第18話 昴、参上!

     昴、参上!


「じゃ~ん! 昴、参上!」

 5月5日――。GWの最終日だけれど、朝からそういって、ボクのベッドの上で仁王立ちする。

 長姉の昴――。

「餅つきをするぞ!」

「え? 今年もするの?」

「当たり前じゃないか。〝団子の節句〟だろ!」

「端午だよ……。今年はしないのかと思った……」

 端午の節句は柏餅――。でも、この辺りで子供のいる家庭が他になく、うちしかそのイベントをしない。

 そして前から我が家に集まって、子供たちだけで餅つきをするのが決まりとなっていた。

 ただいつも言い出しっぺとなる昴が高校生になり、忙しいこともあって、もうやらないと思っていたのに……。


「昴ちゃん、久しぶり~」

 子供たちが続々とうちに集まってくる。春休みまではふつうに遊んでいたので、昴とは一ヶ月ぶりである。ただ、神乙女は午前は店番をする、というので少し遅れるらしい。

 ブルーシートを敷いて、そこに臼をだし、うちの炊飯器と土鍋をフル活用してもち米を炊く。お正月は各家庭の炊飯器をもちよって、お正月のお餅づくりをするので大騒ぎになるけれど、端午の節句は柏餅をつくるだけなので、うちだけで十分なのだ。

「じゃあ、私から……」

 そういって、昴が腕まくりして杵をもつ。もち米を最初にこね、つぶしてから餅を搗く。子供たちでもつかえるよう杵は軽く、その中で重いものを年長組が扱い、それでこねる。

 残りの小学生たちは、子供用の杵で形だけお餅を搗く。重さが足りないので、こればかりは仕方ない。

「私もやる!」

 マロンも中学生になって、重い杵をにぎった。まだ重さで少しふらつくし、数をこなせないけれど、正月のお餅つきでは戦力になりそうだ。

「私もやってみようかな……」

 と、メイプルも杵をもって振り上げるけれど、バランスを崩して倒れそうになる。胸に別の重りがついているから……。餅以上にぷるんぷるんの。


 搗いた餅に、あんこを入れて柏の葉で包む。余ったお餅は今日のお昼と、お裾分けで各家庭に配る分もある。

「毎年恒例、チャレンジ餅のコーナーッ‼」

 昴がそういいだした。きなこ、納豆、みたらし、などの定番の他に、それぞれが案をもちよって、変わった餅を試す、というのが恒例だ。

「今年採用するのは、メイプルが提案した生クリーム、アイス、あんこをつかった白玉ぜんざい風餅。それと奎が提案した、アヒージョ餅ぃッ!」

「やったーッ! やっと採用されたよ」

 メイプルは大喜びだ。これまでも提案があったが、ありきたり、として不採用がつづいた。しかも食事ではなく、デザートになってしまい。甘みと合わせることの多いお餅では食べ厭きてしまう。奎のそれと合わせることで、初めて成立する、との判断のようだ。

 奎のアヒージョは、やってみるとあられができた。軽く油につけて、それに塩をまぶして食べると、まさに揚げたてのあられ。餅だけだと単調になりがちだけど、その熱せられた油にお肉や野菜をしゃぶしゃぶし、おかずもとれるので食もすすむようになった。

 そして最後に、白玉ぜんざい風のお餅でシメだ。団子と違ってお餅なので、硬くて伸びるのが不思議だけれど、みんな満足して恒例の餅つき大会を終えた。


「まったく、昴ちゃんには敵わないよ。今日は絶対、餅つきをするんだってみんなを集めたんだ」

 向日葵がそういった。

「そんな餅つきをしたかったのかな……?」

「ちがうよ。この村で翼しか男がいない。昴ちゃんがやるっていわないと誰もしないだろ? 男の子の祝日だから、どうしても祝いたかったんだよ」

 ボクのため……? 

 昴はいつも突飛で、ボクたちを巻きこんで様々なイベントを発生させるが、それがボクのためだったなんて……。

 ボクが一人でいるところに、昴が近づいてきた。

「それで、翼は誰がいいんだ?」

「……え?」

「向日葵が毎朝、起こしに来てくれるだろ? 絶対、エッチな感じで起こしてくれるじゃん? 神乙女とメイプルは、もうフェロモンむんむんだし、マロンも最近、女っぽくなってきた。まさか……小学生の菫や津紅実、ポロニアか? それとも保育園児の伊洲香⁉」

「何の話だよ……」

「お嫁さんの話さ。女の子にかこまれ、むしろ男の肩身がせまいだろ? どうせだったら、ハーレムでもつくったらどうだ?」

 昴は真剣な表情でそういってくる。ボクは少し唖然としたけれど、くすっと笑う。

「ハーレムどころか、毎日が大変だよ」

「……そうか。翼がそれでいいなら、お姉ちゃんは何も言わないよ」

 そういって、昴は耳に口を寄せてくる。

「何なら、お姉ちゃんもそのハーレムに入ってやろうか?」

「え、遠慮しておくよ」

 奎もお兄ちゃん子だけれど、昴も若干シスコンの気がある。共学の高校で、少しは治まる……と思っていたけれど、悪化した?

 ボクに抱き着いて、よしよしとばかりに頭を撫でる昴は、まだまだ弟離れできないお姉ちゃんでもあった。






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