第17話 勇者の機転
《ゼラン視点》
ベロニカの追撃をきっかけにして、俺たちはアスレイと交戦状態に入った。
「食らいやがれ!」
「覚悟なさい!」
俺とベロニカは今まで幾度となく一緒に訓練をしてきた。
お互いの動きは把握済みだ。
息を合わせて、交互に小技を繰り出す。
「考えたな。2人で俺を足止めするつもりか」
こちらの作戦はもうバレたようだが、関係ない。
アスレイの動きを封じるように、隙のない立ち回りを心がける。
大丈夫だ。アスレイは防戦一方。
攻撃の合間に、ソウマの方をチラリと確認する。
アスレイの後方へと下がったメイジーとクライブに魔法攻撃を仕掛けている。
手筈通りだ。
この調子でソウマが後衛の2人を倒すまで時間を稼ぐ。
「どうしたアスレイ!こんなもんか!?」
俺はベロニカと入れ替わるように前へと躍り出る。
ベロニカの攻撃を弾いて態勢の崩れたアスレイに向かって、拳を繰り出す。
その時だった。
俺たちの連撃を確実に捌いていたアスレイが、唐突にバックステップで飛び退いた。
「『
アスレイは視線だけを後ろに向けて、背後へと魔法を放った。
「なに?」
俺がその意図を理解した時にはすでに、魔法はターゲットに着弾していた。
アスレイが放った雷撃は狙いすましてソウマの右腕を撃ち抜いたのだ。
その時ソウマは、クライブの真後ろにいた。
おそらく、急接近して得意技の不意打ちを仕掛けたのだろう。
だが、それをアスレイは的確に妨害した。
なんて視野だ。
俺たちと戦いながら、ソウマの動きまで把握していたのか!?
「メイジー!頼む!」
「は、はいっ!『
アスレイとクライブの間に陣取っていたメイジーが、両手に持った杖を掲げた。
瞬間、杖の先端から眩い光が迸る。
「これはっ、目潰しか!」
「眩しっ!なにも見えないじゃない!」
強烈な光で視界が真っ白に塗りつぶされてしまう。
腕で光を遮り、すぐに目を瞑る。
だが、そのせいでアスレイを見失った。
これはマズイ。
奴はどう動く?
今、攻撃されたら対応できない。
だがこの光の中では、アスレイもそこまで自由には動けないはず。
そう思いながら、身構えていると遠くで呻き声が聞こえた。
「うげっ!?」
この声はソウマだ。
光が収まるのを待ってから、俺はすぐさま声がした方を見た。
さっきまで目の前にいたはずのアスレイが、ソウマの間近にいた。
アスレイは手にした剣を振り抜いた格好になっている。
そして、ソウマの胴体は真一文字に大きく裂けていた。
「ソウマ!」
なんてことだ、一体どうやって!?
だが、その理由はすぐに分かった。
「……バカな!アスレイのやつ、目を閉じてやがるっ!」
まさか、さっき魔法でソウマを攻撃した時の距離感覚だけを頼りに移動したってことかよ!?
なんてやつだ!
俺は即座に駆け出そうとするが、目に入った光のせいか視界がチカチカしている。
目は見えるものの、バランスが上手く取れず、走り出せない。
くそっ、早く助けに入らないとソウマがやられちまう!
