第二話 半年前
半年前ーー。
「では、今から君達にはこの覚醒石でステータスの覚醒をしてもらう!」
高い倍率を勝ち上がり、無事東迷学園に入学した俺達新入生は、入学式も程々に、そう告げられた。
覚醒石とは、一言で言えば、探索者達がステータスやスキルを使えるようにする為の石である。
まずはこれに触れることでステータスを目醒めさせるのだ。
「では、アルコール消毒を終えた生徒からこの順番に並んで石に手をかざしなさい」
そう言われた生徒達は、ガヤガヤとしながら石の前に並んでいく。
「終わった生徒は横の部屋で鑑定を受けてステータスを確認しなさい!」
隣では別の教師がそう叫んでいた。その間にも生徒達は緊張からか今日初めて会ったはずなのに、すでにあちこちで会話をしている。
俺は特に緊張もしていない為、大きな欠伸をしながら覚醒石に触れるのを待っていた。
そんな時だった。
「よく欠伸なんか出来るな」
そう声をかけられて前を見ると、茶髪のスポーツヘアーの男子生徒がこちらを苦笑いしながら見てきた。
「あー、ダンジョン探索にはあまり興味がなくてな」
「おいおい、じゃあなんでこの学校に来たんだよ?」
「んー、全寮制なのと、学校に行きながら稼げるから。バイト禁止の学校多いし、バイトするよりはダンジョン行く方が稼げるって聞いたから」
「そんな理由でここに来たのかよ。この学校、偏差値も倍率も高いんだぞ」
そう呆れたように言い、その男子生徒は前を向こうとするが、何か思いついたように再度振り返る。
「ああ、そう言えば名前言ってないな。俺、坂田。坂田明人」
「小鳥遊翔だ」
「小鳥遊な。同じクラスになるかどうか分からんが、同じクラスになったらよろしくな」
「ああよろしく」
そこまで会話をすると、坂田が覚醒石を触る番がやってくる。
「お先」
そう言って坂田は両手で人間の頭ほどの大きさがある覚醒石に両手で触れる。
すると、覚醒石が明るく光だし、しばらくして治まる。
「これで俺にも探索者としての才能が目覚めたのかー……」
何も変わっていないはずの両手を繁々と眺めながら坂田が横にずれて行く。
「次!」
呼ばれた俺は坂田と同じように覚醒石に両手を置く。坂田同様、覚醒石が光り、それが治まると手を離して横にずれる。
そしてそのまま隣の部屋に行き、鑑定を受ける列に並ぶ。
この部屋の空気は先ほどの部屋よりもさらに緊張が高まっていた。なにせ、ここで受けた鑑定結果によって配属されるクラスが決まるのだから。
「Fクラスだけは絶対にやだ!神様お願い!」
「高い覚醒度!もしくは超レアスキルに目覚めてくれ!」
列のあちこちでそう願っている。
覚醒度とは、レベルの上がりやすさ、ステータスの上昇率、スキルの習得率と、全てに関わる重要な情報だ。
一般的に1レベルのこの段階ならば、20%もあればAクラスは確実と言える。
10%以上であればBか、初期スキル、ステータスによってはC。
そして、10%以下であればFクラス。
逆に30%もあればこの学園のエリートSクラス行きが確定する。
例外的に高ランクに指定されているスキルが手に入れば上のクラスに上がれるが、基本的にそんな事は起こり得ない。
つまり、覚醒度がクラスを決めると言っても過言ではないのだ。
「いやぁぁぁぁぁぁああああ!!」
そんな悲鳴が最前列から聞こえてくる。
そちらを見ると泣き崩れて、うずくまる女子生徒がいた。恐らく覚醒度が10%以下でFクラス行きが確定したのだろう。
「やった!Sクラス確定!最高!!」
その横では両手をあげて飛び跳ねる女子生徒がいた。その女子生徒をうずくまる女子生徒が羨ましげに見つめていた。
「うーん毎年のことだと聞いているけど、実際に目にすると本当に天国と地獄だな」
俺の前の列に並んでいた坂田が振り向きながらそう言ってくる。
「俺は別にFでも構わないが」
低階層で地道にモンスターを狩りながら貯金する。それが俺がこの学校に来た理由だからだ。
そんな俺の言葉を聞いた坂田は先程と同じように呆れた顔をする。
「男ならもっと野心持った方がいいぞ。下の階層に行って一攫千金してFIREするとか」
「今時の無欲系男子なものでね」
FIRE(経済的自立と早期リタイア)。確かに憧れるが、いかにダンジョンが儲かる職業とは言え、命懸けの仕事である。下の階層になればなるほど儲かるが、敵も強くなっていき、命の危険性も高くなる。探索者としてFIREするには、相応のリスクが待っているのだ。
「はぁーまあ考え方は人それぞれだ。頑張ってくれや」
そう言って、坂田は前を向き直した。
それに俺は言い返すことなく自分の番が来るまで列に並び続ける。
特にすることはない。周りの生徒達のように首を長くして前で鑑定を受けて一喜一憂している生徒達を見る気にもならない。だから、何となく坂田の背中を眺めていた。
そんな時だった。
「あれ?」
なんか視界が変な感じがする。いや、正確には視界ではないのだが、形容し難いおかしな感覚。
まるで坂田の背中に吸い込まれるような、変な感覚。
おかしい。坂田が着ているのは普通の黒い学ランである。目の錯覚を誘導するようなおかしな柄や変な模様はついていない。
それにもかかわらず、俺の視線は坂田の背中に吸い寄せられるように見てしまう。
(何だ?覚醒石で何かに目覚めたのか?それとも俺の体調が悪いのか?)
