第七話 呼び出し
それから更に二週間が経過した。
俺はひっそりと教室に入る。
ここ数日のクラスメイト達は、初日のお通やの様な雰囲気はなくなり、迷宮探索での成果を自慢しあっていた。
「私、昨日やっと3レベルになったのー!」
「えー、おめでとうー!これで一緒に三層行けるね!」
「うん!待たせてごめんねー!」
教室に入るなりそんな声が聞こえてくる。
そのすぐ横の男子は新しいスキルが手に入ったらしい。
「俺!昨日火魔法覚えたんだぜ!」
「え、ま!?やべぇーじゃん!」
「先にCクラスに上がらせてもらうぜ!」
「おいおい、置いていかないでくれよ!」
この学園は二学期制をとっておりそれぞれの学期末でクラス替えが行われる。
ステータス、レベル、覚醒度、スキルに応じて評価がなされ、それによって上のクラスに行くのか、それとも下のクラスに下がるのかが決まる。
ただ下がる場合は強制だが、上がる場合は本人の意思による任意だ。学校側から推薦はあるが、これは断る事ができる。
魔法。火に限らず、どの魔法も有用なものが多く、魔法全般がいわゆる当たりスキルと言われている。
レベルが上がれば上がるほど、敵が強くなればなるほど魔法の存在は重要となる。学校側の評価ポイントとしてもかなりプラスとなる。彼のいう通り、前学期中にでも上位クラスへの転属が可能となる可能性は高い。
一方で俺は、このクラスにおいて既に空気の様な扱いになっている。触れてはいけない、話題に出してはいけないあの人状態だった。
別にそれで構わない。友達が欲しいわけでも、誰かと仲良くしたいわけでもない。そもそも俺と彼らとではこの学園に来ている目的が違う。
この学園にくる生徒の殆どは小さい頃から迷宮探索者になることを夢見て来ている。
俺のような迷宮探索に興味のない人間は恐らく極小数。話など合うはずもなく、その覚悟の上でここに来ていた。
だが、それとは別にここ最近の俺のモチベーションは下がり続けていた。
レベルが上がらなければステータスも上がらない。スキルも増えない。
それ故に迷宮での金策の効率が上がらないからだ。
スライム狩りの時給は大体1500円前後。
この東迷学園がある東京の最低賃金は現在1113円。
バイトするよりは高い賃金だが、静かな薄暗い洞窟の中をたった一人で延々と歩き続け、木刀を持ってスライムを叩き続ける作業は割と苦痛だ。
だからと言って、ラットはやはり俺のステータスでは危険だった。
木刀では一撃で倒せないし、そこそこ早いので運悪く複数体にエンカウントすると、攻撃を捌けなくなってしまう。
先日も太ももを思いっきり噛まれ、青あざが出来たところだ。
しかも、狩れる数がスライムよりも減る為、資金稼ぎとしてはトントンがいいところ。
痛みと緊張を伴う分、全く割に合わない。
正直これなら普通の進学校に行って、普通にバイトした方が良かった。
そんなことを思っていると、俺の席の近くに一人の生徒が立っていた。まあ腫れ物の俺に今でも話しかけるのはこいつしかいないがな。
「なぁ、今日の放課後、校舎裏に来てくれ?」
坂田だ。先週まで毎日の様に進捗を聞いて来たり、一緒にダンジョンに潜らないかと誘って来たりしていたが、全て断っていた。
今週になって一度も声をかけてこなくなったので諦めたかと思ったのだが、何だろうか。
まあ別に構わないか。
「ああ、いいぞ」
俺はいつもの事かと、特に考えずに承諾する。
そして放課後、俺はチラリとこちらを見て教室を出ていく坂田を追って校舎裏に行く。
広い校舎の裏側、陽の当たらない日陰の土地。あまり人も来ないのか、足元にはドクダミなどの植物が生えており、正直あまり長居したくない様な雰囲気だ。
そこに一人、拳を握り締め、何か覚悟を決めた様な坂田が立っていた。
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