第16話 キャンプ? 4

     キャンプ? 4


 ボクは狭いトイレの中で、神乙女と二人きり、外にいるイノシシ親子の動向に気を配っている。

 親子連れのクマやイノシシは危ない。これは村の鉄則である。戦える力をもった動物が子を守ろうとするからで、多くが狂暴化する。

 親イノシシが、山小屋のドアを牙でがりがりと削りだした。カレーをしたり、シャンプーなどをつかったりして変わった匂いがするために、イノシシがここに集まってきたようだ。

「誰かがあの音で起きて、騒ぎだしたらイノシシが興奮して、危ないかもしれない」

「どうしよう……」

 神乙女も心配そうだ。子供たちだけのキャンプに拘り、父親が猟銃をもってついていく、というのに頑強に抵抗した。

 鳥山家の父親は山仕事をする関係上、猟友会にも入って、野生動物が増え過ぎると狩猟をして数を減らす、ということもしている。

 この山は山菜なども育てているため、特に気をつけてイノシシやシカを遠ざけているはずで、恐らく隣の山から移動してきた親子だろう。

 それだけに人間の怖さを知っているのか? 知らなければ人を侮り、襲ってくることが想定された。

 ここに武器はない。バイオマストイレにおがくずを足すスコップは、プラスチック製だし、懐中電灯で殴ったところで、突進してくるイノシシには焼け石に水だ。

「でも、山小屋から引き離さないと……」

 焦っていたので、軽く足踏みをしただけだったけれど、ミシミシ……と床が鳴る音がした。

 親イノシシはそれに気づいて、こちらにゆっくりと近づいてくる。言葉は悪いけれど、ここだって匂いが強い。興味をもって当然だ。

 入り口の近くまできた。そこで地面の匂いをくんくんと嗅いでいる。


 そのとき、ボクは扉を思い切り開けた。飛び掛かって一発殴れば逃げていくことを期待したのだ。でも、その拳は空振りした。

 まずい! そう思ったけれど、ボクがとびだしたときにはイノシシは「ブヒ~~~~ッ!」と逃げだしていた。

 鼻を下げて、匂いを嗅いでいたイノシシの、その鼻先から眉間にかけて、ドアの下の部分がぐい~っと逆立つようにえぐったのだ、鼻先なら硬いだろうが、皮をけずり上げる形になったため、驚いて逃げていったのである。

「助かった……」

 ボクはその場にへたりこむ。トイレからでてきた神乙女は、ボクの背中から抱き着いてきて「よかった……。よかったよぉ~……」と泣いている。これで子供たちに何かあったら、自分のせい……と考えていたのかもしれない。

 ボクの武勇伝になりそうだけど、神乙女とトイレに隠れたり、色々と語れないことも多そうだった。


 ボクは甘い声で目覚める。

「ねぇ~ん♥ 翼ぃ~♥」

 隣に向日葵が寝ていて、ボクに足まで絡めて抱き着いているのだ。太ももをすりすりさせ、胸をおしつけてきて、耳元に寄せる口は、そのままほっぺたにキスしようとするかのようだ。

「一人だけゆっくり眠れたからって、寝不足のボクを起こさないでくれ」

「だってぇ~ん。退屈なんだよぉ」

 甚だ迷惑である……。でも、もう明るくなっているし、朝食の準備もはじめないといけない。

 向日葵とボクが動きだすと、神乙女も起き出してきた。どうやら、朝方のひと悶着で、眠れなかったのかもしれない。


 眠い目をこすって、ボクたちが朝食の準備をしていると、メイプルとマロンが水着ででてきた。

「お湯はつかえる?」

 どうやら神乙女には話していたようで、神乙女は大きな鍋でお湯を沸かしていた。

 毎朝、髪を洗う習慣があるそうで、神乙女が手伝ってシャンプーをつかう。朝から水着もいいものだけれど、ボクは大あくびが止まらない……。

 朝食の準備ができたので、ボクは寝坊すけ組を起こしに行く。

「キャ~~~~ッ!」

 そう、ボクは寝ぼけ眼で朝食を準備していたこともあって、さっき朝シャンをしていたメイプルとマロンのことを、すっかり失念していたのだ。

 ちょうど着替えていたところに、ボクが入ってきたので、大変だ。ボクは「ごめんなさい!」と、すぐ小屋から飛びだしたけれど、二人の悲鳴がよい目覚まし時計になってくれたようだ。

 メイプルが大きなお胸を覆う、かわいらしいピンクの下着を隠す……それは当然のことだけれど、驚いたのはマロンだ。

 これまではスポーツブラで、動きやすさ重視だった。だから体育の後とか、平気でみせていた。なのに、今日は水色の肩ひものない形の下着で、しかもまだ身につける途中だった。つまり、二人ともピンクだった。……否、メイプルは下着がピンクだったけれど、マロンのそれは……。

 草薙家はよくうちにお風呂に入りにくるし、一緒にも入っていたので、今さら驚くことはないけれど、木之元家は一緒にお風呂に入ることはない。むしろ初めてぐらいのことだ。

 あまり大きくはないけれど、マロンのそれは形のよさが特徴である。そして、マロンはボクにみられても、隠そうとはしなかったので、目に焼き付けるだけの時間もあり、それも驚きだった。

 このキャンプ、ボクはまったく気の休まることがなかったけれど、GWのゴールドな体験はできたのかもしれなかった。





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