第3話 変化
目覚めたら自分がスライムになっていた。
眼がないのに周囲が見える、鼻がないのに匂いが分かる、不思議な感覚だ。
俺の前では綺麗な森のスライムが大鼠を食べている。ついさっきと状況は変わっていない。
俺はスライムに生まれ変わったのか?スライムになりたかったから?
考えて答えが出る訳もないか、それより折角スライムになったんだからスライムらしくやってみよう。
目の前の獲物に伸し掛かってみた。食べる方法は本能的に分かる。
俺が並んで食い始めると森スライムは離れていった。
なんだ?俺はスライムとしておかしいか?
自身をよく見ると濁った汚い体だった。これは糞を食べていたスライムか?臭いのだろうか?
折角スライムに生まれ変わったのに同じスライムの中でも下に見られて避けられた、腹が立ったので森スライムに伸し掛かった。
もぞもぞと抵抗するが、こちらの方が強いようだ。ぎゅっと抑え込んで食ってやった。綺麗な体が羨ましい、俺もこうなりたい。
そう願うと俺は綺麗な森スライムになっていた。
透き通る美しい体。なんだか爽やかな気分だ。自分がより素晴らしい存在になったんだと思えた。
目の前には食べかけの大鼠、これも食べてしまう事にした。
剥き出しの闘争心が美しかった。ただ本能に突き動かされるその姿が、何もしなかった自分よりずっと素晴らしい物に思えた。
俺もそんな風になりたい。うじうじしている自分が嫌だ。
そう考えていると、自分の身体が変化していく事に気づいた。粘液の塊の様な単純な体から、内蔵・骨・筋肉に変化していく。
やがてさっきまで見ていた大鼠になった。
俺は生まれ変わったんじゃない。変身能力を手に入れていたんだ。
人間の身体に戻してみた。怪我はそのままだったが、体に力が満ちている。
レベルアップしたんだろうか?たった2体倒しただけで?
わからない、だがあそこに行けば調べられるだろう。
転がっていた衣服を身に着け、食べかけの大鼠の頭を持って町に帰った。
「本当に頭を持ってきたのか」
「嘘だったのか」
「いや討伐したなら金は出すぞ。ただ腹の中にある魔石を持って来るのが楽だ。つっても知らないんだろ?肉や素材が売れるやつもいるぞ」
こいつの言うには魔物の体には魔の力を宿した石が埋まっているらしい。見せてもらったので今後はこれを集めよう。大鼠の石は食ってしまったかも。
「ほらよ、銅貨2枚だ」
「あぁ。なんでこれが金になるんだ?」
「間引きだ間引き、放って置くと馬鹿みたいに増えて色々問題があるんだ。間引きしたら領主から報酬が出る。安いけどな」
「この金で何が出来る?」
「パンくらいは買えるぞ」
そうか、大鼠を1匹くらいじゃ店で飯を食うのは無理か。今度はもっとたくさん取ってくればいいか。
「力をみたい」
「大銅貨1枚だ」
――――――
種族:人
年齢:16
位階:1
職業:見習いLv2
体力:10/30
魔力:0/10
身体:5
技術:3
知能:3
精神:4
――――――
「なんだこれ、なんでこんなに変わってるんだ?」
「さあな、また来る」
宿を見つけて飯を食って寝た。
人間は苦手だが、金を渡せば済むので困らない。金が無くなったら俺は人間ではなくなる。
翌朝、傷は痛むがまた狩りに行くことにした。
この傷をどうしたらいいのか俺には分からない。
昨日と同じ森に来た。
足が痛むがまた魔物を探さないといけない、そこで思いついて大鼠に変身した。
大鼠に変化したら足に傷はない。もっと早くこうすればよかったな。
服や道具を放置して魔物を探す。
鼻も効くようになった、闇雲に探すよりずっと早い。
大鼠を見つけて近づく、こちらを警戒しているが攻撃はしてこなかった。
不意打ちをする気はない。まっすぐに戦う大鼠に憧れたんだ、俺もそうする。
鳴き声を上げて威嚇してから突進した。身構える相手を突き飛ばし、そのまま首元に噛みついて食いちぎった。
いい戦いが出来た。大鼠らしい戦闘だ。余裕を持って勝てたのは俺自身の能力が加算されているんだろうか?
人間に変化して素っ裸で運び、腹を割いて石を探した。
大きな体ではないが小さな石を探すのは難しく、もう止めようかと思った頃にやっと臓器の中から見つけた。
全部同じ場所にあるわけではないらしいので、頭を持って来いというのは悪くない提案だったんだな。
頭を持っていくことに変えて5匹の大鼠を狩った。ついでに見つけたスライムも狩ったが、これは金にはならない。
そろそろ帰ろうとした所で今までと違う匂いが近づいている事に気づいた。
これは魔猪だ。体長は人間と同じくらいか、大鼠になっている俺より数倍大きい。
美しく大きな体に立派な角。この森で多くの生物を捕食してきたんだろう、自信に溢れた堂々とした立ち姿をしている。
強者として振る舞うのはどういう気分なんだろうか?ずっと奴隷以下のゴミとして生きて来た自分に比べて、強者として生まれたお前はどれだけ恵まれてきたのか。
嫉妬はない、ただ羨ましい、俺もお前みたいになりたい。お前の全てを俺にくれ。
魔猪が襲いかかってくる、こちらも正面から迎え撃ったが硬い頭に弾き返され角で切り裂かれて宙を舞った。
もうこの体は使えない。しかし裸の本体では嬲り殺されるだけだ。
そのまま地面に落ちて魔猪が寄って来るのを待った。
奴は警戒を見せず、生きたままの俺を食べ始めた。チャンスだ、腹に頭を突っ込んでいるタイミングでスライムへと変化して喉奥に突っ込んだ。
苦しんで暴れまわるが既に手遅れ、ロクな抵抗をさせずに息の根を止めた。
喉から這い出して元の姿に戻る。相変わらず怪我が痛むが、肉体はさらに成長したようで動きやすくなった。
こいつを持っていけば金になるだろう。金があれば人間らしく振る舞える。
かなり重いが、レベルアップのおかげで何とか運べた。
運んでいると糞は出てくるしノミは飛び跳ねるで最悪だ。ほんとに売れるのか?
不安に思いながら運んだ。大鼠の頭は諦めた。
「やるじゃねぇか、大物だな。銀貨でいいだろ25枚だ」
「そうか。力が見たい」
――――――
種族:人
年齢:16
位階:1
職業:見習いLv4
体力:60/120
魔力:10/15
身体:18
技術:6
知能:6
精神:7
――――――
「おいおい、昨日とぜんぜん違うじゃねぇか」
「これは高いのか」
「まぁ、身体能力と体力は高いな。他は一般人か。それよりレベルの割りに強すぎる」
「そうか」
昨日初めて見た時はレベル1だった。元が0だったと考えたが違うかも知れない。
俺は倒した魔物の姿だけじゃなく能力も奪ってるんじゃないだろうか。
やはりあのスライムが俺の始まり、あいつに貰った能力で俺はゴミから人間になったんだ。
大鼠をたくさん倒したが、俺が変身出来る大鼠は1つだけだ。スライムは2つあるので似ていても種類が別ならいけるのか?
これからは沢山の種類の魔物を倒していこう。人として生きていくには力と金が必要だ。
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