第3話『城郭都市カムロス』
「なかなか興味深いものが見れたわね。あの子達は一体、どんな秘術を使ったのかしら」
木々の影に紛れながら、魔女アリッサは独り言のようにボツリと言う。
人間の限られた基礎
頭部を負傷して失神したと思っていた男冒険者が、数分後には平然と戦線に復帰し、挙句には果てには女冒険者まで担いでいる。
そんな目を疑う光景を目の前にし、つい何か特殊な再生能力でも持っているのか。はたまた実は彼らは『人間』ではなかったのかとアリッサとリリーはその場で話し合い、考察するも、明確な答えはついぞ出る事がなかった。
当初、アリッサは適度に手を貸し、義理を果たしたと感じたら、援護をやめるつもりであった。
アリッサは義理堅い性格であったが、同時に魔女の痕跡を探知されると面倒になるという事を知る慎重さも兼ね備えていた。
だが、途中からその考えを撤回する。彼らの手の内を知りたくなったのだ。どういう原理で彼らが驚異的な回復力、もしくは別のパワーを手にしているのかを解明したかったのだ。
「ご主人様、あの者達がもう出立するようです」
従者のリリーに言われ、アリッサは一時、思考を中止する。見るとつい先程、森を脱出した冒険者達がもう既に立ち上がり、移動を開始したようだ。
「…本当にタフな子達ね。そもそも人間なのかしら」
「見た目だけの判断ですが恐らくはそうかと…。もしかしたらこの地域特有の鍛錬法があるのかもしれません」
アリッサはふむ、と口元に手をやり、黙考する。アリッサはよくこういったポーズを取り、リリーもそれを普段ならば邪魔をしないように周りの警戒等に務めるのだが、今回は違った。
「ご主人様、お考えを遮り、申し訳ありません。あの者達はどうされますか?」
「ああ、放っておいていいわよ。恐らくあの方向に街があるのでしょう。私達はもう少し日が落ちてから、動きましょう」
「了解致しました」
アリッサは全身に黒い靄を纏っており、これをアリッサ本人は暗所に紛れる魔術と呼んでいる。
その名前と見た目通り、夜や無機物の影でこの魔術を使えば靄がアリッサやリリーを覆い隠して、暗い背景と同化させる効果がある。
ただし明るい場所ならば逆にその黒い靄が浮いてしまうだろう。更に強い光を浴びると靄がたちまちに霧散してしまうので、日光が直接あたる屋外などでは殆ど使用する機会がない。
上の位置にあった太陽は傾き、やや橙の色味が濃くなってきた。あと数時間もすれば日没となるだろう。
アリッサはこの場所に暫く留まる事を考えて、また魔術で黒い椅子を作り出して腰掛けた。
人間や獣等の身体と違って、魔女はその身体自体が
それ故に食事等、本来生物が生きる為に必要とする行為や、肉体的な疲れ、排泄等の生理的現象も一切、必要としない。
あるのは
なのでアリッサはずっと立っていても疲れを知らないのだが、主人が立ちっぱなしなのは居た堪れない気持ちになると強いリリーの希望があった為、それ以降、座る様にしている。本当は魔術で椅子を作る方が手間なのだが。
「…確認なんだけど、元・
「はい、申し訳ございません。私が人間をやっていたのは確か七〇年程前でしたが、個人であのような大規模な魔術を発動するのも、そして戦線を離脱した負傷兵が数分であのように迅速な動きをするのも、どちらも未知で御座います」
「そうねえ…」
アリッサは考え込む様に腕組みをする。
しかし、その表情には笑みも含まれており、それを見て答えは決まっているのだなとリリーは察する。
「街へ行く理由が増えたかもしれないわね、リリー」
「主の御心のままに」
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