第17話 お宅訪問

     お宅訪問


 GWのキャンプ――。ボクは疲れて翌日は爆睡していたのだが、母親に叩き起こされた。

「皆さんの家に、山菜料理をとどけて」

 ボクたちがキャンプに行っている間、珍しくボクの家に民泊があった。それはこの村で田舎体験する、というものだったらしい。山菜とりなどを愉しみ、それを調理して提供した。その残り、ということだ。

 ボクは自転車にまたがる。ボクがとどけるのは子供がいる家だけ。最初はボクの家から近い、草薙家だ。

 古民家――。茅葺はもう直してあるけれど、屋根が高くて急なところは昔と変わりない。

「どうしたの? 翼君」

 応対にでてきたのは菫だ。事情を話してタッパーを渡す。菫はこっそりとキスしようと近づいてきたが、ボクの背後から「よう、翼!」と声がして、慌てて離れた。

 ふり返ると、走ってきたらしい向日葵が汗だくで帰ってきたところである。

「何もないけど、上がっていけよ」と、向日葵は自分から先にたって家に上がる。


 今も土間キッチン、といってもコンクリにしてあるけれど、そこにダイニングテーブルが置かれる。住居は田の字型の畳部屋があって、その一つには囲炉裏も備え付けられる。

 土間キッチンから裏にでると、屋根は一続きであるけれど、離れのトイレとお風呂がある。

 天空家もそうだけれど、草薙家も井戸をつかい、水がおいしい。出てくるのは基本的に、お水だ。

 向日葵は畳部屋にあぐらをかいてすわり、冷蔵庫からとりだしたペットボトル入りの水を飲む。コップで飲むとよくこぼすので、自分の家ではペットボトルで飲むようになったそうだ。

 しかしランニングをしてきたショートパンツであぐらをかくので、隙間からチラ見えするけれど、気にする風もない。どうせ見せショーツ……と考えているだろうし、ボクなら気にならないようだ。

「休みでも走るんだ?」

「総体にでるんだ。練習は欠かせないよ」

 ボクはどうして向日葵が部活をはじめたのか? 未だにその理由を知らない。


 次に、少し離れた木之元家にきた。もう建ててから十年近くになるけれど、この村では珍しい最新の設備をととのえた家だ。

 メイプルが応対にでてきた。昨日、下着をみてしまったけれど、気にしている風もない。それはそれで有難いけれど、やっぱり男とみとめられていない気もする。

「今日は両親がいないの。上がっていく?」

「いや、いいよ」

 遠慮したのは、何となくマロンと顔を合わせたくなかったからでもあって。胸を直にみてしまっているだけに、直接顔を合わせると嫌でも思い出してしまう。それに、両親がいないから上がって……というのは、どうもその後の展開すら意識してしまうのだ。

 最後は鳥山家。どうやら、鳥山家の両親がGWに山菜とりをする、というのは我が家の民泊と連動していたようだ。田舎体験の山菜とりは、鳥山家のそこに行ったはずだから。

 対応には神乙女がでてきた。

「へぇ~。おばさんの調理なんだ。うちでは山菜もお浸し、煮びたしが中心だから、ちょっと変わった料理をしてくれると、うちのお母さんも参考にしてくれるかもしれないから、助かるよ」

 神乙女はそういって「上がっていく?」と訊ねてくる。祖母も「上がっていきな。後でお土産もあるから」と応じたので、ボクも待つことにした。多分、駄菓子をくれると思ったからだ。


 鳥山家は、二階が基本的な暮らしの場で、キッチン、リビングなども上にある。一階はお店と、祖母の部屋や水回りなどがある。ボクがリビングで待っていると、階段をバタバタと上がってくる音がした。

「お姉ちゃん! お風呂場にカマドウマ!」

 全裸で、津紅実がリビングに飛びこんできたのだ。そこにボクをみつけ「きゃ~~~~ッ!」と、また階段を駆け下りていった。

「ごめん、ごめん。バタバタしちゃって……」

「いいけど、カマドウマならボクの出番か……」

 神乙女がもじもじするのは、苦手だからだ。カエルにはトラウマがあり、見るのも嫌だけれど、虫ならある程度、神乙女も何とかできる。それはお姉さんとして、しっかりしなければ……ということがあるから。でも、特定の虫はやっぱり苦手だ。

 ボクが「入るよ~」と声をかけると、津紅実がバスタオルを体に巻いてでてきた。中に入ると、そこにはまだ保育園に通う伊洲香もいて、全裸のまま脱衣所に立っている。どうやら、二人で水浴びをしようとしていたようだ。

「お風呂に閉じこめているから!」

 ボクがドアを開けると、触覚と足の長い、コオロギのような虫がいた。じめじめしたところが好きで、よくお風呂場にも入りこむ。うちにもよく表れるので、もう慣れっこだ。手でつかまえて窓から外に逃がす。

「翼君、サンキュー!」

 津紅実はそういって、ボクに抱き着いてくる。キャンプのとき、トイレに付き添ったことで、少しは男としての株が上がったらしい。ただ、裸の伊洲香も抱き着いてきたので、ボクはカマドウマではないが、しっとりとしてしまった。







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