第3-7話
「全く…」
リリーは軽く悪態を付きながらも、仕方がないと諦め、小石を拾う。そして大口を開けて寝ている男に一発。起きなければまた一発、と吸収力の高そうな腹部に当てる。これを数回繰り返した。
「ふ、ふがっ…!な、なんだ…?」
漸く、彼が目を覚ました。まだ寝ぼけ眼なのか、意識がはっきりしているようには見えない。一人で混乱している様は非常に滑稽に映る。
「ああ…寝ちまったのか…。飲みすぎたな…」
そう言って彼は小さなテーブルに置いてあった金属製のグラスを引き寄せ、中を
リリーはもしかしたらこちらに来るのではないかと警戒するも、そんな心配は杞憂だったようで、彼はその重たそうな腹を揺らしながら小屋の裏へと回った。
リリーは念の為、付いていくと男は水瓶を前にしてバシャバシャと顔を洗っていた。これならばもう大丈夫だろうと判断したリリーはこっそりとその場を後にし、アリッサの元へと戻った。
「遅かったわね、何かあったの?」
アリッサの元にリリーが戻ると、開口一番に聞いてきた。嫌味というよりも、リリーが遅かった理由が何かしらのトラブルだったのではと心配からくる発言だ。
「申し訳ございません、なにぶん片手だけでは
「そう、まあ大事ないならいいわ」
アリッサはじゃあ準備するわよ、と言い、座っていた椅子の座面に足を乗せる。すると音もなく、椅子の脚部がするすると伸び始め、あっという間に城壁の高さまで迫ろうかという勢いで伸びた。
アリッサ達は
弓を扱う戦士職の他に、リリーの報告にあったように魔術師が混じっているようで彼らは時折、
アリッサは椅子の足をするすると短くする。地面に接地するギリギリの高さまで低くし、そしてアリッサはこう言った。
「私、一度彼らの
あっけからんと言い放つアリッサにリリーは動揺し、一瞬、言葉に詰まるも、すぐに平常心を取り戻して主人に質問する。
「問題はありませんでしたか?」
「恐らくね。一瞬、見つかりかけたけど、すぐに
リリーは確かに先程、上空から鳥瞰視点で偵察した際よりも心なしか、兵士達に緊張感が漂っている様には感じていた。その理由に合点がいく。
「まあ、詳しい話は後で話すわ。多分、すぐにまた
そういってアリッサはリリーの返事を待たずに、例の見張り小屋の方を向けて開いた右手を差し出す。そしてその開いた手を握り締める動作を行うと、間髪入れずに別の魔術を展開する。城壁の側面に魔術で作った
「これは…?」
予定にない行動にリリーは頭の中に疑問符が生まれるも、すぐに理解する。これは恐らく
実際、アリッサはリリーの予想通り、これを
「ここから先は私のアドリブになるわ。申し訳ないわね」
その言葉とほぼ同時に、農耕地の方からわっと叫び声が聞こえる。
見ると宵闇に赤々と一際輝く焔と、その光を受けながら空へと舞い上がる黒煙だ。アリッサが魔術を起動して起こした
「始まったわね」
「わ、私に出来る事は…!」
「あるわよ、また陽動になるけ…」
リリーは微力ながらも力になろうと思い、アリッサのその深謀の一端を伺おうとする。しかし、それを許さぬかのように次々と哨兵達の激声が飛び交い出し、アリッサの声はいとも容易く打ち消されてしまう。アリッサはまた後でね、とリリーに聞こえるように耳打ちする。
「魔物に囲まれているぞ!」
「なっ!?おい!魔術師共はなにやってんだ!」
「だから今、報告してるだろ!いつの間に現れたんだ!」
哨兵達は農耕地の小火を見て、咄嗟に
しかし、城壁の側面にはびっしりと鼠形の
「ふふ、見てなさい、リリー。これから面白くなるわよ」
アリッサは悪戯好きな少年の様にくすくすと笑う。自身も
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