第26話 魔神器の守護者
《ゼラン視点》
輝く結晶でできた大きな部屋。
そこで俺たちは自分の影から出てきた偽物と
「よし!オマエたち、ゆくぞ!」
エルガノフが号令を発しながら、力強く大地を蹴った。
彼は背負っていた身の丈ほどもある槍を構えながら突進。
エルガノフの全身から雷光が迸った。
「『
稲妻を纏った槍撃が、エルガノフの偽物を襲う。
しかし、偽物もエルガノフと同じ武器を取り出した。
両者の槍が激しくぶつかり、エルガノフの渾身の攻撃は軌道を逸らされた。
2本の槍が地面に突き刺さり、稲光が弾ける。
あの偽物、やはり本物と遜色ない力を持っているのか。
もし同じスキルも使えるのだとしたら、エルガノフのコピーはとても危険だ。
エルガノフの得意技は周囲を無差別に巻き込む範囲攻撃。
遮蔽物のない部屋の中でそんなスキルを使われたら、俺たち全員一網打尽にされてしまう。
だからエルガノフは自分のコピーを速攻で倒そうとしているのだろう。
敵陣に突っ込んだエルガノフが集中攻撃を受けるとまずい。
俺にできるサポートは自分の影をさっさと始末することだ。
「『
俺は攻撃の準備を始めながら、俺の偽物に向かって前進する。
こちらの動きを見て、真っ黒な俺のコピーも同様に氷の籠手を生成した。
俺は必殺技で、偽物に先制攻撃を仕掛ける。
「『
が、相手も俺と全く同じ動きで右拳を振り抜いた。
「『
真正面から拳が衝突。威力は互角だ。
どれだけ拳に力を込めても、ビクともしない。
やっぱり同じスキルを使えるのか。
しかも、攻撃力や反応速度まで同じだ。
本当に俺の力が完全に写し取られている。厄介だな。
周囲に視線を走らせると、ベロニカたちも同じように自分の偽物と戦っていた。
「このっ!なんで真似するのよぉ!」
「くうっ!まるで鏡を相手にしているみたいだね……」
ベロニカとソウマも各々、自身の戦い方を模倣されていた。
自分と同じ能力の敵が相手とあって、かなり戦いづらそうだ。
一進一退の攻防を繰り広げている。
「一対一でやり合うのはまずいな」
実力が同じなら、対等な条件で戦っても打ち破るのは難しいだろう。
味方と連携するなりしてダメージを与え、動きを鈍らせる必要がある。
俺は拳を引っ込めて、一旦後ろに退いた。
「『
距離を詰めようとして来るモノマネ野郎の鼻先に両腕を叩き落す。
相手は冷静に飛び退いてそれを躱した。
よし!これで仕切り直しだ。
と、部屋の奥から強力な魔力が発せられた。
げっ!
これってまさか……。
嫌な予感がして、エルガノフの方に顔を向ける。
「むうっ!止められんかっ!オマエたち、防御態勢を取るのだ!」
エルガノフが後退しながら叫んだ。
見ると、エルガノフの偽物が槍を持った両手を頭上へと掲げている。
ヤバイ。
コピーたちの力は本物と同じ。
つまり、これから使われるのは四天王最強キャラの必殺技ってことだ。
そして今、エルガノフのコピーが全身に纏ったオーラを一気に解放した。
「『
俺は両腕を盾にしながら、部屋の壁際に向かって飛び退く。
黒い閃光が偽エルガノフを中心に放出され、まるで
雷撃の奔流はみるみる膨張し、床を穿ちながら恐ろしい速度で室内の空間を飲み込んでいく。
黒く輝く稲妻の壁が容赦なく眼前に押し寄せてきた。
避けられる隙間など一切ない。
俺は固く目を瞑った。
「ぐわあっ!」
全身を高圧電流が駆け巡ったかのような衝撃が貫き、思わず声が漏れる。
身体が宙に浮き、俺は背中から壁に叩きつけられた。
「がはっ!」
肺の空気が一気に押し出される。
重力に従って俺はうつ伏せに倒れ込んだ。
ゆっくりと呼吸を整えながら、俺は身体を動かそうとする。
全力で距離を取ったおかげか、直ちに致命傷となるほどのダメージは受けていない。
だが、身体が痺れてすぐには立ち上がれそうになかった。
なんとか上半身を起こして顔を上げる。
辺りを見回すと、あちらこちらから白い煙が立ち上っていた。
ベロニカたちはもちろん、偽物たちも倒れ伏している。
そんな中で、一人だけが立っていた。
エルガノフだ。
一番近くで雷霆葬を喰らって立っていられるとは、さすが四天王最強の名は伊達じゃない。
「ワシの技を自分が受けることになろうとは……。だが、もう使わせん!」
雷霆葬の使用直後で隙だらけになった偽エルガノフの頭上に槍が振り下ろされる。
「『
振り下ろしから、即座に切り上げ、さらに体を回転させて横薙ぎの3連撃が繰り出された。
「『
4連撃目の鋭い刺突が偽物の胴体を貫くと、その身体はあっという間に崩れ落ちて消え去った。
「くっ!」
エルガノフは敵が消滅したことを確認すると、片膝をついてしゃがみ込んだ。