ソウマは傷を両手で押さえながらその場に倒れ込んだ。
アスレイは剣を構えたままゆっくりと目を開ける。
だが、アスレイはソウマに追撃はせず、クライブの方に顔を向けた。
「油断するなと言ったはずだが?」
「す、すまない。アスレイ……。まさか、暗殺系のスキル持ちだとは思いもしなかったんだ」
「言い訳は聞きたくないな」
クライブに向かって冷たく言い放つアスレイ。
ビクッと身震いしたクライブに、そのまま指示を飛ばす。
「君は向こうの2人。いや、赤髪の女の方を釘付けにしておいてくれ。こっちは俺がやる」
「あ、ああ……。分かった」
クライブは気を取り直してこちらを向くと、杖を構えて魔力を集中させ始めた。
「はああぁっ!」
クライブは凄まじい魔力を放ちながら、術式を構築していく。
勇者が仲間にできるメンツの中でも魔法攻撃においてはクライブの右に出るものはいない。
完成した魔法をもろに食らったらひとたまりもないだろう。
と、ここでようやく平衡感覚が戻って来た。やっとか。
「もお!眩しくて目がつぶれたかと思ったじゃない!」
ベロニカは涙目で瞬きしながら、状況を確認しようとしている。
回復したのは彼女も同じだったようだ。
しかし、クライブはすでに攻撃態勢に入っていた。
狙いはベロニカだ。
「ベロニカ。あの魔法使いがお前を狙ってる。悪いがあいつは任せたぞ!」
「ええっ!?ちょっと待ってよぉ!」
俺が魔法の射線から逃れるように駆け出すと同時。
「食らうがいい!『
クライブが杖を振るうと、壮麗な蒼い魔力の奔流が極太のレーザーのように発射された。
ベロニカはへっぴり腰のまま、両手を前に突き出す。
「ひいぃ!」
すると、みるみるうちに彼女の全身から灼熱のオーラが噴き出した。
生み出された劫火が渦を為し、両腕を介して一極集中する。
「間に合って!『
ベロニカの主力スキルだ。
ほんの数瞬の溜めで、強力な破壊光線が彼女の両腕から放出された。
怯えながら撃ったとは思えない威力で、紅蓮の熱線が大地を焦がし突き進む。
ベロニカの主砲がクライブの極大魔法と正面からぶつかり、激しく火花を散らす。
とっさの迎撃だったからか、やや押され気味だ。
それでもクライブが全力で放った魔法をなんとか食い止めている。
ベロニカの頼もしい応戦を横目に、俺はソウマの下へと急ぐ。
全速力で駆けながら、両腕に魔力を込める。
「『
正面を見ると、アスレイがソウマに止めを刺そうと剣を振り上げている。
「待ちやがれ!『
俺の接近に気づいたアスレイはすぐさま左腕の盾を構えた。
すると、アスレイの魔力に呼応して盾に埋め込まれた宝石が輝いた。
俺の拳が盾に触れた瞬間、宝石から光の波動が発生。
げっ、忘れてた。
「『
空間を伝わる衝撃波が俺の身体に直撃する。
「うおっ!?」
伝説の盾が持つ固有スキルだ。
近接攻撃に反応する万能カウンター。
ノックバック効果のおかげで戦況を変える力を発揮する。
「くっ、やるな!」
大きく空中に弾き飛ばされたが、身体を捻ってなんとか着地。
威力はさほどでもないが、やはり侮れない性能してやがる。
「君が単純な奴で良かったよ」
着地の隙を狙ってアスレイが斬りかかって来る。
「くそっ!」
一太刀目はなんとか避けたが、アスレイはそこから流れるように剣を振るう。
襲い来る斬撃を俺は全神経を集中して、弾き返す。
「君たちの戦力は散り散りになった。あとは、1人ずつ斬るだけでいい」
アスレイの言う通りだ。
ベロニカは足止めされ、ソウマは深手を負っている。
ここで俺がやられたら、挽回は絶望的になるだろう。
「やられてたまるかよ!『
アスレイが息を入れるタイミングを狙って、俺は右拳を振りかぶる。
「単調だな。『
俺は振り上げた拳を使わず、アスレイが構えた盾の側面を右足で蹴り飛ばした。
「同じ手は食わねーよ!こいつならどうだっ!」
蹴りの勢いのまま右足で力強く地面を踏みしめる。
突き立てた右足を軸に体を回転させ、左足で後ろ回し蹴りを繰り出す。
態勢を崩したアスレイの左脇腹はガラ空きだ。
「『
メイジーの防御魔法が展開され、寸前で俺の攻撃が防がれてしまう。
そうだ。後ろにはまだメイジーがいるんだった。
「ちぃっ!めんどくせえ!」
「ふぅっ、確かに腕は上げているようだ」
すぐさま態勢を立て直したアスレイは警戒するようにこちらを睨みつけた。
正直、俺の戦闘力でできることはすでにやりつくしている。
それでも、ここで戦意を失うわけにはいかない。
歯を食いしばって、俺はアスレイを睨み返す。
「まだ諦めないか。なら、出し惜しみはもうやめよう」
アスレイは両手で剣を強く握りしめた。
すると、みるみるアスレイの魔力が高まっていく。
構えた長剣が紫色の雷光を纏った。
マジかよ。あいつ、『
俺の力でアスレイの必殺技を凌げるのか?
いや、弱気になるな!
なんとかするしかない!
冷汗をかきながら、覚悟を決めて拳を握りしめた。
次の瞬間。
「ぐっ!?」
不意に、勇者の左肩を鋭利な槍のようなものが貫いた。
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