第四話 ダンジョン

そして担任の挨拶が終わり、寮へと帰る。


この東迷学園には三種類の寮がある。

一つ目が金獅子寮。三寮の中で一番豪華で一番設備が整っているSクラス限定の寮。


2つ目が赤虎寮。三寮の中でも一番多くの生徒を受け入れるため、一番大きく、そして食堂などの設備も一番大きい寮。


3つ目が白蓮寮。三寮の中で一番小さい小綺麗な木造の寮。小さいと言っても3年から1年の全員を収容できるだけあって決して小さいわけではないのだが、他の二つの寮を見た後だと明らかに見劣りする。


寮に着いた俺たちは部屋を割り振られ、歓迎会のようなものもなく、自由時間となった。


寮長を名乗った男も、Fクラスの生き方や将来どうするかとか困ったら相談するよ、あとは寮のルールを守れば自由だ、とだけ言って寮のルールなどが書かれたパンフレットを渡して去って行った。


何というかここまで露骨に差別されるとむしろ清々しいな。


まあ部屋は5畳ほどで汚くもないし、一応ベットなども備え付け。別に悪くない。


俺は荷物を部屋に投げ出し、ベットに寝転がる。


そしてそのままうとうとしてしまい眠りについた。


それから一週間後、俺達は東迷学園に隣接するダンジョン「中央迷宮」に来ていた。この中央迷宮は東迷学園生限定のダンジョンだ。


「ではこれより中央ダンジョンのレクリエーションを開始する」


胸当てをつけた男性職員が俺達の前で説明をする。


「今日君達に倒してもらいたいのは、この中央ダンジョン一階の最弱モンスター、このスライムだ」


そう言うと、横にある木作の中にいたぶよぶよの青い不定形なモンスターを指差す。


「では、一回私が実践する!」


そう言うと、手に持った木刀でスライムを叩く。


ビチャっという音と共にスライムが弾け、そして黒いモヤになって消えてしまう。


そして後に残った青いガラスの欠片の様なものを拾い、俺たちに見せる。


「これが魔石だ。敵を倒して安全が確保できたらこの魔石を拾い、次の敵を探しにいく。それを繰り返すだけだ!このスライムは1レベルでも余裕で倒せるし、攻撃されてもさほど痛くないから安心して狩ってくれ!以上、解散!」


そう言うと、男性職員は去ってしまった。

職員の背中が見えなくなると、Fクラスの生徒達が途端にガヤガヤと喋り出す。


「じゃあ奈々美、どっちが先に早くレベル2になれるか競争しよう?」

「オッケー、あたし負けないから」


文月と如月はそう言うと別々にダンジョンの洞窟内を探索しに行った。


他の生徒達も効率を重視し、各々別れて探索に行った。


そして最後にこの場に残ったのは俺と坂田だけ。


「行かないのか?」

「行かない」

「えっ!?あっ、ちょっ、翔!」


俺は近くの休憩室まで歩いて行くと、支給された木刀を壁に立て掛け、置いてあったベンチに寝転がる。すると、坂田は俺を追いかけて休憩室に入ってきた。


「おいおい、本当に行かないのか?」

「ああ、ぎゅうぎゅう詰めの場所で他生徒に狩られまくった数少ないモンスターを探して歩き回るのは非効率だ。もう2、3日明けてから行く」

「おいおい、それじゃあ他の生徒に先を越されるぞ!ただでさえ、俺らFクラスはドベなのに……」


俺達Fクラスは、入学式から一週間経ってからダンジョンへの入場を許可された。しかし、他クラスはもっと早くから許可が出されている。

Sクラスに至っては入学式初日からダンジョンに入る許可が出されたのだ。


恐らく、Sクラスの人間の中には既に3レベルになっている者もいるのではないだろうか。


ただこれは差別ではない。単純に効率の問題だ。覚醒度が高い人間は少ない討伐数で早くレベルが上がる。だから覚醒度が高いSクラスの生徒を先に入れてレベル上げをし、下の階層に行かせることで、混雑を避けたのだ。


