第一章 配信者と落第生
第九話 ザ・ワン
俺は坂田と別れ、一人雨の中部屋に帰り、そして軽くシャワーを浴びて眠る。
ダンジョンに入った日から今日まで毎日欠かさず通っていた。だが、俺は初めてダンジョンに入らなかった。
そして次の日、教室に入る。坂田は昨日までの事がまるで嘘だったかの様に友人と話している。だが、俺が教室に来たのに気付くと、不快な顔をしていた。
気にせず、どかりと自分の席に座り、顎に手をついて窓の外を見ながら呟く。
「はぁ、居心地悪いなぁ」
空気として扱われているどころか、邪魔者みたいな空気を出されている。
理不尽が過ぎる。俺が一体何をしたというのか。これだから人付き合いはしたくないのだ。
そんな空気感のまま、昼休みとなった。俺はこの学園の学内マネーであるダンジョンポイント、通称DPを使ってパンと飲み物を買い、屋上に出る。
幸い屋上には誰もいない。
俺は、これ幸いにと屋上からさらに梯子を登り、貯水槽の横に寝転がりながら飯を食う。
「はぁ、転校したい」
雲ひとつない青空を見上げながらそう呟く。
まだ東迷学園に入学して、たった一ヶ月なのに嫌がらせみたいな事を受けている。俺、何もしてないんだが。
そんなことを考えながらムシャムシャとパンを食っていた所、微かにパタパタと屋上への階段を誰かが上がってくる音がする。しかもずっと何かを喋っている。
どうやら友達同士で屋上でご飯でも食べに来たらしい。
一人にして欲しい所だったのだが、公共の場で占有権を主張するほど愚かじゃない。俺は寝っ転がり、気にしない様にしながら雲を見上げる。
するとすぐ下で女子生徒の声がしてきた。
「ではー!東迷学園の屋上公開までー、3、2、1、どーん!!」
そう言って勢いよく扉を開けて屋上に出てきた。
「うわー、やっぱり広ーーーい!流石国立の学校!こんな広いなら野球とかサッカーとか出来そうだよねー!」
何言ってんだこいつ。てか、声が一人しか聞こえてこないんだけど。足音も一人なんだけど。誰に聞いてんの。誰に言ってんの。
あとフェンス3メートルもないから野球もサッカーも出来ねぇよ。ボール下に落ちたら危ねぇだろ。
「見て!景色綺麗ーーーーー!!あれ、スカイツリーかな!?屋上からスカイツリー見えるなんてラッキー!」
めちゃめちゃ高いテンションで一人で喋り続けてるんだけど。一人なのに見てーとか言ってるんだけど。痛いんだけど。
ここからスカイツリー見えるの、この学園の入学パンフレットに書いてあったんだけど。見てないのか。
「でも思ったより何もないよねー!花壇とか植物植えたりするのはどうかな?学校に提案してみようかなー?」
やめてくれ。それで人が来るようになったら俺が校舎裏に追いやられる。
「そーれーかーらー!じゃっじゃーん!あれがこの学園生専用のダンジョン!通称中央迷宮でーーーす!!」
……。
俺も長らく友達がいない人間だが、こいつに至ってはイマジナリーフレンドまで作って喋ってるんだけど。怖いんだけど。
一人で中央迷宮の紹介を語ってるんだけど。この学園の人間なら誰でも知っているようなこと語り尽くしてるんだけど。やばいんだけど。
見つからないようにしないと。
ぼっち友達だと思われたら敵わん。
そう思って俺は息を潜めていたのだが、一通り、迷宮紹介を終えたその女子生徒はこの貯水槽に目をつけてしまった。
「あれ、登れないかなー?あそこからの眺めもいい感じだと思うんだよねー!」
相変わらずイマジナリーフレンドと会話をしている。登ってこないでくれ。
そんな俺の願いも虚しく、この貯水槽に登る梯子を見つけてしまった。
ゆっくりと梯子を登ってくる気配がする。しかし、登り切る直前で何故か止まる。
「ではー!屋上の景色までー!3、2、1ー、どーん!きゃあーー!」
3、2、1って誰に言ってんの。お前以外誰もいないだろ。
「おっとっとっとっと!セーフ!危ない危ない」
思わずハシゴから手を離してのけ反ってしまったが、体幹がいいのか、戻ってきた。
「人がいたのかー!驚いちゃったよー!こんにちはー!私の名前は星空恵!メグたんかメグメグって呼んでねー!」
「……」
知らねーよ。
俺は沈黙を保つ。スマホを触りチラリともその女子生徒を見ない。その沈黙に耐えきれなかったのか、星空が更に声を掛けてくる。
「ええっとー……。邪魔しちゃったみたいでごめんねー。名前、だけでも聞いていいかな?」
「……小鳥遊だ」
「へー小鳥遊……。小鳥遊?小鳥遊って……」
彼女は俺の名前に聞き覚えがあるようだ。俺は全く知らないが、クラスメイトが何かだったのだろうか。まあ興味はないが。
などと思っていた俺に、彼女は衝撃の事実を告げる。
「きみ、もしかして、Fクラスの「ザ・ワン」?」
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