第24話 新たな力を求めて
《エルガノフ視点》
四天王会議中に魔王オスクリータが現れたのは予想外だったけど、ゼランのおかげで丸く収まり会議を再開することができた。
「そう急くな。まずはこれを見るのだ」
僕は秘策を教えるよう身を乗り出して来たベロニカを宥めながら、円卓の上に資料を広げた。
「なあに?この資料。これがなんだっていうの?」
「これは魔王城に保管されている蔵書の中にあった古文書だ。新しい戦闘技術を習得するため、資料を調べていた時に見つけた」
ソウマがざっとそれらの分厚い本を流し読みし始めた。
「ふうん。『魔族の力を引き出す武具』の存在を示す文書か。これはなかなか興味深いね」
「うむ。その武具は『
僕の説明を聞いて、ゼランが疑問を口にする。
「複数ってことは、俺たち全員分手に入るってことか?」
「武具の種類は色々あるみたいだね。古文書に書いてあるものだけでも、4種類以上はあるよ。誰かが持ち出したりしていなければ、数は足りるんじゃないかな」
僕が口を開くより早く、ソウマがゼランの問いに答えた。
さすが四天王随一の頭脳派だなぁ。説明の手間が省けて助かる。
すると、話を聞いていたベロニカが明るい声を上げた。
「いいじゃない。それならもう会議なんて切り上げて、早く取りに行きましょうよ!」
彼女の言葉に反対する者は誰もいなかった。
「よし。異論はないようだな。早速全員で洞窟へ向かうとしよう」
僕が代表して号令を発すると、みんな素直に従ってくれた。
こうして、予定通りパワーアップアイテムを取りに行くことが決まった。
◆
「ちょっと!どういうことなのよお!」
ところが、魔王城の正門から出てすぐに問題が起きてしまった。
ベロニカが膨れっ面で、文句を言って地団太を踏んでいる。
僕は彼女を説得するべく声をかけた。
「目的地は険しい山岳地帯のど真ん中なのだ。移動時間を短縮するにはこの手しかない。頼まれてくれないか」
「嫌に決まってるじゃない!なんでワタクシが、3人も乗せて飛ばなきゃならないのよ!」
今回の移動では、魔界の辺境まで行かなきゃならない。
しかも、行き先には転移魔法陣がないから簡単にワープすることはできなかった。
徒歩で行くのは現実的じゃないから、赤竜であるベロニカの背に乗るのが最善策なんだけど。
彼女にとっては、ただ自分の負担が増えるだけ。
まあ、不満が出るのは当然だよね。
どうしたものかと悩んでいると、ゼランが一歩前に出た。
「まあまあ。そう怒るなよ、ベロニカ」
「なによ、ゼラン!もう何回目だと思ってるの?勇者と戦うたびに乗り物扱いされてきたんだから、怒りもするわよ!」
ベロニカの言い分を聞いて、同情する。
僕が同じ立場でも、きっと似たようなことを言うだろうなぁ。
ゼランはベロニカに睨みつけられながらも、落ち着いた調子で説得の言葉を続けた。
「気持ちは分かるぜ?でも、これは俺たち四天王の中でもお前にしかできない仕事なんだ。勇者に勝つためにはお前の力が必要なんだよ」
「……!」
すると一瞬、照れたようにベロニカが顔を赤くした。
「ふんっ!そんな風に
ベロニカはハッと我に返って、畳み掛けるように言い切る。
そのまま、機嫌を損ねた小動物のようにプイっとそっぽを向いてしまった。
えっ。なんだろう、今の。妙に可愛らしい。
ベロニカは鋭い印象の美人なのに、一連の振る舞いからはなんだか幼さを感じてしまった。
いやいや、今は彼女の可愛さを気にしてる場合じゃないって。
と、ゼランが右手で頭をかきながら交渉を試みた。
「しょうがないな。それなら、俺が埋め合わせをしよう。帰ってきたら、何でも1つ言うことを聞いてやる。だから引き受けてくれないか?」
「へ?……ええっ!?」
ゼランの思い切った提案に、ベロニカは眼を見張って驚きの声を上げた。
「ひょえええぇぇ!」
と思ったら、隣から素っ頓狂な声が聞こえてきた。
何事かと思って声のした方を見る。
すると、そこには口を両手で押さえて小刻みに震えているソウマの姿があった。
「ん?ソウマ。どうしたんだ、変な声出して」
ゼランが僕の思ったことを全て代弁してくれた。
すると、ソウマは両手をバタバタと左右に振って
「あっ!ごほっ、ごほん!いやっ、なんでもないよ!キミが何でも言うことを聞くとかいう特大イベント……、じゃない。条件を提示するとは思わなかったから驚いただけさ」
「そうか?なんでもないならいいんだが……」
ゼランは首を捻っていたが、すぐに納得したようだった。
いや。今のそんなにアッサリ流しちゃっていいの?
