第十八話 五層
中央迷宮四層。
ステージ自体は四層同様、森林ステージなのだが、四層と大きく違うのは、日が傾いた夕焼けステージであるということ。
落ちない太陽が永久に同じ場所から降り注ぐ夕焼け森林ステージ。
真上から太陽が刺していた四層とは違い、沈みかけた一方向からしか日が刺さないため、見えづらい影の部分が出来ており、ゴブリンなどによる奇襲による怪我が後を絶たない階層。
出てくる魔物は四層までと同じだが、五層のゴブリンはウルフに騎乗しており、機動力と攻撃力が増している。
ゴブリンライダーと呼称されるその魔物は、場合によっては集団で敵に襲い掛かるため、油断すれば重症も免れない危険な存在だった。
遊ぶ、などと星空には言ったが、俺は真剣そのものだ。五層の安全マージンは七レベ。しかも推奨は四人PTだ。
しかし、俺は1人で、しかもレベルも五だ。
全てのステータスにおいてレベル七の星空よりも高いとはいえ、油断は命となる。
「ガウガウ!」
「ギャギャギャギャギャ!」
二体のゴブリンライダーが俺を見つけて突撃をしてくる。
冷静に鉄の剣を構え、前に出ている右側のゴブリンライダーに狙いをつけ、すれ違いざまに騎乗したゴブリンの首を刎ねる。
そしてすぐに左のゴブリンライダーが振り翳してきた石斧を転がって避ける。首を落とされたゴブリンはモヤとなって消えるが、ウルフは戦意を喪失せず俺に唸り声をあげている。
これがゴブリンライダーの厄介なところ。
どっちか片方を殺しても片方が生きていれば戦闘を継続してくる。
代わりに経験値も多く、六階層には行かずにこの階層で狩りを続ける学生も多い。
「ギギギ!ギャー!」
「ガウ!」
どのような指示がされたかは分からないが、主人を失ったウルフが大回りし始め、ゴブリンライダーを見つめあっている俺の死角に回り込む。
ゴブリンライダーの一番厄介な点はこの連携を使ってくるところだろう。
三階層のゴブリンは複数いようが敵を見つけ次第突撃してくるだけだが、この階層からは連携してくる。
背後のウルフへ意識を向けながらも前方のゴブリンライダーにも目を逸らさない。
「ギャー!」
そんな声と共にゴブリンライダーが駆け出してくる。
背後のウルフも駆け出した音がしたので、俺は前に全力で走り出す。
そして背後のウルフが到着する前にウルフごとゴブリンを斬り殺す。
そしてすぐさま切り返すと突撃してくるウルフに剣を突き刺す。
「きゃふん!」
そんな鳴き声と共にウルフは止まり、動かなくなると同時に黒いモヤとして消えていった。
「お、レベルアップ」
いつもの感覚が体を駆け巡る。まだ五レベになって数日だというのに、早々に六レベルになった。
一ヶ月以上かけてやっと五レベになったスライム狩りを思い返すと、下層の魔物がいかに効率がいいかがわかる。
しかもこのあたりの魔物は俺が魔石を売却しても問題ない。
当初の目的であった金儲けができる。
その事実にほくそ笑みながら、鉄の剣を鞘に戻して落ちている魔石を拾い集めていた。
そんな時だった。
「キャー!!」
遠くから叫び声が聞こえてきた。
「はぁ……」
気付いたら走り出していた。面倒ごとには首を突っ込みたくないのだが、ここで見捨てては目覚めも悪い。
したくもない善行を積む。まさに偽善。
「ったく」
自重気味にため息をつきながら現場に到着する。
「こっち来ないで!」
「ブモォォォーーーー!!」
先程の悲鳴とは別の悲鳴と共に豚のような雄叫びが聞こえてきた。
現場に到着した俺が真っ先に見たのは相撲取りよりもさらに二回りは大きい巨大魔物、オークだった。
筋肉質な上半身はピンク色の上裸で、下半身は粗末な布の切れ端を巻いているだけ。だが、その手には丸太を切り出したかのような大きな棍棒を持っており、子どもが見てもその危険性は想像できるだろう。
問題は何故、オークがこの階層にいるのか。
オークは本来十階層の魔物。こんな浅い階層に出る魔物ではない。
「ブモォォォーーーー!!」
今は原因を探っている時ではなかった。
振り下ろされる棍棒と叫んだ女子生徒間に割って入り、鞘のままの剣で受け止める。
「うおっ!」
オークの重い一撃により、鞘が中の鉄の剣ごと折れ曲がり俺の鼻先まで棍棒が迫る。
ギリギリ受け止められはしたが、凄い威力だ。
流石は十層の魔物というところか。六レベルの俺のステータスでいけるか。
「え、小鳥遊……」
俺は鼻先まで迫っている棍棒を防ぎながらチラリと横を見る。
そこに座っていたのは1年Fクラスの女王の片割れ、文月だった。ということは俺の後ろにいるのは如月か。
「あんた、小鳥遊だよね?」
「あ?そうだよ!だったら何だ!?」
俺は今、昨日と同じ、スノーゴーグルに口元をスカーフで覆う、身バレ防止装備をしている。
この状態の俺を俺と認識できるという事は、昨日の星空の配信を見たか、星空の動画を見たかのどっちかだ。
「あんた……一レベなのに大丈夫なの?」
「大丈夫に見えるか?手伝えないんならせめてどっか行ってくれ」
「わ、私は大丈夫だけど、奈々美は足が……」
そう言われ、文月の方を見ると、スラリと伸びた脚の片方が真っ赤になっていた。恐らく折れているのだろう。
「それに正木も……」
まだ居たのかと思い、辺りを見ていると、確かに倒れている人間がいた。そちらはピクリとも動いていない。
「死んでんのか?」
「分かんない!顔殴られてそしたら動かなくなって!」
なら生きてはいるのか。
そう思った時だった。
「ヒ、ヒイィィィィ!!」
突然その男が起き上がり、反対方向に走ってしまった。
「え、正木?ちょっと!正木!」
文月が正木を呼び止めるが、正木はこちらを振り向きもせず走って行ってしまった。
「正木……」
「生きてたみたいだな」
「ブモォォォォォォ!!」
逃げだしたけど。逃げ出した獲物をチラリと見たオークは腹が立ったのか雄叫びを上げ、もう獲物は逃がしまいと棍棒を上げ、もう一度振り下ろす。
俺はそれを横に転がることで避ける。
「鉄の剣は……駄目だな、これは」
仕方ない。俺は落ちている拳程の石を拾いオークに投げつける。
「プギィィ!?」
投げた石はオークの身体に当たりオークが一歩下がる。
流石に貫通するほどではないが、青あざが出来るくらいにはダメージを与えられたようだ。
「やっぱステータスの恩恵は大きいみたいだな。おら!」
もう一個、同じ大きさくらいの石をオークに投げつける。
だが、二個目は棍棒で防がれてしまった。
「こっちだ!」
オークの意識は完全にこっちに向いたようだ。
「ブキャァァァァァ!!」
叫び声とも雄叫びとも取れるような声を上げたながら、俺に突撃を開始した。
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