第2-4話

「あ、ご主人様。あれを」


「ん、あら?」


「冒険者達が襲われていますね。あれは恐らくエイプ種でしょう」


 先の冒険者達が、緑と茶の斑模様の毛並みをした、子供の背丈程しかない猿の群れに襲われている。

 彼らは木の枝から枝に飛び移る猿達に手をこまねいているようであった。

 更に猿達が投げてくるこぶし大程の大きさがある木の実や石を、小盾や魔術で作り出した土壁で守る等して防戦を強いられているのが目に見えて分かった。



「随分、小さな猿ね。私が前に見たエイプはもっと大きかったわ。あれはその子供かしら?」


「魔物にも色々と種類がありますからね。エイプ種の中でもあれは力押しするタイプではなく、あのように集団で小賢しい戦法を取るタイプのようです」


「ふーん。あ、あのロープはなに?」


 そう言ってアリッサが指さす先には男冒険者がいる。彼は片手剣を既に納刀し、代わりに彼女が言うロープが右手に握られていた。


「ああ...。あれは恐らくスリング《投石器》でしょう。ここからでは遠いので見えませんが、あのロープの中央には受け皿となる革が接続されています。そしてその受け皿に石などの投擲物を入れて遠くへ飛ばす武器なのです」


「へぇ、あれで武器なの?なかなか面白いわね」


「はい。しかし本当にスリングが使えるとしたら、あの男は多才ですね。弓より扱いが難しい武器ですが」


「それは今からわかるわよ」


 アリッサはもはやすっかり観戦気分なのか、魔術で椅子を作り出し、腰を据えて楽しもうとしている。横に質問をすれば的確な解説を返してくれる解説者がいるのだから、これを楽しむ手はないという腹なのかもしれない。


 例の男冒険者はというと、女冒険者が魔術で作り出した自分の腰程の高さがあるトーテムから、ぼろぼろと連続で吐き出される石をキャッチすると、それを手際よくスリングに包み、頭上で振り回した。

 そして、タイミングを見計らってこれを放つ。だが。


「外したわね」


「まあやはりそう上手くはいきませんね」


 素早く動く猿達になかなか的を絞る事ができない。代わりに当たった枝が大きな音を立てて粉砕されるが、猿はそれを嘲笑うかのように手を叩いて冒険者達を挑発する。

 四度、五度と男冒険者は猿への投石を試みるも、いずれも空振りに終わってしまう。どうにも男冒険者の動きが悪く、かつ、女冒険者は土属性しか使えないのか、空中に対しての攻撃法が限られていると見える。

 小さく素早い猿達に彼らは決定的な有効打を見いだせずにいるようだ。


「うーん…。なんだか一方的過ぎて面白みがないわね。木の実や石ころ程度ではあの子達もやられる事はないでしょうけど」


「しかし当たり所が悪ければ、万が一もあるかと。それにあの女冒険者も魔素マナを酷使すれば、失神してしまうやもしれません」


「ああ…そうね。人間と魔女の違いを考慮してなかったわ」


 アリッサはふむと口に手をやり、一つの間を置いてからこう言った。



「まあ道案内の礼くらいは果たしましょう」

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