第5話 フロウ様

町に戻る事を決めた。

変化することで服は脱げたので、苦労して袋に詰めた。

袋を蜥蜴の口の奥に詰め込み、魔猪に変化して蜥蜴を咥えて歩いた。

明らかに力が増していたおかげでトカゲを運ぶのは問題ない。人間に見つからないように街道から少し離れて注意して進んだ。


町の近くまで来て考える。人間に変化して運べるか?

無理だろう、あの姿ではこの重い蜥蜴を抱えたら歩いている内に力尽きそうだ。

どうすればいいんだ?忍び込むか?その後は?

町の中で何かをしたいなら人間の姿で、服を着て、金を持っていないといけない。

他にどうしようもなく元の姿に戻った。

ズボンは何とか履いたが、上は諦めた。トカゲも放置して町に向う。


「おい、お前その怪我はどうした。町の人間ではないな?家はあるのか?」

門番が話しかけてきた。今まで見てるだけだった癖に、早く行きたいのに邪魔するな。

「魔物にやられた、最近ここに来て宿に泊まってる」

門番はこちらを観察し、すこし考える様子を見せてから告げてきた。

「町には入れない、失せろ。中で死なれてはかなわん」

「金はある」

「なに?どうせ盗んだんだろ。金を見せろ」


どうしよう、この体で逃げるのは無理だ。戦うにしても変化しないといけない。

金があればいいんじゃないのか?怪我をしているからか?町の住人じゃないから?何が間違っていたんだ。

「おい!早くしろ!」

「ま、まて、ちがう」

言葉が出てこない、どうしたらいいか分からない。お前は何をしたいんだ?金を渡したら俺は死んでしまう。俺を殺したいのか?俺はお前になにもしていないのに。



「そこの人、ひどい怪我をしているな。見せてみなさい」

「フロウ様!」

フロウさま?見ると高そうなローブを着たじいさんがいた。

「ふむ、足の方は膿んで腐りかけていますね。かなり痛むでしょう、早く治療院に来ないと足を失うこともありますよ」

「なんだ!さわるな!」

「おまえ!失礼なことを言うな!」

門番が怒り出して槍の柄のところで殴ってくる。痛くはないが傷に響いていらいらする。


「彼は何か罪を?」

「それは……」

「失礼しました、お仕事に口は出しません。ですが彼の治療だけはしておきます。ハリラ・ソルセラ・セイ・ヒール」

じいさんが何かを唱えると体がじんわりと温かくなる。ひどい痛みが消えていき、僅かな間に傷はなくなっていた。


「すごい!じいさん何をした!」

「お前!いい加減にしろ!」

「ははは、回復魔法ですよ。怪我をしたら治療院に来なさい。大きな町なら必ずあります」

治療院か、今度怪我をしたらそこにいこう。

このじいさんのおかげで助かった。俺だけならあのまま金を奪われるか、変化して逃げるしかなかった。すごいやつだ、こいつは立派な人間なんだ!


「じいさん!すごい!金をやる!」

あるだけの金を渡した。もらってくれ。

「構いませんよ、勝手にやったことなので」

金もいらないのか。こんなじいさんがいるなんて。俺はこんなやつに会ったことがない。こんな凄いやつもいるのか。

「次からは治療院に来て支払ってください。では私はこれで」

「ありがとう!ありがとう!!」

俺は初めて心からお礼を言った。お礼を言える事が嬉しくてもっとお礼を言いたくなった。

凄いじいさんだ、あぁ羨ましい、俺もあんな風になれたら。

特別なことが出来て、人に尊敬されて、俺のようなやつに優しく出来る。一体どんな日々を生きているんだろうか。

俺は憧れという感情を知った。






「おいおい、一人でこれを狩ってきたのか。これが出来るなら腕は一流だな」

トカゲは銀貨80枚で売れた。色々言っていたが金さえ貰えればいいんだ。

「力を見たい」


――――――

種族:人

年齢:16

位階:1

職業:見習いLv8

体力:260/260

魔力:15/20

身体:32

技術:12

知能:12

精神:13

――――――


「やっぱり意味が分からないくらい伸びてるな。冒険者としてもベテラン戦士並だ」

「そうなのか?お前はどのくらいだ?」

「あぁ?そういうのは人に教えたりしねぇんだ。それよりもう少しで見習い終了だな。まぁこれなら戦士で決まりだろうが、職業決めておけよ」

「見習いが終わる?職業ってなんだ?」

「お前何にも知らねぇな。まぁ考えなくていい、戦士になって魔物狩ってりゃいいんだ」



おっさんは色々知っているようだが、それ以上何も聞けずに追い払われた。

職業見習いというのが変わるのか?放っておいたら変わるんだろうか?

あの適当に見えた冒険者達も、俺には見えない所で色々やっていたんだな。魔物を狩るだけじゃ駄目なのか。



宿を借りて部屋に入った。今ある金を集める。

一番高いのは銀貨だ、銀貨を集めてじいさんの所に持っていこう。

あるだけの銀貨を分けた後、汚れの多い銀貨を抜いた。多分これは盗んだやつだ、なんとなく抜いておきたくなった。

残りの銀貨を小さな袋に詰めた。それからボロになったナイフを腕に突き立てる。

「いってぇ!」




じいさんは金を受け取らないからな。これで金を渡せるはずだ。

俺に出来ることは金を渡す事しか無いんだ。あの素晴らしいじいさんに金を渡したい。






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