第15話 キャンプ? 3
キャンプ? 3
山小屋でのお泊り――。
ボクと奎がお風呂から上がると、みんなは発電機を回して、ドライヤーで髪をかわかし終えたところだった。ドライヤーを使用すると、他にはライトぐらいしか点けることができない発電機だけれど、他に電化製品もないのでちょうどいい。
ボクと奎が髪をかわかし終えると、愈々寝る準備だ。
鳥山家の父親が、ボクの家から布団をはこびこんでくれているのだけれど、困ったこともあった。八畳ぐらいの正方形に9人が寝る。小さい子もいるので狭苦しい感じはないけれぢ、密着感が高くなる。
しかも女の子の水着が、天井からいくつもぶら下がる……というのも華々しい光景といっていいのか……。
そしてその前、子供たちでお泊りするときの恒例行事。トイレ待ちだ。
ここは小屋の脇にバイオマストイレがあって、独立した造りである。今は発電機から引っ張ったライトを点けているけれど、発電機を止めたら真っ暗。だから寝る前、みんなトイレに行っておくのだ。
女の子なので一人一人の時間がかかるし、バイオマストイレは湿気が溜まるとよくないので、かき混ぜたり、上からおがくずを追加したり、といった作業も必要となってくる。
だから余計に、行列になってしまうのだ。
「私、ここ!」
向日葵は最年長にもかかわらず、子供っぽくそういって、一番奥の寝やすそうな場所をキープする。
そして一番扉に近いところにボク。ここが決まれば、後は早かった。ボクの隣を奎が陣どり、真ん中に津紅実とポロニアが、壁に近い位置に神乙女、メイプル、マロンが位置する。
この山にクマはいないけれど、イノシシは隣の山からちょくちょく入ってくるそうなので、これが何かあっても対応できる形なのだ。
寝るときもガールズトークなんてしない。いつも一緒のメンバーだ。余計なおしゃべりwもなく、朝から少しの山登りや、カレー作りなどで色々と疲れていたこともあって、眠りについた。
ボクが眠りについてほどなく「ねぇ……。ねぇ……」と、身体を揺さぶられる。
目を開けると、津紅実がボクを覗きこんでいる。
「どうしたの?」
「おしっこ……」
ボクは傍らにあった懐中電灯を手に、眠気をこらえて手をつないでトイレまで付き添いだ。
さすがにトイレが外、というのは小さな子供にとって怖い。ボクがついていくことを考慮し、ドアの近くで寝ているのである。
実は怖がりの神乙女や、寝ると朝までぐっすり……という向日葵ではその任に足りない。ボクしか年長組で適任者がいないので、これは必然でもあった。
「ねぇ、……いる? ……いる?」
「いるから、大丈夫だよ」
トイレの中から声がするたび、そう応じる。声を出していた方が、野生動物が近づきにくいのでよいけれど、中からする音まで聞こえてしまう。まだ津紅実は気にしていないようだけれど、ボクの方が気にしてしまう。
そして、津紅実ばかりでなく、ボクは次々と起こされることになった。そう、それは「重い、重い」と文句を言いながらも、向日葵がもちこんだジュースのせいだ。
恩納村ではコンビニもなく、自販機もほとんどない。わずかに鳥山家のお店で少しジュースをおく。子供たちがふだんから飲むのはお茶や麦茶で、隣町のスーパーに行ったときに買うぐらい。今回、鳥山家のご好意でジュースが差し入れされた。それをみんな、お風呂上りに飲んだためにトイレが近くなったのだ。
「神乙女も?」
「……も?」
「あぁ、いや。じゃあ、行こうか……」
そろそろ、空が白みだすころ……。何となく、これまでの小さい子と同じように、手をつなぐ。神乙女は少しびっくりした様子だけれど、小屋からトイレまでのわずかな距離を、手をつないで歩く。
さすがに神乙女は、音を気にして「少し離れた位置にいてね」といい、ドアを閉めた。ボクだってそんな趣味はない。結局、ぐっすり組の向日葵、奎、ポロニア以外の全員の付き添いをした。
メイプルのときは大変だった。「手をにぎっていて! 音は聞かないで!」という注文で。扉から手をさしいれながら、耳を抑えるという離れ業を要した。離れ、だけに……。
でも、もう朝になるし、これでボクの付き添いも最後……。そう思って、辺りを見回したとき、それをみつけてしまった。
ボクはゆっくりと開き始めたトイレのドアに、思わず駆け込んでしまう。
神乙女も、いきなりボクが飛びこんできたから、びっくりした様子だ。しかも、自分が用を足した、すぐ後である。それは失礼というか、ぶしつけと言っていい暴挙でもある。
「ど……?」
「しッ!」
ボクは声をひそめて「イノシシだ……」
ドアを細く開けて、神乙女も外をのぞいて、そこに大きなイノシシがいるのに気づく。しかも小さな子供を4匹ほどつれており、もっとも危険、とされる野生動物の姿である。
「山小屋のドアは?」
「閉めてきたよ。開けられないと思うけど、中で誰かが気づいて騒ぎだすと、ドアを突き破るかもしれない……」
そう、それはこの小さな掘っ立て小屋の、バイオマストイレの小屋も突進などされたら一溜りもないはずだった。
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