第2-3話

 そんな二人の冒険者を追うように、二つの小さな影がこっそりと遠くから忍び寄る。


 魔女アリッサ、そして従者の人形リリーであった。


 彼女らは集落跡で危機に追い込まれたように見えたものの、アリッサの発想と機転で難を逃れた。


 それは捕らえた鼠を全て解放して囮にする事。


 そして、土属性探索魔術サーチという特性を巧みに利用して、アリッサは魔術で家にあった煙突内に梯子を作り、地面と出来るだけ離れて退避したという事である。



 アリッサの狙いでは当初、それだけで彼らが去ってくれれば良かったのだが、意外にも彼らがしつこく、立ち去ってくれそうにもなかったので次の手を講じた。


 それはリリーを囮に使う事である。



 リリーは真人ヒューマン幽霊ゴーストである。

 その能力は自身が収納できる魂の器があれば、無機物だろうが死体だろうが憑り移る事ができるというものだ。


 更にポルターガイストという幽霊独自の力を用いて、軽いものなら宙に浮かすという芸当も朝飯前である。

 基本的に人形に憑依しているリリーは、この力で移動しているのであった。


 このリリーならでは囮というのが、鼠への憑依スキルである。


 クレイズが再度、探索魔術サーチを使用した際、窓の周辺に魔素の反応があると言ったが、あれは正しい。

 しかし、実際は鼠の反応ではなく、勿論、アリッサやリリーでもなく、正解はアリッサのデコイ魔術だ。


 深黒の魔素で出来た塊を床に置いておくだけで、簡単に探索魔術サーチを使用する魔術師は魔物がいると勘違いして釣れる。

 アリッサの長年の経験で得た生き延びる術だ。


 今回もその力を如何なく発揮し、クレイトンらが部屋に突入してきた際に囮を解除。


 予め、同じ位置で待ち伏せていた鼠の死骸に憑依していたリリーに彼らを襲わせ、鼠が魔物だと誤認識させたのである。



「…にしても、ご主人様。先程の作戦はうまくいきましたね」


「ええ。貴女が尊い犠牲となってくれたお陰で、あの子達に見つからなくて済んだわ」


 アリッサとリリーは世間話でもしているかの気軽さで、先程の戦果について語り合う。

 遠目に見える女冒険者が使う探索魔術だけが少し脅威に感じるが、冒険者達も魔素の消費を抑える為、中距離以内での発動に控えているらしい。アリッサは付かず離れずの距離を、影に紛れながら移動した。


「ご主人様の為を思えば、この一度死んだ身。再び鼠の身体で両断される事も厭いません」


「ふふ。貴女、本当は少し恨んでいるのかしら?」


 アリッサはリリーの畏まった物言いに可笑しくなり、つい笑みが零れてしまう。


「いえ、全く。シールドバッシュを受けた時には、私は既に気を失っていたものでしたので…」


「あれは痛そうだったわね。鈍い音がしたわ」


 アリッサは当時を思い出し、つい顔をゆがめる。音の質から察するに、間違いなく骨は折れていると分かったからだ。


「いえ、私がもっと早くに鼠の身体から離脱すれば良かったのですが、攻撃を受けてから脱したもので。不甲斐ないです」


「いや。咄嗟の状況で貴女は最良の結果を齎してくれたわ。ありがとう」


 リリーは主人にとんでもございませんと礼をする。そして顔を上げると、ふとある事に気が付いた。

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