第25話 試練の洞窟
険しい山々が連なる魔界の奥地。
一際目立つ大きな山の中腹にベロニカが翼をはためかせて降り立った。
「はあはあ……。ここが『試練の洞窟』ってやつなの?」
僕たちの目の前には、綺麗な四角形に岩肌を切り取ったような形をした洞窟の入り口があった。
「うむ。古文書によれば、この洞窟の中に『魔神器』があるはずだ。それよりベロニカよ。疲労の方は大丈夫か?」
変身を解いてしゃがみ込んだベロニカの顔には疲れが見えている。
ちょっと休ませてあげるべきだよね。
「……ふぅ。ま、まあ、3人は結構堪えたけど、これくらいどうってことないわ!」
ベロニカはすっくと立ちあがると、赤い長髪をかき上げて胸を張った。
見るからに空元気っぽい感じがする。
負けん気の強い彼女の事だから、きっと弱音を吐きたくないんだろう。
本人が大丈夫だと言うなら、無理やり休ませるのは良くないかもなぁ。
「ならば、早速進むとしよう。もたもたしていると、この辺りを縄張りにしている魔族に襲われるかもしれぬからな」
「うっ、そうなのね……」
僕の言葉を聞いて、ベロニカは一瞬ショックを受けた様に固まってしまった。
「わ、分かったわ。急ぎましょう」
しかし、すぐさま気を取り直して、ベロニカはゆっくりと歩き出す。
やっぱり疲れてそうだなぁ。
一応は動けるみたいだけど、少し心配。
ひとまず危険を引き受けるためにも僕が先頭に立つ。
「うむ。では進むとしよう」
僕たち4人は慎重に洞窟へと足を踏み入れた。
◆
洞窟に入ってから、僕たちはかなり歩いた。
時計が無いから正確な時間は分からないけど、もう1時間くらいは経ったかもしれない。
困ったことに洞窟内の地図までは古文書に載っていなかった。
どうせなら武器のある場所も分かってれば楽だったんだけど、無いものねだりしてもしょうがない。
手探りで探索して、正解ルートっぽい道をなんとか見つけ出した。
その道はブロック状の石材で作られた廊下のようになっていた。
道幅も広く、真っすぐ続いていて分かれ道もなさそう。
この先に武器の保管庫があるに違いない。
しばらく歩いたところで、不意にソウマが沈黙を破った。
「随分進んだけど、洞窟に入ってから魔族の姿が見当たらないね」
「敵対する奴が出てこないのは助かるが、妙な感じはするよな」
ゼランが後ろを警戒しながら相槌を打った。
「『試練の洞窟』には武器を守るための守護者が配置されていると、古文書に記述があった。魔族が住み着いていないのは、守護者という防衛機構が働いているからなのかもしれぬな」
僕が今の状況から推測できることを説明すると、ベロニカが嫌そうな声を上げる。
「ってことは、武器を手に入れるには守護者を倒さないといけないの?」
「そうだ。だが、ワシら4人ならば苦戦することもあるまい」
「それはそうだけどぉ」
ベロニカは両手の人差し指を突き合わせて、いじけた様に呟いた。
3人乗せて飛んだ後に結構歩いたし、さすがに疲れがピークに達しているのかもしれない。
そろそろ休憩しておいた方がよさそう。
だけど、普通に休憩を提案してもさっきみたいに意地を張って休みたがらない気もする。
どう声をかけるべきかなぁ。
「疲れてるなら戦闘中は後ろで休んでてもいいぞ。ただの門番だろ?ベロニカが参加しなくても片付くさ」
僕が気を揉んでいる間に、横からゼランがフォローに入ってくれた。
あ、ありがたい。
「つ、疲れてないわよっ!守護者なんて、ワタクシ1人でも十分だから!」
でも、ベロニカは案の定ゼランの提案を突っぱねてしまった。
うーん。できれば休ませてあげたいんだけどなぁ。
