第13話 キャンプ? 1
キャンプ? 1
「GWはどうするの?」
神乙女に聞かれても、誰も「別に……」と応じる。田舎に、そんな黄金に輝くような週はない。
何しろ草薙家は農家なので、長期で家を空けることなどできないし、木之元家も父親が医師で、交代要員が多くいるわけでもない小さな医院で、長い休みはとれない。うちの天空家は役所勤めなので、休みはとれるけれど、高校生の昴が部活動をしていることもあって、家族そろってでかけることはない。日帰り……の行動範囲だ。
「鳥山家はどこか行くの?」
メイプルに訊ねられ、神乙女も首を横にふった。
「行くなら聞いてないよ……。お祖母ちゃんがお店を閉めないし、お父さんが春の山菜取りをするから、どこにも行かないって」
鳥山家では、山菜も重要な収入源であり、種をとったり、植え替えるなどして環境の合いそうなところで育て、それを収穫するのだ。
この時期だと、フキノトウは終わり、ギボウシの新芽のウルイ、モミジガサの新芽のシドケ、ツリガネニンジンの新芽のトトキ、赤ミズと呼ばれるウワバミソウ、なんかが有名である。
「GWなんてはしゃぐのは、都会モンだけさ。私たちには、私たちの春がある!」
向日葵は勇ましいけれど、本音は悔しいはず。
「それで、子供たちで小屋にお泊りしない? という誘いなんだけど……」
鳥山家は山の上に作業用の小屋がいくつかあり、そこに子供たちだけで泊まろう、というのである。
「お泊り会なら、うちですれば?」
奎が当たり前にそういう。これまでも、子供たちのお泊り会といえば天空家、と決まっていた。家が大きく、空き部屋があるからだ。
「キャンプをしたいんだよ、お姉ちゃんは」
津紅実がそう助け舟をだし、神乙女も頷く。
なるほど、天空家に泊まってしまうと設備はすべて整っているため、キャンプ気分は味わえない。
「確かに、珍しくうちにもお客がくるから、子供たちだけで泊まる、というのは難しいんだよな」
ボクがそう補足すると「じゃあ!」と、神乙女が勢いこむ。
「じゃあ、サバイバルにしよう! 釣った魚と、狩った獲物、とった山菜だけで生活するっていう……」
向日葵はどうやら、方向性を間違えているようだ。
「私は……ふつうのキャンプがしたい!」
神乙女はそう熱望するけれど、、向日葵が入って、ふつうのキャンプになるわけもないもので……。
そこは近くに沢があって、水が豊富。外には竈もあって、生活するのに便利であることが決め手となり、子供たちだけの一泊キャンプの場所にえらばれた小屋である。
しかし山奥のここで、問題があるとすれば二つ。
そこはただの小屋。電気は一応、自家発電機をおいてあり、鳥山家の父親が燃料を満タンにしておいてくれたので、一晩なら余裕でもつ。お風呂は外にドラム缶風呂がおいてあり、外にバイオマストイレもある。
でも、小屋はただのバンガロー。部屋は一つで、八畳ぐらいの正方形。当然、着替えや、寝るのもその一つの部屋。
そう、女の子だけならよいが、男のボクがいることで大問題が生じるのだ。でもみんなまったく頓着していない。いつものこと、としてボクがいてもお構いなし、それが大問題だ。
「じゃ~ん!」
早くも女子だけで部屋にこもって、出てきたら水着だった。
「まだ水は冷たいよ」
「だから、翼はお風呂を沸かしておいてくれよ。今晩のおかずをとってくる!」
勇ましく向日葵はそういう。沢にいって、魚やカニをとってこよう、というのである。参加するのは他にマロン、菫だ。
サバイバルをしたい向日葵との折衷案で、向日葵を尊敬するマロンと、実妹の菫が強引に巻きこまれた。他のみんなは飯盒でご飯を炊き、カレーを作る。
ボクはドラム缶風呂や、竈に火を入れる担当である。
「え⁉ 奎ちゃんはカレーにチョコを入れるの?」
「コクがでるんだよ。うちでは常識だよ」
「パクチーも入れようよ。もってきたから」
メイプルが保冷袋にいれたパクチーをとりだす。カレーをつくるだけでも、各家庭の味が違って大変だ……。
「寒~ッ!」
向日葵たちが走ってもどってきた。ドラム缶風呂に入るよう、台が置いてあるのだけれど、向日葵が「一番~ッ!」と飛びこんですぐ「熱ッ! 熱ッ!」と飛びだしてきたから大変だ。
駆け寄ってきたマロンと、菫とぶつかって、みんなで台から落ちそうになる。
ボクは助けに入ったのだが、それが間違いだった。水着姿の三人と、絡みあうよう倒れたからだ。
ラッキースケベの定番、複数の女の子と絡みあって倒れる。しかも女の子は水着、という展開になってしまった……。
まだ肌が冷たくて、それが刺激的だし、何よりぬるぬるの柔肌が何ともうまく絡まったもので……。それに、なぜかマロンが密着したボクの股間の辺りをずっと凝視している。
「これは……見事にからまったね」
奎がため息をつく。
「あ、動くな。水着が脱げるだろ⁉」「いや~ん」
みんな結構、面積の小さな水着でその分肌感が高く、変な引っかかり方をしたら外れてしまう。そんな緊張感と羞恥プレイに耐えつつ、ボクはこのキャンプで懸念していたトラブルを早くも発生し、動揺するのだった。
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