一方、ソウマはヘラヘラと笑いながらも興奮気味に眼をぎらつかせている。
彼の視線はゼランとベロニカの方に向いているみたい。
うーん。ソウマってこんな感じのキャラだったっけ?
でも、なぜかゼランは平然としてる。
もしかして、僕が知らなかっただけで特に珍しい光景じゃないのかな?
そんなことを思っていると、ボソッとベロニカが呟いた。
「……今、何でもって言ったわよね」
ベロニカはさっきまでとは打って変わって控えめな態度になっていた。
じっとゼランを上目遣いで見ている。
「お?そうだな。確かに言ったぞ」
ゼランは普段通りになにげなく返答した。
「――っ!」
すると、ベロニカの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「な、何でもって急にそんなこと言われても……。ちょ、ちょっと待って!少し考えるからっ」
彼女はもじもじと恥じらいながら、背を向けてしまった。
え。なにその反応。
まるで思春期の少女みたいな仕草。
「何でも」という言葉を妙に気にしてるみたいだけど。
ベロニカは一体ゼランになにをさせるつもりなのだろう。
「ぐふっ!」
また隣でソウマが奇声を上げた。
鼻頭を押さえるようにして、顔を伏せ悶絶している。
「ソウマよ。さっきからどうしたのだ。具合でも悪いのか?」
あまりの挙動不審さに、今度は僕もソウマに質問してしまった。
いくらなんでも、様子がおかしすぎるよね。
「えっ?だっ、だいじょうぶさ!ベロニカがどんな要求をするか聞かずに失神するわけにはいかないからね!」
「失神!?そんなに体調がすぐれないのか?必要なら医務室で休息を取った方が良いのでは……」
想像だにしていなかった回答に、ついつい不調を疑ってしまった。
「あっ、いやいや!ものの例えだよエルガノフ!ボクはいたって正常だよ!」
ソウマは飛び上がって、柄にもなく大きな声を出した。
「そ、そうか。問題ないならいい……」
彼の気迫に押されて、僕は引き下がるしかなかった。
そうこうしている横で、沈黙していたベロニカが意を決したように振り返る。
「……分かったわ!アナタの条件、飲んであげる!」
「本当か!で、俺はなにをすればいいんだ?」
間髪入れずに問い返したゼランを前に、ベロニカはそわそわしながら答えた。
「そ、それはっ。か、帰って来てから言うから。じゃあ、もう準備するわよ!」
「そうか。ありがとな。移動は任せたぜ」
変身の準備を始めたベロニカを見てホッとしながらも、僕の脳内には疑問符が浮かんでいた。
ソウマが変なのは明らかだったけど、なんかベロニカもゲームの性格と食い違う所が多い気がする。
年頃の女の子みたいな素振りというのかな。
勝ち気なベロニカらしくない。
それに、あれだけ感情が暴走している2人の様子を見てもゼランはほとんど気に留めなかった。
彼の冷静さも、一周回って奇妙な感じがする。
仲間の振る舞いに違和感はあるけど、今のところ深刻な問題は起きてない。
きっと僕の気のせいなんだろう。たぶん。
一抹の不安が残る中、僕たちはベロニカの背に乗り、目的の洞窟へ向かって飛び立った。
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