第3-5話
リリーの考える潜入作戦はこうだ。
まずアリッサは農耕地を避けて移動し、見張り小屋から距離を置く。
城壁の上の哨兵が厄介だが、農耕地周辺以外は明かりは少ない。暗所に紛れる魔術を使って影の間を縫うように移動すれば、城壁間際まで接近する事は可能だろうとリリーは考えていた。
そしてリリーには別の大役を遂行する必要がある。
まずは事前にアリッサが新たに魔術で作り出した、『締め上げる首輪』を用意する。
この伸縮自在でスライム状の首輪はその名の通り、対象者、もしくは対象物を万力の様に締め上げるというもの。
アリッサが発動を念じるとたちまちに首輪が縮小し始め、最終的には首輪そのものは目に見えないレベルの小さな粒子に至る。そして首輪内に入っていた物質は押し潰されるという魔術だ。
これをリリーはアリッサが外壁に到達する前に、見張り小屋の出入り口に架かってある松明の燭台にセットする。
セットするのは全ての見張り小屋ではない。風が吹けば今にも倒れそうな、
その真の狙いは見張り小屋に
これによりアリッサが哨兵達の警戒態勢への移行中に乗じて隙を見て壁を乗り越え、城内へ潜入するという目論見だが、突貫的に練った作戦故に、半ば場当たり的だとリリー本人も自覚していた。
なのでリリーは作戦の大筋を話しつつ、アリッサに改善点等の相談をする。
「確認したいのだけど、質素な小屋を標的にしたのはすぐに火を消化されては、私たちが困るからなのよね?」
「はい。なので火消しに都合が良い魔術が扱える魔術師がいる可能性を出来るだけ排しました。金銭的に魔術師を見張りとして、継続雇用ができないであろう見張り小屋を狙います」
「なるほどね。けど消火の対策は理解したけれど、出火はそんなにうまくいくかしら?」
アリッサは口元に手をやり、リリーの作戦を一つ一つ吟味するように聞いた。
「燭台に『締め上げる首輪』を掛けてから、ご主人様が効果の発動を念じますと、燭台が破壊されて松明が落下する様に致します」
「ふむ、それじゃあ下に藁か何か燃えやすい物を敷いておいた方が良さそうね。見つけたら藁か何か敷いて頂戴」
「了解致しました」
「それで肝心の城壁の越え方だけど…。私の魔術で城壁を登るのは良いとして、見張りの兵士はどうするのかしら?小火に注意を向けるにも限度があるわよ?」
そこが一番痛い所であった。リリーは自分の落ち度を理解しているので、素直にそうですよね…。と言って、この陽動作戦を白紙に戻し、違う作戦を考え直そうとした。だが。
「ふふ、けど面白そうじゃない?」
意外にもアリッサの口から肯定的な意見が出る。
それに対し、頼もしい反面、リリーには不安が残る。
今までトラブルは御免だと言っていたにも関わらず、実際のところアリッサは何だかんだで楽しんでいるようにも思えた。
これはもしかしたら悠久に近い年月を生きる魔女ならではなのか、トラブルが丁度、良い刺激に感じているのかもしれない。
ただあまりにも面白さを優先するあまり、安全性を疎かにしてしまっているのではないかと、リリーは作戦の発案者ながらに心配してしまう。特にアリッサは興味の惹かれるところを優先する傾向がある。
だが、最早深く考えてもキリがない。時間は過ぎていく一方であるし、出来れば今夜中に片付けたいとアリッサは言っている。
リリーは主人と自分の実力ならば、そこらの雑兵には引けを取らないと自負している。なのであのような突貫的な作戦だとしても、通用するだろうと思う事にした。
なにより主人がGOサインを出しているのだ。ならば何も問題ないはずである。
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