体調は別に悪くない。吐き気や眩暈などもない。
ただ何というか意識と視線だけが坂田の背中に向くのだ。
「何だろう?」
「何がだ?」
「ああ、いやすまん。何でもない」
「そうか」
俺の呟きに坂田が軽く振り返るが、慌てて否定すると前を向き直した。
坂田が意識を自分に向けさせるようなスキルに目覚めたのか、それとも俺が意識を向けるようなスキルに目覚めたのか、それとも単に体調が悪いのか。
順調に進んで行く列の中、俺は坂田の背中を眺めながら考える。
すると突然、身体が内側から変わって行くような感覚に陥る。それはすぐに収まり、元の状態に戻る。
今のは一体何だったのだろうか。
「次!」
「はい!」
俺の前、坂田が呼ばれて返事をして前に行く。
「お名前を」
「さ、坂田、あー、ああ、明人って言います!」
「坂田明人さんですね。ええっと、さ、さー、坂田。はいありました。どうぞ手をおいてください」
「はい!」
受付の人にそう促された坂田は元気よく返事をして緊張した面持ちで鑑定石に手を置いた。
そして覚醒石同様少し光り、受付の人の前に青白い画面のようなものが表示される。
受付の人はそれを見ながら、PCに何かを打ち込んでいる。
恐らく、坂田のステータスだろう。
それを打ち込んだ受付の人が後ろから印刷された紙を取り出し坂田に手渡している。
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおーーーーーーー!!!!!くそぉぉぉおおおおおおおーーーーーー!!」
手渡された紙を見た坂田が、先ほどの女子生徒以上の雄叫びを上げながら膝から崩れ落ちている。
それを見たこの場の全員が悟った。
彼はFクラスなのだと。
ある者は同情するように、ある者は嘲笑し、またある者は自分はこうなりませんようにと神に祈っている。
毎年のことなのか、横にいた先生達が慣れた手つきで坂田を励ましながら立たせ、場所をどかせる。
「ふーん……」
俺がFクラスに選ばれようと流石にああはならないが、あれを見ると流石にFクラスに対する忌避感が出てくる。
「次の方!」
「はい」
呼ばれた俺は鑑定石に近づく。
「小鳥遊翔です」
「小鳥遊さんですね。た、たー、小鳥遊さん。はいありました。どうぞ!」
許可が出た俺は流石に少し緊張しながら鑑定石に手をかざす。
先程同様、少し鑑定石が淡く光り、青白い画面が受付の人の前に現れる。先程と同じように、それを受付の人がPCに打ち込んで行く。
しかし、打ち込む最中に手を止めてしまった。
「あら……おかしいわね?」
そう言って首を傾げてしまった。
「何がおかしいんですか?」
「あ、ごめんなさい。もう一回手を離して、もう一度置き直してもらえるかしら」
「はぁ、分かりました」
言われた通り、俺は鑑定石から手を離し、光りが消えたのを確認してから再度手を置く。
同じように光り、受付の人の前に青白い画面が表示されるがが、受付の人をPCに打ち込むことなく、その画面を凝視している。
「……おかしいわね」
「何がですか?」
どうも俺のステータスはおかしいらしい。覚醒度が異常にいいか、超レアスキルがあるか。それともステータスが表示されないとか。もしくは常軌を逸した低さなのか。
俺の前の受付の人は俺の質問に答えず、別の受付の人に声をかける。
「ごめんなさい、鑑定石交換してくれないかしら?」
「はい?はぁ、構いませんよ」
「ありがとう」
そう言うと、俺が手をかざしている鑑定石を取って、横の受付の人に渡し、代わりにその人が使っていた鑑定石を置く。
「何度もごめんなさいね。もう一度お願いできるかしら」
「分かりました」
そう言うと、俺は再度鑑定石に手をかざす。もう流石に飽きてきた。異常事態を察したのか、後ろで並んでいる生徒達も何だ何だの首を高くして俺を見つめてくるのが気持ち悪い。
もうFクラスでいいから早くしてくれ。
そう思ったのだが、受付の人は青白い画面を見て首を傾げている。
「何があったんです」
流石の俺も若干不快な顔をしながらそう聞く。
「うーん、貴方のステータス、さっき叫びながら崩れた男子、坂田君だっけ?彼と全く同じなのよ」
「はぁ」
へぇすごい偶然だ。と言うことは俺Fクラス確定と。まあいいけど。
「こんな事今まで一度もなかったのよ。ステータスが全く同じ、スキルも覚醒度も同じなんて聞いたこと無いわ」
「かなりのレアケースなんですね」
俺からすれば、まあそんな事もあるだろうくらいにしか思ってなかった。
だが、長年受付をやり、多くの生徒達を見てきた彼らからすると異常事態だったらしい。
隣の受付の人とゴニョゴニョ相談している。
だが、映し出されたものを打ち込むのが彼ら受付の仕事。
結局画面のまま打ち込むことにしたようだ。
「まあ考えても仕方がない!長々とごめんなさいね!今貴方のステータス表出すから参考にして!」
そう言って印刷機から出た紙を俺に渡してくれた。
俺はその紙をチラリと眺める。
[小鳥遊翔/レベル1]
[覚醒度:2%]
物理攻撃力 4
魔法攻撃力 0
防御力 3
敏捷性 5
[スキル]
転倒阻止 レベル1
そのステータスは絶望的に低かった。
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