第2話 二人の冒険者

 鬱蒼とした森を二人の冒険者が歩く。一人は革鎧を着た男の冒険者、クレイトンだ。


 彼は右手に持った片手剣で、進行方向の邪魔になる枝や葉を薙ぐように切り落としていく。


 一度、通った獣道なので既に通行出来る分の下刈りは済んでいる。

 だが、自分達が受けた依頼クエストの内容を鑑みるに先刻、依頼を終えて出立した集落跡は、これから人の往来が増える見込みがあるとクレイトンは予想していた。


 そしてその依頼とは『拠点新設に関わる事前準備。その索敵作業』であった。


 これが何かというと、つまりは彼らが先程まで滞在していた集落跡に新拠点を作ろうとする運びがあるらしいのだが、本当にそれが作るに適しているのかを知るために調査員の現地調査が必要となる。

 だが、その前に集落跡に敵性生物が住み着いている場合もある為、まずは索敵をしてきてくれという依頼だ。


 強力な敵性生物がいる場合は索敵から討伐へと依頼内容が段階が進み、また新たにギルドへ正式に依頼が発行される。


 安全が確認されれば、そのまま現地調査へと移り、調査結果如何によって、今度は資材の搬入及びその護衛等、新拠点設立へと着々と準備が進められていく次第だ。



 そこで今回、ギルドからの索敵依頼を受けたクレイトン達が先の集落跡を出立してから数十分。冒頭に戻る。



 二名ばかりの極少数行軍なので簡単に通れる道幅しか下刈りを行っていないが、調査員同行の大部隊となるとやや負荷を強いる事になるだろう。


 もしかしたらその大部隊に自分も含まれているかもしれないと考えたクレイトンは捕らぬ狸のなんとやら。少しばかり丁寧に枝葉を刈っていく。



 その後ろをクレイトンと顔が瓜二つな女の冒険者、クレイズが続く。彼女は後方からの襲撃を警戒して、定期的に探査魔術サーチを使用し、魔物からの奇襲に備えていた。


 魔素マナを消費する魔導士らしい索敵方法だが、効果範囲を必要最小限に留める事で余分な消費を節約している。


 それでも魔素マナを持たない獣、そして樹上や空中には効果を発揮しないというのが難点なのだが。



「…ねえ、暗くなっちゃうよー?もう少し早く進まない?」


「分かってるよ。だけどこうやって少しでも評価高い仕事すれば、次に繋がるかもしれないだろ」


「討伐ならまだしも草刈りぐらいじゃそんなに変わらないって…。今日の依頼クエストは索敵だけだからさー。早く報告して次の段階に進みたいと思ってるわけ」


「…分かったよ」


 夜間の怖さをよく知っているクレイズは魔物達が目を覚まさない内に森を抜けたいと考えていたのだ。往路に下刈りと索敵に時間を費やして、六時間以上掛かってしまった。復路はなるべく下刈りの手間と時間を省いて早く街に帰りたい。



 クレイズが恐れているのは悪神の眷属と呼ばれ、陽の光を嫌い、陰を好むとされている魔物達。特にゴブリンやアンデッド等の所謂、敵性生物と呼ばれる存在だ。


 奴らは基本的に日中は太陽の光が当たる所には滅多に出てこない。

 洞窟や森、あるいは廃棄された村等、陰のある場所で睡眠を取り、夜になると活発的になって善神の眷属である真人ヒューマン森人エルフ等を見境なく襲う、というのが一般的に広く伝わる言説である。


 その特性がある為に、夜間はいくら屈強な冒険者と言えども、街の外に出たりしない。

 防備に優れた柵や壁に囲まれた拠点の中で、夜を明かすのが一般的だ。


 そんな折に新拠点設立は人間の行動範囲を広くする、唯一無二の手段といっても良いだろう。

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