第三話 嘆きの教室
俺は当然の如くFランク行きを宣言された。
俺は案内の地図に従い、Fクラスを探す。
そして、無事、1年Fクラスの教室の前に立つ。教室の中からは扉越しでも鼻を啜る音が聞こえてくる。
入りたくない。
信じられるだろうか。入学初日、自分のクラスに行ったら生徒の何人かが泣いてるんだぜ。日本に四校ある迷宮高校を除けば日本中どこも見てもこんな学校ないだろうな。
だからと言ってここにいてもしょうがないので、扉を開け教室に入り、指定された椅子に座る。
俺は特に気落ちしたりはしていない。高いステータスならお金が稼ぎやすかったな。ただそれだけ。
人間は与えられたもので頑張るしかないのだから、ないものねだりなどしても仕方ないのだ。
ましてや生まれ持った才能。あーすればよかった、こうすればよかったと言う後悔すらない。
そう思いながらこの後どうしようかなどと考えていたところ、先に教室に来ていた坂田が俺の席に寄ってきた。
「おおー……小鳥遊か……」
その表情はあまりにも絶望していた。現実でこんな絶望した人間、初めて見た。
「どうした?顔色悪いぞ」
ゾンビのような足取りでゆっくり近付いてきた坂田に俺は問いかける。すると、坂田は一枚の紙を取り出し、俺に渡してきた。
「これを見てくれ」
それは坂田のステータスが書かれた紙だった。
[坂田明人/レベル1]
[覚醒度:2%]
物理攻撃力 4
魔法攻撃力 0
防御力 3
敏捷性 5
[スキル]
転倒阻止 レベル1
そこに書かれていた数値は確かに俺と全く同じだった。事前に聞かされていたが直接見せられると、少し驚く。
「これがどうかしたのか?」
それでも平静に聞く。すると坂田は膝からガクリと崩れ落ち、ガサガサの声で絞り出すように話し出す。
「ああ……。俺な、自分のこのステータスがどんなものなのか気になって、このクラス全員に聞いて回ったんだ」
「……」
俺は直感で先が分かったが、黙って続きを聞く。
「そしたらな!?なんと!俺のステータスはこのクラス最低だったんだよおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!ちくしょぉーーーーーおぉぉぉぉぉ!!何でだよーーーーぉぉぉぉぉぉちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」
涙を流しながら叫ぶ坂田に、周りの生徒達の注目は一手に集まる。
あちこちからクスクスと言う笑い声も聞こえてくる。
気持ちはわかる。完全にギャグだ。
アニメでこう言うの見たことある。大の男が世の中に絶望して泣いているのに、何故か可哀想とか同情の気持ちが湧いてこない。
まあクラスの雰囲気が良くなったのはいいことだ。そんな彼に嬉しい報告をしてあげよう。
「そんなに泣くな。ほら、これを見て元気出せ」
そう言って俺は自分のステータスが書かれた紙を手渡す。
「ぐすっ……何だこれ、俺の紙じゃねぇか!これのせいで俺は泣いてるって言うのにひでぇよ!」
「名前欄をよく見ろ」
「名前欄……?」
そう言って紙の上段に目を映す。
「え?これ、名前、小鳥遊翔って……、でもこれ、俺のステータス……」
唖然としたまま言葉を絞り出す坂田に俺は答えを教えてやる。
「受付の人が驚いてたぞ。全く同じステータスの人間が現れることなんて過去なかったって」
「おお……、おおおぉぉぉぉぉーー。You are my best friend!」
坂田はそう叫び、俺を抱きしめてくる。男に抱きしめられるとか何の罰ゲームだ。
「きっ……」
「キッショ」
俺が言う前に、教室に新しく入ってきた女子生徒が代わりに言ってしまう。
「何だと……、えっ!?かわいい……」
坂田が気持ちの抱擁を邪魔した乱入者を睨み付けようとしたが、その美少女っぷりに思わず本音が零れ落ちる。
金髪ロングで背も高く、スラリと細い足に大きな胸を揺らしながら、ツカツカと自分の席に座る。
「えっ……あの子って……」
「もしかして読モの……?」
金髪ロングのギャルが席につくと、女子を中心にガヤガヤと騒がしくなる。
そしてその中の一人が彼女の名前を口にする。
「文月奈々美?」
文月奈々美。俺は当然知らない。だが、女子陣は違ったようで、先程まで気落ちしていた空気が一変した。
「おいおい、読モだか何だか知らねぇが、俺と親友の抱擁を邪魔するとは太ぇ野郎じゃねぇか。自己紹介せんかい!」
ポケットに手を突っ込みながら文月の前まで歩いて行った坂田はメンチを切るようにその少女の顔を覗き込む。
お前は一体どこの出身者なんだ、と思ったが、俺は黙ってことの成り行きを見守る。
「きもっ。死ねばいいのに」
文月の口から出たのは暴言だった。
坂田はぐっと傷ついた顔をしたが、負けじと言い返す。
「お、おいおい酷い言い方だな?これから同じクラスのクラスメイトだぜ?一緒にパーティー組んだりするんだから……」
「は?あんたみたいなキモいやつとパーティーなんて組むわけないでしょ?」
「あぐっ!」
文月の容赦ない言葉に坂田は顔を歪めて落ち込んでしまう。
「ふん……」
そんな坂田を無視して文月はスマホいじりに戻ってしまう。
「うう……翔……」
泣きながら俺の方に近寄ってくるが、気持ち悪いから近寄らないでほしい。
「あれ、奈々美じゃーん!やっほー!」
そう言って手を上げながら文月に一人の少女が近づいていく。
茶髪をサイドテールにまとめたこれまた文月に劣らない美少女だ。
「双葉!あんたもFクラスなの!?」
「そうなの!まじ有り得ないよねー!」
先ほどまでとは打って変わり、文月は高いテンションで双葉と呼ばれた少女に笑顔を見せる。
どうやら二人は旧知の仲らしい。
「え、あの子……同じ読モの如月双葉じゃ……」
俺の近くの席の女子生徒が小さい声でそう言っていた。
なるほど、同じ読モなのか。
確かに如月も、文月に勝るとも劣らない美少女で、同じ読モをやっていても不思議ではなかった。
「えー、やばすぎー!双葉の覚醒度はー?」
「私9パー!」
「えー惜しいじゃーん!」
「そうなんだよねー!奈々美はー?」
「あたし8パー!」
「えー!奈々美ももうちょっとだったじゃーん!」
二人は教室のど真ん中で堂々と話し始めた。
それを聞いた坂田が唖然としながら呟く。
「9パーと8パー……?」
「高いのか?」
「俺が聞いたこのクラスの最高覚醒度は6パーだった……」
「ふーん」
と言うことはあの二人は現状、このクラスの最優秀株という事になる。
まあ俺にはどうでもいい事だ。
「なあ翔!俺とパーティー組まないか!?」
突然そんな事を言ってきた。
「嫌だが?」
「即答かよ!ひでぇなぁ……。何でだよ?」
「低階層でパーティー組んでもメリットないだろ。俺がこの学園に来た目的話しただろ?俺はソロでいるつもりだ」
「金儲けか?」
「労働だ」
金儲けとは人聞きが悪い。合法に働いて金を稼ぐ。紛う事なき労働だ。
「まあ確かに今の俺らがパーティー組んでもしょうもないか。じゃあさ!二人とも強くなったらパーティー組もうぜ!」
「その時になったらまあ考える」
曖昧な返事をしておく。
「ああ!」
坂田はそう返事をして別の生徒の元へと歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます