第二十一話 お誘い

「小鳥遊、後で話あるんだけど?」


次の日、席につき、バックを置くなりそう言われる。

今度は誰だ、と顔を上げると、そこにいたのは昨日お休みだった文月だ。


金髪の長い髪をいじり、そっぽをむきながらそう言ってくる。

どこ見てんの、お前。


教室内は昨日のこともあり、ざわつきが大きくなる。


「えっ、文月さんが小鳥遊君に声をかけるって……」

「やっぱりオーク倒したのって小鳥遊君……?」


クラスメイト達も勘づき始めている。教室で声かけるのやめてくれないだろうか。無駄に目立ってるんだけど。


「……」

「ねぇ、聞いてる?あんたに言ってんだけど」

「聞いてるよ。俺がいつもいる場所分かるな?そこにお前が来い」

「はぁ!?あんた……!分かったわよ!代わりに絶対そこにいなさいよ!」


何の代わりだ。

文月はそう言って、自分の席に戻って行った。その前の席では如月がこっちを見て舌を出している。


絶対そこにいろ、と言われると行きたくなくなるが、仕方がない。


「ねぇねぇ小鳥遊君!」

「んー?」


いつも通り外を見ようとすると、女子生徒達が声をかけてくる。俺は面倒くさそうに首だけそちらに向ける。


そこにいたのはこの前話しかけてきた女子三人組だ。


「小鳥遊君ってやっぱり強いの?」

「いや?」


探るように聞いてくるので否定しておく。


「ふーん、でも五層に出たオーク倒したのって小鳥遊君だよね?」

「一レベがオーク倒せる訳ないだろ」

「えーでも昨日星空さんが配信で小鳥遊君が倒したって……」

「え?」


言っちゃったの。俺、何も聞いてないけど。そう言う大事なことは言っていいか聞いてくれないか。こう言うとき困るだろうが。


「トイッターでもトレンド載って今すごい話題になってるけど」

「見てないな。俺じゃないんじゃないか」

「えーでもワン君って言ってたよー」

「うんうん、絶対ワン君って言ってた!やっぱり小鳥遊君って強いんでしょ!」


誤魔化しようがないな。俺は諦めて白状する。


「偶々だよ。オークが追ってきてくれてスタミナ削れてたからギリギリ勝てただけ」

「えー、やっぱり倒したんだー!すごーい!」

「ねえねえ、もし良かったら私達とパーティー組まない?」

「無理。一人が好きなんでな」

「えー、でも星空さんとはパーティー組んでるじゃん!私達もたまにでいいからさ!」

「たまに?うーん」


レベル上げのメリットはほぼないが、組んで弱いところ見せて噂が一人歩きしてるだけだった、という噂を流させるのはありかもしれないな。

そんなことを思い、了承するか迷っていると、横から如月が割り込んでくる。


「ちょっと小鳥遊!あんた、昨日の私の誘いは断ったくせにこっちにはついていく訳!?訳わかんないんだけど?」


お前が割り込んでくるんかい。訳わかんないはこちらのセリフなんだけど。

如月は俺を睨みつけると、女子生徒達の方に向き直り、彼女達を見定めるように見回す。


「あんた達、悪いけど小鳥遊はこっちが先に予約してるんだよね。だから諦めてくんない?」

「予約?何のだ?」

「あんたは黙ってて!」


当事者なんだけど。

お前らと一緒にダンジョン潜る予約なんてしてないぞ。お前がした予約って俺を後悔させる事だけだろ。それも勝手に言ってきただけだけどね。


「でも小鳥遊君だってこう言ってるじゃない!」

「は?この私に口答えするの?喧嘩なら買うけど?」


サイドテールをかき揚げながら強気な視線を彼女達に向ける。


「口答えって!小鳥遊君だって否定してるじゃん!」

「私が最初にこいつに目をつけたの。後から出てきて意味わかんないんだけど」


起源の話をするのは良くないって星空が言っていた気がする。如月が本当に最初に目をつけたのか、誰も分からないしな。


「最初って。別に後先関係ないじゃん!」


食い下がる女子生徒に如月の目が鋭くなる。


「へえ、じゃあ何?私達と決闘でもする?」

「え……それは……」


女子生徒達が言い淀む。


決闘。

正確には学生同士の模擬戦闘訓練であり、この学園では、学生同士の模擬戦闘訓練が許可されている。

ただし、それはあくまで表向きであり、実際は何かしらの賭けをしたり、問題があった場合の解決策として暴力に頼る解決法として使われている。


教師陣もこの決闘に関しては不干渉を貫いており、相手を死に至らしめる、もしくは完治不能な怪我を負わせる以外は大抵のことが黙認されている。


強さこそが正義。


それがこの学園の暗黙の了解だ。


「何ならそっち三人とこっち二人でいいけど?」

「……」


如月の強気な発言に女子生徒達が黙り込んでしまう。レベルとステータス的におそらく勝ち目がないのだろう。勝手に人数に換算された文月は長い金髪をいじっているだけだ。

というか隣で喧嘩するのやめてもらっていいかな。


「話は済んだか?悪いが誰ともPTを組む気はない。一人が好きなんでな」

「う、うんごめんね。無理矢理誘っちゃって」


そう言って三人の女子生徒がそそくさと離れていく。如月もそれを見送り、俺をチラリと見て、フンと鼻息を鳴らして離れて行った。


争いごとは他所でやってくれ。

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