第11話 薪は割れても……
薪は割れても……
「ちょっと、家の手伝いに来てほしいんだけど……」
神乙女からそう言われた。彼女の両親は林業をしており、それが代々の家業だったそうだ。
しかし、祖母は雑貨屋を営んでおり、彼女の実家は一階がその雑貨屋で占められている。コンビニもないこの村で、雑貨商は貴重だ。
「久しぶりだね、鳥山家!」
ボクが行くというと、奎と木之元家の面々もついてきた。草薙家は今日、収穫のお手伝いがあり、遠慮した次第である。
「ただいま~」
津紅実がそういって雑貨屋のドアを開けると、白髪の老婆が一人でお店番をしている。
「お帰りなさい。あらあら、千客万来ね」
鳥山 鈴芽――。まだ七十手前で、老けた感じはしないけれど、夫を早くに亡くしながら、女手一つで子供を育ててきた、肝っ玉なところもある。
雑貨屋も、子供を育てるためにはじめたもので、小さい子供をかかえ、家でできるものをはじめたそうだ。
「お菓子を食べるかい?」
そういって、駄菓子をみんなに配ってくれる。今では林業で生計を立て、雑貨屋はあくまで村人から「便利なので続けて欲しい」といわれてつづけるだけだ。駄菓子などもおいてあり、昔からここにくるとお菓子をくれる。メイプル、マロン、ポロニアはそれ目当てなのが明白だった。
「それで、お祖母ちゃん。翼君に頼みたいことって?」
「あぁ、こっちに来ておくれ」
そういうと、家の裏に二人きりで連れていかれた。くるりとふり返ったお祖母ちゃんは「神乙女とどうなんだい?」
「え?」
「え? じゃないよ。もうキスぐらいしたのかい?」
「し……しませんから」
「何だい。胸の一つでも揉んで、もう子づくりしたっていいんだよ」
あぁ、忘れていた……。時おり、こうして神乙女と付き合うよう、促してくる人だった。
鳥山家は、なぜか女性しか子供が生まれないそうだ。神乙女たちのお父さんも、お祖父ちゃんも婿入りした。村で男の子供はボク一人、鳥山家の存続のためにも、婿として迎えたいらしい。
「それを確認するために呼んだんですか?」
「いやいや、そういうわけじゃないよ。薪割りをして欲しくてね」
鳥山商店の、格安の薪を我が家のお風呂や、薪ストーブにもつかっている。製材したさいの端材をつかっており、特に村の移住者であるボクたちの家には安く卸してくれるのだ。
神乙女の両親が忙しくて、端材が溜まってしまったので、ボクの手を借りたい、ということだ。断りにくい案件でもある。
「お兄ぃ……。薪割りか」
奎が裏にまわってきて、ボクをみて納得する。みんなも家の裏にまわってきた。
丸太などは機械で割るけれど、細い枝などは斧をつかい、昔ながらの方法で割る。神乙女たちは機械で丸太を割る方のお手伝いだ。
「私もやってみたい!」
奎がそういって、斧をにぎるけれど、持ち上げることさえやっとだ。運動は得意のマロンでさえ、持ち上げることはできても狙ったところに振り下ろせない。
「神乙女ちゃんはできるの?」
メイプルにそう訊ねられ、神乙女は軽くひょいっと持ち上げると、そのまま薪をスパッと割った。
「できるんだけど、数をこなせなくて……」
でも、みんな何となく気づく。重い斧をふり上げられるのは、前にバランスをとる錘がついているためじゃ……と。そして、それが見事に大きく揺れ、何回もくり返したらとれてしまいそう……と。
「メイプルちゃんもやってみる?」
よりにもよって、神乙女が斧をメイプルに渡した。神乙女の次に……と誰もが不安と期待……、期待はボクだけだけれど、抱きながら見つめている。
「よッ! お……っと、っと、キャッ⁉」
メイプルは振り上げられたものの、そのまま尻もちをついてしまう。スカートがめくれ、下着が丸見えだ。向日葵やマロンとちがって、おしとやかなメイプルは見せショーツではなく、ふつうの下着であるため、ボクも目のやり場に困る……。
「みんな、ご苦労だったね。うちのお風呂にでも入っていくかい?」
お祖母ちゃんがそう声をかけてくるけれど、ボクは遠慮することにした。神乙女とのラッキースケベ展開……祖母が画策して、そうなることは目に見えているから。
「でも、お茶ぐらい飲んでいって」
神乙女にいわれ、二階へと上がる。祖母は一階で暮らし、二階にLDKがある造りで、リビングで待っていると、神乙女がみんなにお茶を淹れてくれる。
でも、汗をかいたのに熱いお茶をだす……というのが神乙女らしいし、何より襟のゆるいTシャツに着替えたため、そこが大きく開いて、覗いてしまう大きな胸……。勿論、ブラをするので直接みえるわけではないけれど、谷間が魅惑で、眼が離せなくなてしまう。
これを狙ってやっていたら怖いけれど、神乙女はほとんど天然である。でも、お祖母ちゃんの言葉を思い出す。
「胸の一つでも揉んで、子づくりでも……」
神乙女がちょっと油断して、明け透けな姿をみせるのは、鳥山家の婿とりにとっても都合よくて……。
そのとき、こっそりと物陰からこちらを覗くお祖母ちゃんの姿に気づき、割り切れない思いを抱くのだった。
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