「俺はダンジョン探索には興味がない。だから出遅れても何の問題もない」

「でもよぉ……」

「行きたいのならお前は行けばいい。俺はこの場で情報収集をする」


そう言って俺はポケットからスマホを取り出す。坂田はオロオロと迷っている様だったが、結局ダンジョンに行く様だ。


「絶対追いついてこいよ!」


そう言って坂田は木刀を持って走って行った。


「うるさいやつだ」


そう思いながら、効率的なダンジョン探索の方法や掲示板や動画投稿サイトなどを調べる。


「へーこの学園、動画配信者いるんだー」


東迷学園といれて調べてみると、幾つもの動画が出てくる。

動画投稿者も一人二人ではない。何十人という上級生達が動画を投稿していた。

この中央ダンジョンの1階層から5階層までのモンスターの倒し方や効率の出し方、レアドロップまでを丁寧に教えている動画もある。


俺はベンチで寝転がりながら、その動画を見る事にした。


それから暫くして、上の方からゾロゾロと人が入ってきた。そのまま動画から視線を外さないでいると、その中の何人かが近づいて来るのが分かった。


「ご機嫌よう」

「どうも」


挨拶をされたので、動画から視線を変えずに返す。


それにしてもご機嫌ようとは。人生でそんな事初めて言われた。


「お一人ですか?ダンジョンには潜らないのでしょうか?」

「今FクラスとCクラスが一階層を攻略して空きがない。俺はもう少し後で行く」

「あら、ということは貴方はFクラスの方?」

「ああそうだ」

「まあ!」


手を口に当て、驚きを表現する。


「失礼ながら覚醒度をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「2%だ」

「まあ!それは大変失礼いたしました。ご無礼をお許しください」


この場合、謝る方が失礼だと思うが。


「勘違いするな。不貞腐れているわけじゃない。ただ効率が悪いから動画で勉強しているだけだ」

「そうでしたの……。あっ、そういえば、名前を言っておりませんでしたわね。私、一年Sクラス、花園千草と申しますわ。以後お見知り置きを」

「あっそ。気が向いたら覚えとく」


そんな俺の不遜な態度が気に入らなかったのか、後ろで黙っていた男子生徒が怒る。


「おい!流石に失礼だろ。お嬢が名乗ったんだからお前も名乗るべきだ!」


まあ……それはそうか。面倒くさいなぁ。

そう思いながらスマホから目を離し、花園達を見る。


「1年Fクラス小鳥遊翔。好きなことは金儲け。嫌いなことは突っかかってくる人間。以上、よろしく」

「ぐぬぅ……!」


俺に怒鳴った生徒が黙ってしまった。頭は丸坊主で、身体は筋骨隆々という、野球部のキャッチャーでもやっていそうな見た目だ。

ダンジョン関係なしに身体を鍛えているんだろうな。

花園は黒髪ロングで腰に剣を差しているが、今は手に扇子を持っている。街ですれ違ってもお嬢様なんだろうというのが分かってしまうほど、気品あふれる少女だった。


「まあまあ。翔さん、これから三年間、よろしくお願い致しますわ」


そう言って彼等は立ち去って行った。

嫌味なのか、と思ってしまう俺はきっと心が汚いのだろう。


Sクラス。覚醒度30%越えの選ばれた天才達。


かたやFクラス。しかも覚醒度は学年最低の2%。


そんな人間が今後関わり合うことがあると思っているのか。


「まあ俺にはどうでもいいことだ」


彼等が何階層を攻略しようが、低階層をうろつくであろう俺のダンジョン攻略には何の関係もない。だから、彼等は覚える価値のない人間。明日にはきっと名前も、会ったことすら忘れてしまうだろう。


俺はスマホに目を移し、先ほどの動画の続きを再生した。

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