第10話 キスマーク
キスマーク
「ふぐぉッ!」
朝からいつもこうして、ヒップアタックを喰らって起きるのは心臓に悪い……。そう文句をいおうと目を開けると、そこには向日葵でなく、奎がいた。
「あれ? もう起きたのか?」
寝るときは全裸のはずだけれど、今はパジャマを着ている。そして、その目はなぜか怖かった。
「起きたんじゃない! 起こされたの! 朝からパイルドライバーを喰らって‼」
どうやら、今日は向日葵がボクではなく、奎を先に起こしたようだ。しかし、寝起きの悪い奎にてこずり、ベッドの上で逆さにもちあげると、そのまま脳天くい打ち、というプロレス技をかけたらしい。
「絶対、ベッドのスプリングがいくつか逝ったよ。何とかしてよ!」
「何とかっていっても……。朝からハードな起こし方をされると、心臓に悪いってことを奎も学んだだろ? だったら、それをお兄ちゃんにするんじゃない!」
「向日葵が起こしておいてっていうんだもん。お兄ぃは朝弱いから、飛び乗ればいいって……」
「朝弱い、というのは間違いだ。朝6時に起こすから、びっくりして飛び起きるんだよ。ちゃんと7時に目覚ましをかけているのに……」
「でも、私に起こされて、今日は幸せな朝だったでしょう?}
「そうだな……。奎を起こしにいかなくて済むっていう程度には……」
「お兄ぃのバカ!」
もう一回、腹にドスンとお尻を落としてから、奎は飛びだしていった。
奎を起こす仕事はなくなったけれど、今日は母親から「張を起こして」とお願いされた。
保育園にいくのは母親の送り迎えがあり、ボクらより遅く起きても問題ない。いつもは母親が起こすけれど、今日は忙しいらしい。
張は両親と一緒に眠っている。ちなみに、父親も朝早くに出かけてしまう。お役所勤めだけれど、農業振興課にいるので、朝から作業をする農家さんに合わせて動いているのだ。
高校生の昴のため、早起きする母親と、父親もほとんどそれに合わせて出かけるので、両親の寝室に張一人で眠っている。奎のように全裸ということはないけれど、小さい子らしく寝相が悪い。
「張、朝だよ。起きなさい」
張は決して朝、弱いというわけではない。パッと目を開けると「兄に!」とボクに飛びついてきた。
奎のお兄ちゃん子ぶりが張にも影響して、こうした過度なスキンシップを求めてくる。
ちなみに、天空家の名前について少し説明しておくと、姉の昴は『すばる』とそのまま読むけれど、ボクは翼と書くけれど、読みは『たつき』だ。奎は、自分でも『けい』と名乗っているし、みんなもそう呼ぶけれど、正式には『とかき』である。張は『ちりこ』だ。
これは星宿という、暦法の読み方をしているからである。
張に甘えられ、ボクが抱っこしてキッチンに入ると、もうみんな食べ終えて、そろそろ学校に行くところだ。
「早く行こう!」
奎がちょっと拗ねたように、ボクの手をひく。ボクも苦笑しつつ、張を母親にあずけると、家をでた。
あまり多くないけれど、奎が張に嫉妬することがある。それまで末っ子の地位に甘えていたのに、六歳も下の妹ができた。愛情が奪われた……と感じることが時おり行動にでる。
奎がボクに飛びついてきて、抱っこする形になった。さっきの張をみて、自分もそれをしたくなったのだ。
「この歳で抱っこなんて、恥ずかしいだろ?」
「恥ずかしくないよ~っだ」
そういって、奎はボクの首に吸いつくぐらいにして、顔をうずめてくる。甘えん坊モードだ。
赤ちゃん返りともされるけれど、奎ももう小学五年生。それなりに大きいし、それは諸々の部分で……。
「今日は奎ちゃん、甘えん坊さんだね。いいなぁ~……」
メイプルがそうつぶやく。メイプルは木之元家の長女なので、甘えられるお兄ちゃんとして、ボクに接してくることがある。さすがにメイプルは抱っこできない。それは色々なところが大きくて……。
でも、さすがに三歳ちがいの妹を抱えたまま、学校まで行く体力はない。特におんぶではなく、抱っこなら尚更だ。
「ほら、下りて」
そういうと、奎はボクの首筋に吸い付いてから、ぴょんと飛び下りた。
それに触発されたのか、ポロニアがボクと手をつないでくる。 田舎なので、車が少ないとはいえ、それでも危ないこともあって、最年少のポロニアとはよく手をつないで登校するのだ。
学校に到着すると、神乙女から「どうしたの、首?」と訊ねられた。
ボクもハッとする。そこはさっき奎に吸われたところ。つまりキスマークをつけられたのだ。
神乙女はまだ意味を知らない様子だけれど、奎をみるとニヤッと笑う。
確信犯か……。
奎のお兄ちゃん好きぶりは、張が生まれた時に彼女が甘えられる存在が、ボクだけになったことが大きいと思っている。だから毎日ではないけれど、未だに一緒にお風呂にも入るし、ボクに敏感なところを摩られても「エッチ!」というぐらいで、遠ざけたりもしない。
キスマークも愛情表現と考えれば可愛いけれど、惣子先生にみられたら、その意味を知られるのではないか? そこは甘えが赦さないので、ボクも今日はドキドキだった。
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