第五話 初戦闘

それから三日後、俺はダンジョンに来ていた。


今回はサボる気はない。何故なら、C組のほとんどがレベルアップし、二階層に進んだ事により、一階層が空いたからだ。


今一階層にはFクラスしかいない。早速先輩の動画で見た周回場所まで歩いていき、狩りの周回を始める。


到着して数分後には一体目、初の獲物となるスライムと会合する。


実際に一度講習で見て、動画では散々観たスライムがのっそりのっそりと此方に近づいてくる。


俺の初戦闘。右手の木刀を上段に構え、ジリジリとスライムに近付く。

そして一歩で木刀が当たる間合いまで詰めると、即座にスライムに切り掛かる。


「おらっ!」


バチュンという音がしてスライムが弾ける。スライム、と言う名前の如く、その感触は硬めのスライムを殴っているくらいだ。


そしてスライムは黒いモヤとなり消え、後には魔石が転がっているだけだった。俺の低いステータスでも一撃らしい。

これならば何の問題もなく一人で狩りができるだろう。




ーー1時間後。


「これで15匹目」


手にした木刀でスライムを叩き潰す。坂田の話では初日は全然スライムがいなくて一時間で五匹も狩れなかったという。三日待っただけで効率が三倍になった。


動画サイトにはFクラスの先輩の動画もあり、非効率な狩りをするよりもよほどためになった。


その先輩は覚醒度4%だった為、必ずしも全て同じにはならないだろうが、十分参考になる。


俺は今、その動画で見た一階層でのモンスターのリポップ時間から逆算し、同じ所をぐるぐる回るだけで効率よく敵を倒せる周回箇所を回っている。


やはり、こういうのは効率重視でないとやってられない。


「あ、こんばんはー」


周回していると、一人の女子生徒が後ろから声をかけてきた。


「どうも」


軽く会釈をして挨拶を返す。木刀を持っているし、ここは2階への階段から遠い。恐らくFクラスの人間だろう。俺の記憶にはないが。


そして、それ以上会話をする事なく彼女は歩き去って行った。


俺の後ろから来たのでもしかしたら彼女も周回しているのかもと思ったが、左右の分かれ道で周回ルートとは別の道に行ったので違うのだろう。


ほっと一安心して俺は再度周回を続けた。


ーー一週間後。


「いよっしゃぁぁぁぁぁーーーーー!レベルアップゥゥゥゥゥーーーーーー!」


教室に入るなり、坂田の叫び声が響き渡ってくる。相変わらずうるさい奴だ。


「おお!翔!これ見てくれ!昨日俺、とうとうレベルアップしたんだ!」


そういうと、俺に押し付けるように一枚の紙を見せつけてくる。


[坂田明人/レベル2]

[覚醒度:2%]

物理攻撃力 5

魔法攻撃力 0

防御力 5

敏捷性 6

[スキル]

転倒阻止 レベル1


確かにレベルアップしている。それに際し、ステータスも微小ながら上がっているようだ。


「よかったな。おめでとう」


とりあえず祝いの言葉を述べておくと、坂田は満面の笑みで喜んだ。


「ありがとう!翔のおかげだ!」


俺は何もしていない。だが、それをいうとまたうるさそなので黙っておく。


「これであとは翔だけだな!調子はどうなんだ!?」


そう。坂田の言う通り、このFクラスがダンジョンに入って既に十日、未だレベルアップをしていないのは俺だけだった。


「狩りはお陰様で日に日に効率良くなってるよ。俺も明日か明後日にはレベルアップするだろう」

「そうか!俺がレベルアップ出来たんだから翔もすぐだ!頑張れよ!」


坂田はそう言い残し、自席の友人達と仲良く話し出した。


俺も自席に座り、授業のための準備をする。

次の授業の教科書とノートを取り出し、机の上に置き、俺はスマホを開く。


正直言うと、俺は内心少し焦燥を感じていた。


何故なら、坂田が先にレベルアップしたから。


先を越されて悔しい、とか、このクラスで俺だけレベルが1なのが恥ずかしい、とかではない。


俺は坂田から毎日のようにスライム狩りについて聞かされていた。彼が1日で何体のスライムを狩っているのかも俺は知っている。


だから、昨日の時点で俺が坂田よりも多くのスライムを狩っているはずだった。

それにもかかわらず、坂田がレベルアップをして、俺は1レベルのまま。


俺はこっそりスマホで、「覚醒度 同じ場合 必要経験値」と検索をする。すると、ネット上では覚醒度が同じであってもレベルアップに必要な経験値は人によって多少の誤差がある、と書かれていた。


なるほど、多少の誤差、か。

なら今日の狩りでレベルアップするだろう。そう思い、俺はスマホを閉じる。


これが絶望の始まりだと知らずに。

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