いくらエルガノフでもさっきの攻撃をまともに受けて無事なわけがなかったか。
「だが、今がチャンスだっ!」
俺は拳を握りしめて、全身に力を込める。
フラフラと立ち上がり、壁にもたれかかって状況を確認した。
一番近くに倒れているのは俺の偽物。
まだ消滅はしていないが、かなり深手を負っているようだ。
俺は足踏みを繰り返して身体の感覚を確かめる。
痺れがようやく取れてきた。
しかし、倒れていた黒い影も起き上がろうとしている。
「今のうちに、やる!」
俺は壁から手を離して駆け出した。
「『
その時、ある記憶がフラッシュバックした。
逃げようとするメイジーの姿が脳裏をよぎる。
敵を殺す事への抵抗感が、またしても俺の心にのしかかった。
落ち着け。今倒そうとしているのはオレ自身の偽物。ただの幻影だ。
俺は止めを刺すつもりで、まだ立ち上がれていないモノマネ野郎に飛び掛かる。
半ば倒れ込みながら、偽物の頭に両の拳を喰らわせた。
体重を乗せた一撃により頭部が砕け、黒い影は散り散りになって霧散した。
しかし、両手には生々しい感触が残っていた。
なんだこれ。気分が悪い。
本物の生物ではないはずなのに、命を絶った感覚が確かに手にこびり付いている。
相手は幻影だというのに、俺の頭にはある考えが去来した。
こんなこと、これ以上やりたくない。
だが、今は後ろ向きな思考に囚われている場合じゃなかった。
「あ、後はベロニカたちの偽物だけか」
「いいえ、違うわ」
ベロニカの声が聞こえて、俺はすぐさま声のした方を見た。
「こっちも今終わったところよ」
ベロニカは右手の燃え盛る爪で偽物の胸部を貫いていた。
偽ベロニカの身体はそのまま崩れて、塵へと還っていく。
それを見届けたベロニカは憔悴しきった様子で、その場にへたり込んでしまった。
「……はぁ、きっついわね」
「確かに。予想外の展開ではあったね」
近くでソウマの声がした。反射的に彼の姿を探す。
みると、ソウマは座り込んだ状態で右腕の刃を元の形に戻しているところだった。
彼の後ろには胴体を両断された偽ソウマが倒れている。
その体が今まさに砕け散り、偽物たちは全滅した。
「か、勝てたのか」
俺は地面に腰を落として、溜息をついた。
「ほとんど相手の自滅だったけどね……」
ソウマは息を整えながらそう語る。
気丈に振舞おうとしているようだが、彼の表情には覇気が見られない。
「ビックリしたわよ。まさか味方を巻き込む技を使ってくるだなんて……。エルガノフが指示してくれなかったら、ワタクシたちも危なかったわ」
ベロニカが胸に手を当てながら呟く。
彼女も顔色が悪い。
俺の負傷はさほど酷くなかったが、2人はダメージが大きかったのだろうか?
かなり辛そうにしている。
そこではたと思いだす。
「そうだ。エルガノフは大丈夫なのか?」
俺は部屋の奥に視線を滑らせた。
エルガノフは屈んだまま肩で息をしている。
ほぼゼロ距離で雷霆葬を受けたのだ。
かなりの痛手を負っているのは間違いない。
「……すぐに手当てしよう」
そう言って、ソウマが懐から1枚の布を取り出して床に広げた。
魔法陣が描かれたその布に、ソウマが魔力を注ぎ込む。
すると、魔法陣が輝き、薬の入った小瓶が現れた。
転移魔法陣を応用した収納魔法だ。
あらかじめ、道具を魔法陣で安全な空間に保管しておくことで、いつでも取り出すことができる。
これもゲームにはなかった魔法だから、実際に使っている所を見るのは初めてだった。便利なものだな。しかし、感心するのは後でいい。
急いで回復薬をエルガノフに飲ませる。
エルガノフを横に寝かせた後、俺たちも薬を使って体力を回復させた。
◆
しばらくその場で休息を取っていると、エルガノフが声を出した。
「うむ、そろそろ動けそうだ。感謝する」
横になっていたエルガノフが身体を起こして俺たちに頭を下げる。
「こっちこそ、ありがとな。エルガノフの的確な指揮のおかげで俺たちは軽傷ですんだんだ」
俺は3人を代表して感謝を伝え、エルガノフに右手を差し出した。
「礼には及ばない。当然のことをしただけにすぎぬ」
エルガノフは俺の手を取って立ち上がる。
「とにかく、治ったみたいで良かったわ」
ベロニカが安心したような表情で呟いた。
「みんな無事で守護者も倒せたし、後は『魔神器』を手に入れるだけだね」
ソウマはそう言って、部屋の奥に目をやった。
「うむ、そうだな。では行くとしよう」
そう言って歩き出したエルガノフに従い、俺たちは洞窟の先へと歩を進めた。
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