「自信があるのはいいことだけど、あまり油断はしない方がいいんじゃないかな。強力な武器が眠ってる場所なんだし、守護者も強いかもしれないよ」
そこにソウマが休むべき理由を示してくれた。
おぉ、これならベロニカも受け入れやすいかも。
「……そ、それもそうね。あ、見てよ!出口じゃない?」
ベロニカは声を弾ませて前方を指差した。
「ちょうどいいから、この先で休みましょうよ!」
瞬く間に明るい表情へと様変わりしたベロニカを見て、ほっと胸をなでおろす。
よかった。自然な流れで休息を取れそう。
ベロニカにはいつも今みたいに素直な感じでいて欲しいかもなぁ。
駆け出した彼女を追って僕たちは廊下を抜ける。
すると、急に広い空間が現れた。
「なにここ。綺麗……」
ベロニカが感動したような声音で呟く。
目の前に広がるだだっ広い部屋の壁面は宝石のように光り輝いていた。
まるで万華鏡の中に放り込まれたみたい。
壁を埋め尽くす結晶が光を乱反射し、形容しがたい色彩を放っている。
現実離れした美しい光景に、僕もつい見入ってしまう。
「見たこともない結晶体だ。なんだか嫌な感じがするね」
壁の材質を観察しながら、ソウマは油断なく周囲を警戒している。
と、不意に壁を形成する結晶が強く輝き出した。
只ならぬ雰囲気を察知したゼランが素早く辺りを見回す。
「な、なんだ!?この光はっ……」
「オマエたち、気をつけるのだ!罠かもしれん!」
僕が注意を促したその瞬間、背後から一際強い光が差した。
壁一面から放たれた青白い光で僕たちの影が長く伸びる。
部屋の奥までまっすぐ伸びた影がぐにゃりと歪み、膨れ上がるようにして黒い物体が出現した。
「む!あれは……」
光が収まったところで目を凝らす。
影から出てきた謎の物体はグネグネと蠢き、瞬く間に人型へと形を変えた。
「なんだあいつら。俺たちと同じ姿をしてやがる!」
ゼランが身構えながら、叫んだ。
まるで影そのもののような暗い色をした4つの人影が、明るい室内にくっきりと浮かんでいる。
その姿は僕たち4人にそっくりだった。
「結晶体の光が作り出した幻影か。ボクたちの影から現れたってことは、ただの偽物じゃなさそうだね」
ソウマの分析を聞いて、僕は状況を理解した。
緊張感以外の理由で胸が高鳴る。
これはまさしく、自分たちのコピーと戦わなければならないという少年漫画的シチュエーション!
「な、なんというロマン展開……!アツいじゃないかっ!」
つい思ったことが口をついて出てしまった。
「あ」
「エ、エルガノフ?どうしたんだ急に……?」
まずいまずい。
ゼランにツッコミを入れられてしまった。
また兄貴たちの影響が出ちゃったじゃないかっ。
「ゴホンッ!いやはやっ、これは強敵だな!オマエたち、気を引き締めるのだ!」
こういうお約束なシーンを網羅したバトルものの作品を、兄貴たちと一緒にたくさん見てきたせいで、カッコいいもの好きが移っちゃったんだよね。
別に悪いことじゃないはずなんだけど、まさかこんなデメリットがあるなんて!
「あ、ああ!こいつらを雑魚とは考えない方がいいな」
今にも敵が動き出しそうだからか、ゼランは僕の違和感まみれの独り言をスルーしてくれた。
ゼランの常識人っぷりには助けられてばっかりだよ。
「ワタクシたち自身が相手なの!?て、手強そうね……」
ベロニカも息を整えつつ、戦闘態勢に入っている。
「能力まで模倣されてるかもしれない。全力を出した方がよさそうだね」
ソウマが宝石に魔力を集中させた。
「よし!オマエたち、ゆくぞ!」
僕の号令と共に、4人全員で幻影たちに向かって攻撃を開始した。
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