第十六話 配信開始

「こんめぐめぐー!めぐたんでーす!みんなー、やっほー!」


『こんめぐめぐー!』

『こんめぐめぐー!』

『こんめぐめぐー!!!!!』

『こんめぐめぐー!!』


星空が配信を開始すると途端にコメントが流れる。


凄い勢いだ。もう6千人も見に来てる。同接6千人といえば十分食っていける人気配信者と言うことだ。


そんな人気者だったのか。そう思っていたが続くコメントが否定する。


『もう同接6千人!!」』

『いつもの二十倍じゃん!!すごすぎて草』


いつもは三百人前後なのか。二十倍はすごいな。


「うわー、こんなに来てくれるなんて嬉しい!来てくれてありがとうー!みんなー、昨日の動画見たー?」


『見たよー!』

『めっちゃバズってた!』

『スマホ二度見した!』


「だよねー!私もびっくり!やっぱりみんな迷宮に興味あるんだねー!」


『それはそうw』

『今日は普通の迷宮探索配信?』

『ワン君は結局どうなったの?』

『ワン君は1レベのまま?』


コメント欄が段々俺の質問が増えてきたな。


「まあまあ落ち着いてみんな。なんと今日はねー、配信にそのワン君が来てくれてまーす!わぁぁぁぁぁ!」

「……」


彼女がそう言った瞬間、カメラが俺の方に向く。

俺は片手をあげて軽く挨拶をする。


「どーも、ワンです」


『ドライwwww』

『寝っ転がってるの草』

『1レベルのくせに風格出してて草』


「もう!さっき打ち合わせしたでしょ!そこは、こんわんわんって!」

「言うわけないだろ。寒気がするわ」

「ひどー!一生懸命考えたのに!」


ハイテンションな星空に対して俺はドライだ。

こんわんわんなんて言ってる自分なんて想像しただけで鳥肌が立つ。


「という事で!今日はねー!生放送でワン君と狩りコラボをしていきたいと思いまーす!」


『待ってました!』

『やったー!』

『ワン君の狩りを生で見れるんだ!』


「おおー!コメント欄も盛り上がってるねー!じゃ、早速迷宮探索にゴー!」


そう掛け声をあげる星空の後ろを俺はゆったりとついていった。


中央迷宮三階層。

ゴブリンと呼ばれる幼稚園児ほどの背丈の緑色の鬼が石斧を持って練り歩いている階層だ。


二階層のレッサーラットと違い、ここからは油断すれば人死が出る。

事実、数年前、東迷学園の一番新しい死者の死因はゴブリンによる撲殺だった。


楽勝だろうと油断していたその学生は、たまたま運悪くゴブリンが投げた石斧が頭に当たり、気絶。そのままそのゴブリンに嬲り殺しにされているところを他の生徒が発見したそうだ。


