がうろつく危険地帯であった。
出る魔物は一種類。
ボブゴブリンと呼ばれる1.2メートル程の身長のゴブリンの亜種である。
ゴブリン以上の力と連携力をもつのがボブゴブリンであり、基本的に集団行動をしており、一匹いたら三匹はいると思え、というのがこの階層のルールだ。
しかも、夜で月明かりしか灯りがないため視界が非常に悪く、不意打ちによる事故も多発する階層だ。
経験値効率、危険性なども考えると五層の方が良いため、六層に行かずに五層に止まる人は多い。
俺は昨日のこともあり、人が少ないことを狙って、この六層に来ていた。
確かに生徒はほぼいない。
五層で七レベくらいまで上げて、六層は飛ばして七層の渓流地帯まで一気に降りる生徒は多いからだろう。
「暗っ!映えないから飛ばしちゃったけど、本当に真っ暗ー!この階層、全然動画映えしないんだけどー!」
今回は試したい事もあるため、星空にも来てもらっている。動画も何も撮っていないし、俺は別に動画映えのために来たわけじゃない。
「満月は綺麗だけどこうも前が見えないとねー。不意打ちとか怖いし、いつもより警戒しないとねー」
「そうだな」
適当な相槌をうつ。まあ警戒って言ってもできること限られているけど。この階層のボブゴブリンの武器は石斧と木槍。この階層の安全マージンを満たしていれば、投擲をされても痛くも痒くもないはずだ。
かと言って石斧が当たる様な距離まで近付かれれば流石に気づく。
一応懐中電灯持ってきたし。
「一応防御力は基準を超えてるけどちょっと不安だなー」
「なら、そんな薄着でくんじゃねぇ」
星空の服装はこの前と同じピンクの半袖の服装に下はパンツだ。迷宮舐めてるの?
「これでもちゃんとダンジョン用の専門服だから耐久性は高いもん!」
もんじゃねぇよ、もんじゃ。露出している部分のこと言ってんだよ。
「しかもピンクって。こんな暗い森に蛍光色で来るんじゃねぇよ。馬鹿なのか?」
「馬鹿じゃないもん!味方からも見やすくてフレファイ防ぐのにも効果的だもん!それに暗い色は映えないから無理!」
何でそんなに映えに命かけてるの。動画も撮ってないし。しかもお前は後衛だからフレファイの心配ないだろ。むしろ俺の方がお前から雷魔法後ろからぶつけられないか心配だよ。
フレファイ。フレンドリーファイヤーの略。
要は味方同士の同士討ちだ。
ゲームではないため、味方の攻撃は普通に味方に当たる。それを防ぐために、声出し、位置取りなどの連携がパーティーには必要なのだが、俺たちはそんなことは当然やってない。
軽い合図の様なものの確認だけできている。ステータスも全体的に星空よりも高いし、五層のゴブリンの攻撃も全然痛くなかった。
防御力が上がった事で俺の体も劇的に強くなったのだろう。
最悪やばかったら二人で魔法ぶっ放して逃げるだけなので、それほど危険性はないはずだ。
魔法は、人前では一レベでステータスも公開されているため、使うことが憚れている。しかし、使えるに越したことはないので、今回は練習のためにここに来た。
「何回かは打ってみたんだよね?」
「実戦って言えるものは一回だけ。あとはスライムでちょっと練習してた」
「ふーんどうだった?」
「うるせぇ……」
「酷っ!」
これはもちろん会話を拒否したのではなく、雷魔法がうるさいと言うことだ。
動画で他の魔法を見たが、音で言えば雷魔法が一番うるさい。速いしスタン効果もあるため強いは強いのだが、音が響くし光輝くので目立つことこの上ない。
「そこが迫力あっていいんじゃない!動画映えするしさ!」
「いらない」
「酷っ!」
ひっそりと魔法を使いたい俺からするとちょっと向かない魔法だ。
「とはいえ、魔法を使うって感覚は覚えておきたいからな。今日はコーチよろしく頼むわ」
「オーケー、じゃあ早速レッツゴー!」
探検か。
意気揚々と前を歩く星空に一抹の不安を抱えながら後ろをついて行った。
それから数分後、早速最初のボブゴブリンのパーティーを発見した。
少し早歩きをしながら辺りを照らしているとチラリと人影が映ったため、照らしてみると、1.2メートル程の大きさのボブゴブリンが四体いた。
向こうもこちらに気づいたらしく、石斧を振り回しながら走ってくる。
速い。体もでかいのだから当然なのだが、ゴブリンよりも圧倒的に速くて圧がある。
しかし、星空も俺も焦ることなく左右に分かれる。
「じゃ、予定通りねー!」
「オーケー」
「「サンダー」」
右にずれた星空が右のホブゴブリン、左にずれた俺が左のホブゴブリンにサンダーを当てる。
「ギャギャギャ!?」
胸に命中したサンダーが痛かったのか、その勢いのまま顔面から地面をひきづる様に転ける。
後ろを走っていた二体はその光景に一瞬驚くも、転けた二体を踏み台にして俺たちに迫ってくる。
「「サンダー」」
「ギャッ!!」
もう一度二人でサンダーを撃つと、前の二体と同じ様に転ける。
後ろのこけた二体は踏み台にされたことに怒りを覚えたのか、ギャギャギャと何か抗議している。
「仲間割れし出したねー」
「見たいか?」
「ぜんぜーん。さっさと倒しちゃお!」
「オーケー。んじゃ、レベル2の魔法使ってみるわ」
「よーし!いくよー!せーの!サンダーボルト!」
掛け声と共に星空の手からサンダーよりも一回り太い雷撃が右側のホブゴブリン二体を貫通する。
「ギャギャ!?」
自分のすぐ横で黒いモヤとなっていく仲間に恐怖したのか、ホブゴブリン達が逃げ出そうとする。
「サンダーボルト」
当然逃がすはずもない。俺の指先から出たサンダーボルトが、二体を同じ様に貫通し、黒いモヤへと変えていく。
「ちょっとー!せっかく合図したんだから合わせてよ!」
「いや、鳥肌立ちそうだったから」
「何でよ!」
「倒したんだから別にいいだろ。ほら、魔石拾いに行くぞ」
「もー!」
俺は魔石を拾いながら自分の体調を確かめる。
「どう?まだまだ行けそう?」
「ああ、魔力が減った感覚はやっぱりよくわからないな」
魔力と言うのは魔法を撃つ際に使用する目に見えない気力のようなもの。
ただ、目に見えず、数値にもできないから、残弾数は体力と同じで感覚的なものに頼るしかない。
今のところは、気持ちなんか減ったかな、と言うレベル。まだまだいける。
「普通は自分が持ってる魔法を魔力が切れるまで撃ち続けて自分の限界を調べるんだけど、本番で試しちゃうんだね」
「実験もできてレベル上げも出来てお金にもなる。最高じゃないか」
「まあそうだけど!普通に危ないんだからね!」
お前のその目立つ服の方が危ないだろ。そう思ったが口に出すのはやめた。また映えとか言ってきそうだし。
「んじゃ、さくさく狩っていくか」
「おー!」
元気よく歩き出した星空の後ろを警戒しながらついて行った。
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