第十七話 嫉妬
次の日、教室に向かうと、何人かの女子生徒が近寄ってきた。
「ねえねえ、ネットで話題になってる「ザ・ワン」って小鳥遊君だよね?」
「ああそうだが」
違うって言っても俺のレベルが上がらないことは周知の事実。隠してもしょうがない。
「昨日めっちゃバズってたよ。トイッター見た?」
「いや、見てない」
そういえば星空からラインが来てたな。確認するのが面倒くさかったから見てないけど。
「ねぇねぇ、小鳥遊君ってもしかしてめちゃくちゃ強いの?」
「知らん。なんか身体が動くからそれに合わせてるだけ。レベルもステータスも見たまんまだよ」
「へー!そうなんだー!じゃあ隠れて何かやってることとかあるのかな!?剣道とか!」
「何も」
女子達の質問に返答していると、小さな声で、
「いい気になりやがって」
という声が聞こえてきた。
そちらの方をチラリと見ると男子生徒達がこちらを睨んでいる。
全く。そもそも俺はいい気になどなっていない。正直鬱陶しいから早く離れて欲しいくらいだ。
彼女達も俺のことが好きで話しかけているのではない。ネットでバズった張本人が目の前にいるから興味本位で話しかけているだけだ。
そんなことで話しかけられても嬉しくもなんともない。
しかし、彼らからすれば関係がないのだろう。嫉妬の目が突き刺さる。
ーー。
「はぁ……」
俺はいつもの屋上で動画を見ていたのだが、ここれから先に起こる面倒なことを憂いてため息をつく。
「んー、どうしたの?ため息なんてついて」
昼間から配信をして雑談配信なるものをしていた星空が俺のため息を聴いて声をかけてくる。
「あー、なんか昨日のバズりを見てクラスメイトとちょっとなー」
「あー、いろいろ聞かれたんだ。私もだよ!よくあるよくある!」
「それもだが、嫉妬の目がちょっとな」
「嫉妬の目?注目が集まって羨ましい的な?」
「いや、多分違う」
星空の予想は外れ、というわけではないだろう。だが、根本は違うはずだ。
「もう7、8階層も余裕で踏破しているAクラスと違って今のFクラスの平均階層は4階層なんだよ。その4階層を1レベのくせして余裕かましやがって、だとさ」
「うわー、それはだるいねー」
コメント欄でも俺に同情する声が聞こえてくる。中にはクラスメイトへの誹謗中傷が紛れている。それを見た星空は慌てて静止する。
「ああ、誹謗中傷コメントはダメだよー!どういうものであれバンするからねー!みんな落ち着いてー!」
それで一旦落ち着いたコメント欄を見て安心した星空が話を続ける。
「うーん、どうすればいいんだろ?後期にAクラスくる?」
「いや、行けないだろ」
ステータスを公開すれば行けはするが、それだと俺の秘密がバレてしまう恐れがある。
では坂田のステータスで行けるのかと言われればそれは無理だ。
「この学園は良くも悪くもステータス至上主義だからな。強い魔物を倒せるかどうかとかは関係ない」
「あー、1レベでクラス上げは無理かなー」
クラス替えの際、見られるのはステータスのみ。レベル、覚醒度、ステータスの数値、スキルを総合評価して数値にし、その総合点でクラスを上げられるのか下がるのか決まる。
強い魔物を倒したら何点、みたいなものはないのだ。
しかし、俺は学園の評価制度に不満はない。数値というのは分かりやすく公平な評価制度だ。
学校のテストの点数と同じで、才能と努力で出した自身のステータスが結果として現れるものだ。
ここは国立の学園。俺のようなイレギュラーには対応してないし、出来ないだろう。
「ま、物理的に出来ることは何もないだろ。陰口くらい好きなだけ言わせておけばいい」
「えー、悪口言われたら私なら傷つくけどなー」
「俺はなんとも思わない。実害がないからな」
「ふーん、陰口に耐性あるならワン君、やっぱり配信者向いてると思うけどなー!」
星空がそういうとコメント欄も同調するように流れていくが、俺はキッパリと断る。
「やらない」
面倒くさいからな。自分が星空みたいに愛想振り撒く姿を想像してみても寒気がする。
俺はたまに配信に出るよく分からないけど強い同級生ポジでいいのだ。
「ふわぁ……」
俺は大きく欠伸をして腕をだらりと下げる。
「今日はどうするの?」
「別に?一人で迷宮探索」
「大丈夫なの?」
「星空はいつものPTで行くんだろ?こっちに気にせず行けよ」
二日間連続で星空は普段のPTでの狩りをキャンセルしている。彼女の配信に理解があるPTとはいえ、主力が抜けるのはキツかろう。
「え……」
「何だ、その驚いた顔は?」
「ワン君って他人に気をつかえたんだ……」
「使えるわ!普通のこと言っただけだろ!」
人を何だと思ってるんだ。
「君、ネット上で何で言われているか知ってる?」
「知らん」
「心無き、だよ」
「心無き?」
「感情を失った主に配信者達に向けられる言葉。よくノンデリカシー発言とかいう時に流れるんだけど、昨日の狩の最中も度々流れたんだよ」
狩の最中にノンデリ発言なんてしてないぞ。精々、魔物を倒すたびに煽ててくる星空がうるさくてちょっと黙っててくれって注意したくらいだ。普通だろ。
「そうか。俺ほど普通の一般市民はいないと思うがな」
「本気で言ってるの?」
「ああ」
俺に出来ることは誰にでも出来るし、誰にでも出来ることは俺にも出来る。
ザ・一般ピープルとは俺のことだ。
「ふーん、本当に大丈夫?」
「ああ、5層あたりで遊んでるから気にせず行け」
「1レベで5層で遊べる人って多分世界でも君くらいだよ」
そんなわけあるか。
呆れた顔で突っ込む星空に、俺は内心で突っ込む。
次の目標はとりあえず10レベルでコピーのストック数を増やすこと。
そのためにもレベル上げに勤しまなければ。
俺は決意を新たに、五層の攻略動画を見返すのだった。
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