油断大敵。

学園でも三階層からは死者が出ると口酸っぱく注意喚起をしていた。


「とうちゃーく!ここが中央迷宮三階層、ゴブリン迷宮でーす!どう?どう?ワン君、何か感想は?」

「ねぇよ」


テンション爆上げの星空に対して俺はいつも通り無感情だ。


自分でもつまらないやつだと思うのだが、なぜかコメント欄は盛り上がってる。


クールだとか、ドライだとか言われている。それが面白いのだそうだ。訳がわからない。


「じゃ!早速だけど!ゴブリン退治、いっちゃいましょう!」


『おー! 』

『おー! 』

『おー! 』

「ああ」


ピクニックでも行くかの如く進んでいく星空の後を追うと、すぐにゴブリンに遭遇する。


ギギギー。


こちらに気付いたゴブリンは、そんな呻き声とも威嚇とも取れる様な声をあげながら石斧を掲げ、突進してきた。


「おおーっとー!早速ゴブリンが突撃をかましてきます!さあ!小鳥遊選手どう反撃をするのかー!?」

「何でお前、そんなにノリノリなの?」


まあ普通に倒すよ。

俺も駆け出し、交差する間際、振りかざされた石斧を避けつつ、ゴブリンの首を鉄の剣で切り飛ばす。


一撃で死んだゴブリンは他の魔物同様、黒いモヤとなって消えていき、スライムよりは気持ち大きめの魔石だけが残っていた。


俺は鉄の剣を一振りし、鞘に戻す。


「初めて倒した人型魔物だったが、別に緊張も躊躇はないな」


人型の魔物を殺すのに躊躇する生徒は毎年出るらしく、中にはそこで迷宮探索を諦めてしまう生徒もいるらしい。


俺は別に思うところはない。彼等は人間じゃない。頭ではっきりと区分け出来ているので人型だろうが犬型だろうが躊躇も戸惑いもない。


そんな感傷もなく星空に話しかけるが、星空は口を開けて驚いている。


「え……?」


『は?』

『は?』

『は?』

『は?』

『は?』

『は?』


「速すぎー!ワン君、今の1レベの動きじゃないって!」


星空が驚くコメント欄を代弁する様に叫ぶ。コメント欄も一気に加速して次々に驚きのコメントが流れてくる。


今の俺のステータスは俺本来のステータス。


つまり、その全てのステータスにおいて、一年Aクラスでトップクラスの星空よりも上だ。


三層のゴブリンなど敵じゃない。

俺はあえてカメラに見せつける様にゴブリンを倒した。


「本当に1レベだよ。後で鑑定石の結果見せてやる」

「おおー!それは楽しみー!」


星空が拍手しながら盛り上げてくれる。何匹かゴブリンを倒し、感触を確かめたところで一息つく。


「もうちょい下に行くか」

「おー!」


そう言って四層に降りる。

四層から、洞窟ではなく、木々が生い茂った森だ。


天井からは落ちることのない太陽からの日差しが心地よく降り注いでいる。


魔物が出なければピクニックでも楽しめそうな層。


それが四層、年中無休の真っ昼間な森林ステージである。


出る魔物は三層までの魔物全部に加え、狼の魔物、ウルフが出てくる。


ウルフは足も早く、攻撃力も高い。ゴブリンまでは無傷で攻略していた生徒がこの層で高い確率で足や腕を噛まれて迷宮の恐ろしさを知るのだ。


「おらっ!」


俺は飛びかかってきたウルフを軽々避けて、すれ違いざまに首を切る。


一撃で首を落とされたウルフはキャンという情けない声と共に転がっていき、そのまま消えていった。


「ウルフも余裕かー!流石だねー!」

「もっといける気がするが……まあ今日はこの辺で狩をしよう」

「油断大敵だからねー!レッツラゴー」


その日は二時間ほど、ハイテンションな星空と共に俺はこの辺の魔物を駆逐していった。




ーー。


「んじゃ、見せるぞー」


狩を終えた俺は鑑定石の前に立つ。

生放送中のカメラにきちんと俺のステータスを見せることが重要なのだ。


[小鳥遊翔/レベル1]

[覚醒度:2%]

物理攻撃力 4

魔法攻撃力 0

防御力 3

敏捷性 5

[スキル]

転倒阻止 レベル1


表示されたのは事前に変更した坂田のステータス。俺が自分で見る時と違い、「選択」は付いていない。


それを確認すると、俺は名前だけ隠してカメラに映す。


『ほ、本当に1レベだ……』

『ステータスざっこwゴミじゃんww』

『覚醒度2ぱーってま?そんなの聞いた事ないけど』

『これであの動きできるのは流石に嘘。なんかカラクリある』


散々な言われ様だ。まあ予想通りだが。


「見ての通り。俺は正真正銘の1レベ。しかも覚醒度もステータスも最弱」


カメラの前で俺はそう宣言する。


「うーん、やっぱり何度見ても不思議ー!っと、言う事で今日はこの辺で配信終わりまーす!ばいばーい」

「ばいばーい」


流れるコメント欄にお別れを告げ配信を切る。ちゃんと配信が切れているのを確認すると、星空は伸びをする。


「うーん!お疲れ様ー!予定通りだったね!」

「ああ、これであれこれと色々憶測が飛ぶだろう」

「さて真相に辿り着ける人はいるのでしょうか?」

「いねぇよ。想像は出来ても証拠がない。俺がステータスを隠す限り、この世の誰も真相には辿り着けないからな」


犯人はあいつだ、と言うのは誰でもできる。その予想が当たっていることもあるだろう。だが、それは真相ではない。


証明ができないのであればそれは真相ではない。

そして真相を知っているのは俺と星空のただ二人。


「ま、精々語り尽くせばいいさ」


その後、予想通り、ネットの中では世界でただ一人、レベルの上がらない少年に対する憶測や説が大量に飛び交う事になった。


曰く、実はレベルが上がっているが鑑定石では見れない説。

曰く、高度なAIを使ってステータス画面を変更、もしくは偽装してる説。

曰く、名前を隠したことから別人のステータス説。

曰く、1レベルだけど、普通に強いだけ説。

曰く、「ザ・ワン」など本当は存在しない説


この日を境に東迷学園1年Fクラス「ザ・ワン」の名は世界中に広まる事になる。


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